『平成遺産』より「ロスジェネを救え? いや、救ってもらえ」 ブレイディみかこ

平成遺産

 

今年のベストセラーのひとつ、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の作者であり福岡は修猷館高校の出身でもあるブレイディみかこさんの寄稿「ロスジェネを救え? いや、救ってもらえ」がおもしろい。
 
平成の三十年間の新語・流行語大賞を経済的な観点(もちろん経済は政治と密接にかかわり、社会に影響を及ぼす)から振り返るというもの。こうして縦軸(歴史)として振り返ることで見えてくるものがある。
 
●平成元年‥‥「デューダする」「24時間タタカエマスカ」
新自由主義≒「生涯雇用などない、あなたの価値は市場が決める」の輸入。
本来、転職社会になれば雇用主への忠誠心は薄れるはずだし、24時間働くと転職活動もままならないはず。両立しえない言葉が並んでいる。日本の労働をめぐる矛盾が既に露呈。
 
平成2年‥‥「バブル経済
●平成4年‥‥「カード破産」
●平成5年‥‥「規制緩和」「清貧
規制緩和ネオリベへ、清貧は自己責任文化へと一直線につながっており、現在日本の諸問題の発端が既に見える。
 
●平成6年‥‥「同情するならカネをくれ」「価格破壊」「契約スチュワーデス」「就職氷河期
バブル崩壊の影がありありと。
 
●平成8年‥‥「友愛 / 排除の論理」「援助交際」「閉塞感」
23年前の流行語がそのまま今でも通用。平成は、テクノロジーはすごい速度で進歩したが、それ以外はずっと足踏み状態か。
 
●平成9年‥‥「時のアセス(メント)」「郵政3事業」
公共事業に時間のものさしをあてて妥当性を再評価すること。緊縮の端緒が見える。
 
●平成10年‥‥「米百俵」「聖域なき改革」「恐れずひるまずとらわれず」「骨太の方針」「ワイドショー内閣」「痛み」
すべて小泉純一郎の語録。経済のグローバル化と国内の貧困の進展。
 
●平成10年‥‥「貸し渋り
●平成14年‥‥「貸し剥がし
●平成15年‥‥「コメ泥棒」「年収300万円」
せっぱつまってきた感。
 
●平成16年‥‥「自己責任」「負け犬」
新自由主義のソウルともいえる言葉が登場。
 
●平成17年‥‥「富裕層」
●平成18年‥‥「格差社会
今さら気づいたかのよう。
●平成19年‥‥「消えた年金」「ネットカフェ難民
 
●平成20年‥‥「蟹工船」「埋蔵金
何ゆえ21世紀にプロレタリア文学が復活?!(エミ註:蟹工船小林多喜二ね。昭和8年特高によって拷問死)
この破壊力ある並びに、平成日本独特のものを感じる。
大変すぎる現状、なぜそこまで我慢するのかという凄絶な現実がありながら、根拠もないドリーミング、「みんな夢を見ようよ」とか言っちゃう空気。
過労死者が続々と出ているのにふわっとした期待だけで乗り越えようとする政治。
過酷とキュート、アニソンと軍歌、シュークリームの形をした奴隷船。
…のような極端なアンバランス。
平成20年はリーマンショックの年でもあり、「サブプライム」「ロスジェネ」も流行語リストに載っている。
 
●平成21年‥‥「政権交代」「派遣切り」「ファストファッション」「ゼロゼロ物件」「貧困」「年越し派遣村」「ハウジングプア」
アメリカではオバマが大統領就任。日本も政権交代で「時代は変わる」的な高揚感もある中、ポジティブなムードにはそぐわない不況色の強い言葉が並んでいる。
また「女子力」「サムライジャパン」など、いきなり時代錯誤な言葉がランクインして、不況と保守化のリンクも示されている。
 
●平成22年「ゲゲゲの」
平成23年なでしこジャパン
平成24年「ワイルドだろぉ」
総じてふわっとしている。
 
●平成25年‥‥「オ・モ・テ・ナ・シ」「アベノミクス」「ブラック企業」「特定秘密保護法」「ヘイトスピーチ
流行語大賞というより問題語大賞。
ちなみにくまモンが授賞式に出席し、シュークリームの形をした奴隷船ぶりは健在。
 
平成26年‥‥「集団的自衛権
平成27年‥‥「アベ政治を許さない」「一億総活躍社会」「SEALDs」
平成28年‥‥「マイナス金利」「保育園落ちた日本死ね
●平成29年‥‥「忖度」「フェイクニュース
平成のはじめにイギリスに移住し、ほとんど本拠をそちらにおいていたブレイディさんが、ライター業のため頻繁に帰国し長期滞在もするようになったのが平成28年ごろから。
「なんだかんだ言って私の祖国はリッチ」という先入観がまったく誤りであり、20年以上経っても物価も賃金も変わっていないことに驚いたという。



以上、ブレイディさんがセレクトした流行語とコメントをピックアップしてみました。
こうして見ると、私としましては、
 
当時子どもだった世代にまで「悪夢」「暗黒」というイメージが何となくしみわたっている民主党政権時代(平成21~24年)の4年間だけでなく、平成の30年間は総じてかなりしんどい時代であったこと、グローバリズムの影響が大きいこと、
長い不況のあとの右傾化という「いつか来た危ない道」、
さらにその中で、第2次安倍政権が始まって以来、戦後日本の社会の枠組みを大きく変える法律等が矢継ぎ早に制定されたこと、
そして、それら直接的な政策や法律のみならず政権が作ってきた「空気」は、たとえ安倍政権が終わっても引き続き、大きな脅威として社会に存在し続けるだろうことを感じる次第です。
 
みなさんはいかが感じられましたでしょうか?
 
この本、ほかの寄稿もおもしろいものがあったので、また紹介できたらと思います。