『ねこのひたいほどの家』(横森理香) 今の横森さんは、過去とも違うし、未来にはまた変わるのだ

猫のひたいほどの家 (文春文庫)

猫のひたいほどの家 (文春文庫)

25歳で2度目のひとり暮らしを始めるとき、おおいに参考にしたのが、そのころ新刊だった彼女の『横森式シンプル・シック』という本。
横森式シンプル・シック (文春文庫PLUS)

横森式シンプル・シック (文春文庫PLUS)

大学生のときは「家は寝るとこ!」みたいな感覚があり、お金もないのでありあわせだらけの部屋づくりだった。もちろんその部屋だって私には今もとても思い出深いのだけど、2度目のときは、初めから違うコンセプトだった。

それがその本「横森式シンプル・シック」にあったとおり、「自分にとって居心地のいい家を作る」ってこと。そのためのアプローチとして、家具・家電、生活用品のそろえ方や、自炊・生活習慣に至るまで、この本にはいろいろなことが書いてあった。まあ簡単に言っちゃえば、「スローフード」「スローライフ」が注目され始めた頃だったんだろう、ちょうどそのころ、「クーネル」も隔月化されたんじゃないかな。この本も、基本的にはそういうスタンスの本だった。で、もちろんすべてを取り入れたわけじゃないけど、けっこうバカみたいに実践に移していた当時の私である(笑)。

現実には、その後、仕事が抜き差しならない忙しさになり、またしても「家は寝るとこ!」みたいな状況も長く続いたのだけれど、暮らしを始めるときにそろえたもの等が減るわけではないので、ある種の「居心地のよさ」を保つことはできたし、そういう経験によって、横森流を私というスパイスで味つけした(うえっ、書いてて自分でも気持ち悪い表現)生活観は、今でも身にしみついているのである。

横森さんという人の書くことは、教義的にならないから面白い。こういうライフスタイル本や、ダイエット本、育児本などいろいろ出してるけど、どれも「私は絶対にこれを貫きます! これこそが最高にして唯一の価値観なのです!」てところがなくて、時間の経過によって、書いてることがけっこう変わっていくのである。いわく、「時間が経てば家族が増えたり減ったりもするし、年をとることによって体も変わるし、生活や考え方が変わるのはあたりまえ。いつまでも昔のやり方にしがみついている必要は全然ない」そうで、確かにそのとおりなのである。

だんなさんと2人暮らしのときに書いた賃貸マンションの大幅リフォームについてを含む『シンプル・シック』から6年以上が経ち、その後生まれた娘さんが小学校に入る前にと家を建てる決心をしたところから始まる今回の『ねこのひたいほどの家』にも、かつてとは違ったスタイルがいろいろと取り入れられていて、「今となっては、(昔、自分が著書で推奨していたやり方のこと)あんなこと、とてもじゃないけどやってられません。」みたいに、あっけらかんと宗旨変えが書いてあっておかしい。

その“頑なさの、無さ”は、こういうライフスタイル系のハウツー本?みたいな世界では珍しいのだが、実際、私が読んで面白いのは、この人間くささだし、これでこそ人生楽しめるってもんだろうなーと思う。もちろん、お風呂大好きの横森さんだから、家を建てるとなったら、(居室の狭さを甘んじて受け容れてまでも!)広々としておしゃれなお風呂スペースを確保したりするような変わらないこだわりの部分もある。

今んとこ、私には家を建てる(買う)予定など全くないので、今回は特に何かを参考にしようと思って買ったわけでもなく、ただ純粋に、現在の横森さんのライフスタイル拝見!てなもんで、読むと「おーおー、相変わらず、横森さんは元気そうだ」というのが感じられた楽しい読書でした。