『世界まちかど地政学NEXT』 藻谷浩介

世界まちかど地政学NEXT

「日本の等身大の実力」。
シリーズ前作に引き続き、世界各地を訪ねたレポートから著者が読者に見せたいのはそこ。
「日本も今後はヤバいよね」という私たちの “ フワッとしたイメージ ” に待ったをかける。

「日本ほど真面目な国が食べていけなくなるなら、他の200か国のほうが先に破滅するよ」というのが、世界の人の常識的な反応だ。

 

レポートされるのは、ラオス東ティモールなどの途上国問題。
旧ユーゴ諸国などの民族問題。
ルクセンブルクモナコなど極小国に見る国民国家の問題。
そしてニューヨークに見る都市問題。

たとえば、グローバル経済の触手。

今やデパートや巨大ショッピングモールは世界各地にある。
パラグアイボリビア、ヨルダンのような途上国も例外ではなく、そこでは衣料品にせよワインやチーズにせよ外国製品が売られている。街には日本や北米など輸入車が走っている。
援助や投資によって外国から流れてきたお金が これら外国製品の売上に代わり、結局はまた外国に流れて行く。

つまり、デパートやモールがどれだけ潤っても、国内にお金が循環するわけじゃない。
もちろん、そのような高額商品に手を出せるのは一部で、スラム街やテント暮らしの国民もいる。
グローバル経済は貧者を救ってはいない。
 
また、たとえば民族問題。

第二次大戦時、ナチスドイツの侵略を不屈のゲリラ戦で退けながら、'90年代に激しい内戦を経て分裂した旧ユーゴスラビア7か国。
旧宗主国であるオーストリア帝国も含め、民族間には複雑かつ根深い対立があり、オリンピックの代表選手団が地元の観客に暴行を受けるほどだから、その憎悪や恨みは現在の日韓対立どころの話じゃない。

とにもかくにも、現代の世界を動かしているのはハードパワー(国が行使する軍事力)よりもソフトパワー(文化力、人口圧力、宗教、民族意識、カリスマ性…なにより経済力)なのだ。

そのように、世界を知ったあとに我が日本を見ると、
地理的にも気候的にも恵まれた国であり
(だからこそ独立を保ち、そこそこ穏やかな歴史を紡いでこられた)、
今なお貿易黒字を保ち、平均寿命は世界トップクラス、
東京は世界一安全な都会第1位(日本人的にはちょっと危ない大阪ですら三位)、
平和憲法を掲げる善意の国」「真面目で誠実な日本人」というイメージ、
そのイメージを裏切らない日本製品やサービスのクオリティ…

とはいえ、世界各地のレポートの中では、日本が抱える格差問題、地方の問題、外交問題などにも、随時言及がされる。日本のソフトパワーはじゅうぶん健在とはいえ、もちろん鉄壁じゃない。 

であれば、少子化、高齢化による縮小(衰退)も見える今、日本がとるべき道は、このソフトパワーをさまざまな工夫で守ることであり、まちがってもネトウヨ的な排外主義に走って敵を増やしたり、やみくもに万歳三唱して思考停止することではない。

‥‥‥‥‥という著者の一貫した主張には大きな説得力があります。


 
本やテレビなど海外を見せてくれる作品・番組は多いけど、卓越した地理や歴史の知識を携えて自分の足で歩きまわる藻谷さんのレポートは唯一無二!
1,200円(税抜き)で読めるって、これこそが日本のソフトパワーの証左ですw