『アラミスと呼ばれた女』 宇江佐真理

図書館で借りた本。

アラミスと呼ばれた女

アラミスと呼ばれた女

釜次郎という名で登場した男が榎本武揚であることに、しばらく読み進むまでまったく見当がつかなかった。宇江佐さんといえば時代小説の中でも市井の人情ものの名手だという認識だったのだ。でも、考えてみたら、北海道出身にして在住の宇江佐さんは、江戸〜明治にかけての蝦夷地や松前藩を舞台にした小説もいくつか上梓している。釜次郎さんがオランダ留学するあたりで、なるほど五稜郭を描くのね!と気づいた。

いわゆる女の一代記なので、少女から成長し恋をして子供を産んで・・・というダイナミックな流れのままにページを繰る手は止まらず、一気に読み終わった。しかし、あこがれを覚えたり入れ込んで泣けたりするような感覚になれなかったのは、私が分別くさい三十女になったというのもあるかもしれないが、やはり宇江佐さんの筆がいささか上滑りしてたからってのもあると思う。

史実をもとに小説を書くって、やっぱりとても難しいことなのだ。でも、北海道の歴史を縦糸に人間ドラマを編むのは宇江佐さんのライフワークのひとつだろうし、北海道の読者にはとてもうれしいものだろう。

主人公が釜次郎こと榎本武揚に愛されていることを実感し、そのことに誇りを抱きながらも、
「でもあの人には奥さんがいる。結婚以来、維新のごたごたで家をこんなに空けがちなのに、3人の子供もいる。きっと二人は、実は仲のいい夫婦なのだ」
と述懐するとこなんか、男女関係のとらえ方がすごく宇江佐さんらしくていいなと思った。