『股間若衆』


図書館にて、帰る間際に目に留まった表紙の見出し。サブタイトルには
「日本近現代彫刻の男性裸体表現の研究」
と銘打ってありました。

いいえ、いかがわしい本ではありません、これは月刊誌「芸術新潮」5月号の記事で、かしこくも(?)東京大学で文化資源学とやらの教授をやっている人が書いたものです。

みなさん、「全女股ク」って知ってますか。糸井重里が主宰する「ほぼ日刊イトイ新聞」というサイトで、オリンピックや世界陸上などの大会のときに結成される読者の会の略称で、正式には「全日本女子股間倶楽部」。水泳や陸上競技など、世界のトップを争う選手達のパフォーマンス・・・ではなく、試合用のぴったりとしたユニフォームの股間をチェックするという活動を行っています。

投稿こそしないものの、そのコーナーの愛読者の私としては見逃せない特集じゃないですか。「股間若衆」。椅子に腰掛けて文字どおり腰を据え、ぱらぱらと当該ページをめくると、冒頭にはこうあります。

西洋美術では人体表現の基本はヌード。それを学ぼうとした日本人にとっては、男性の股間をいかに表現するか、まさに「沽券」にかかわる大問題となって。幕末から現代まで、「古今」の美術家たちの葛藤と挑戦に光をあてる。

股間と沽券と古今など、なんとわざとらしくかけていることでしょうか。しかも、本文中には「曖昧模糊」を文字って、「曖昧もっこり」なんて表現もあります。東大教授の木下先生よぉ・・・。

しかし、これはれっきとした芸術に関する考察なのだ。堂々と表現したために展覧会では官憲によって腰布を巻かれている彫像、ならばと最初から腰布を巻いた状態で彫ったもの、「はっぱちゃん」が貼り付いた彫像など、カラー写真つきでさまざま解説されている。

仲でも面白かったのが、松本喜三郎という幕末から明治にかけての人形作家の手によるものである。明治8年、北海道開拓顧問のアメリカ人・ケプロンが帰国する際、貴族および農民の男女をそれぞれ一対、松本に注文して持ち帰ったもので、スミソニアン博物館に所蔵され、数年前に日本の展覧会に凱旋(?)帰国したという。

ケプロンは日本人の風体を祖国に伝えるために作らせたので、この人形たちは当然、貴族は貴族、農民は農民らしい衣服を着せられているのだが、いったんそれを脱がせて見ると、見事に日本人らしいリアリティのある体躯をしており、そのディテールは股間も例外ではない。帰国日程の迫ったケプロンは松本に完成を急がせたが、松本は
「外国に行く人形だから、日本の恥にならぬように細心の注意を払って作らなければならない」
と言って、恥ずかしいところまで微に入り細に入り作った・・・という逸話も載っていました笑 

一見の価値あります。図書館に行かれた際には、ぜひ「芸術新潮 5月号」をごらんください。