『小さい言語学者の冒険 ~子どもに学ぶことばの秘密』 広瀬友紀

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子どもの言語習得がどんなにクリエイティブかっていう本。

私はこのテーマをもっとめちゃくちゃ細分化した卒論(学部卒なのでそんなものです…w)を書いたので、最近ちょっと評判になっていたこの本を手に取ってみた。

子どもはまわりの人間がしゃべるのを聞いて、自分でも話すようになっていく。
けれど、子どもの発語を聞いていると、どう考えても大人のマネではない言葉が頻発する。

本書で紹介されているのは、子ども独自の「死ぬ」の変格活用(笑)。

「これ食べたら、死む?」
「ほんと? 死まない?」
「死めばどうなる?」

大人はこんな言葉を発することはないのに、子どものこの誤用は全国的に数多く報告されている。

子どもはおそらく、「飲む」「読む」などマ行の動詞の活用を「死ぬ」に対してもあてはめているのだろうと思われる。そして、ことさら意識的に訓練させなくても、数か月から数年でその誤用は自然と消え、正しく活用させるようになる。

つまり、子どもは実際に聞いたことのある言葉だけを単に真似しているのではなく、
「耳でインプットする」
 ↓
「知っている法則を自分なりに適用する」
 ↓
「アウトプットする」
 ↓
「修正する」

という段階を踏んでいるのだ! 自然に! 勝手に!
たった2歳や3歳でも!
子どもおそるべし!
人間の脳、SUGEEEEEEEE!
というのが私が大学で学んだこと(の1つ)です。

どうでもいい話のようで、私の子ども観、人間観にけっこう影響しています。
ちまたでよく見る早期教育に意味はない。
幼児に文字を教えることの不合理。
個体差は優劣ではない。
子どもは段階を踏まなければ成長しない(一足飛びは危険)

また、
日本語でも英語でも中国語でもスワヒリ語でも…(以下略)
同様の現象が見られるわけで、
日本人SUGEEEEEとか
日本語は世界でもっとも難しい…とかも からきし間違いで、
スゲーのは人間の脳です。
言語や人種に優劣はまったくありません。

うちの子もよく言っていた。

・ふたなどが「開かない」とき「あからない」
・私が選んだ服を着たがらないとき「きらない!きらない!」と絶叫
・「おむつ替えるよ~」と言うと「かえらない!」と言って脱走

全部、誤用である。
でも、「閉まる」は「閉まらない」と活用するから、
「閉まる」の対義語である「開く」について
「あからない」と言いたくなるのもわかるし、
「切る」は「切らない」と活用するから、
「着る」を「きらない」と言いたくなるのもわかるし、
「帰る」は「帰らない」と活用するから、
「替える」を「かえらない」と言いたくなるのもわかる。

むしろ、なぜ
「切る」と「着る」
「帰る」と「替える」
は同じ発音なのに、活用が違うのだろーか?

その違いを、なぜ私たちは当然のように受け入れ、
学齢にもなると、間違えずにしゃべれるようになるのだろうか?
外国語の不規則動詞や、男性名詞/女性名詞なんかも同様。
やっぱり、脳ってすごいよね。

子どもが言語習得中だったり記憶に新しい人は、とりわけ楽しく読めると思う。一般向けに書かれていてとてもわかりやすいです。

私も子どもが小さいころ、習得過程をよく記録してました~
● サクことば(11)満2才3か月 「じゃない」
http://emitemit.hatenablog.com/entry/20121108/1352379363

●サクことば(19)満2歳6か月 否定「〜〜ない」の誤用など
http://emitemit.hatenablog.com/entry/20130203/1359895886

●サクことば(33)満3歳0か月 ニュアンスの言い回し
http://emitemit.hatenablog.com/entry/20130822/1377170021

こういうのを面白いと思った中高生は、進学の際、言語学を選択肢にどうぞ。
一緒に写したのは、私の大学時代に超売れたMITのピンカーの本。これだけは今も本棚に残してる。

ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)