ぐるりのこと(梨木香歩 新潮文庫)

ぐるりのこと (新潮文庫)

ぐるりのこと (新潮文庫)

一見とりとめのないような思考がつながり、みるみるうちに深化していくのは梨木さんエッセイならではの味わい。本当に真の知識人だよなーって思う。amazonの書評では「知ったかぶりの上から目線」みたいなこと、ばっさり書かれてあったけどね。マニア的な興味の対象をもたない人がそういう感想を持つのは、まあ、わからんでもない。

歴史や風俗、そして植物や菌類に至るまで、この人の知識はすごい。しかも洋の東西を問わず、古代から近現代に至るまで本当によくご存じだし、それらは机上ではなく留学や旅行、フィールドワーク、そして彼女の生活そのものを通じて貯えられたものらしい。そんなさまざまな知識を通じて、この世の中のことを「深く深く考える」ことの大事さについて、これまでのどの本よりもはっきり言及してあって嬉しかった。私も30代のこれから、世の中のすべてを、、、というのはとても無理だが、自分に興味のある分野についてはもっと深く掘り下げていきたいと思っている。

それにしても2年くらい前からこの人の著作が本当に好きだー。20代後半に出会った作家でもっとも感銘を受けたのがこの人かも。『西の魔女が死んだ』はベストセラーになったけど、私がこれまでいちばん感動したのは、昨夏に読んだ『村上エフェンディ滞土録』、次点は一昨年の春?に読んだ『春になったら苺を摘みに』である。

で、思うに、「西の魔女」ほど取っつきやすいものは、この人は当分、書かないんじゃないかという気がする。売れたいとか全く思ってなさそうだし、担当編集者さんも、この人に関しては商売ッ気を出すのをあきらめてる気がする。『ぐるりのこと』を読んでもつくづくそう感じた(その割に、私が買ったのは第3刷だったので、やっぱ好きな人は好きなんだなーと思った)。私は梨木さんがこれからもっと気難しげな作品を書くのも楽しみだ。

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

村田エフェンディ滞土録 (角川文庫)

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)

春になったら苺を摘みに (新潮文庫)