葉月の三 / 沖縄にて / 『村上ラヂオ 3』

●8月某日: 晴れた! 遊ぶ時間の捻出のため、朝食はコンビニのおにぎりですませ(朝ドラの視聴もあきらめてw)ビーチへ! 涼しい…水が冷たい(笑)。ああ、福岡の暑さを沖縄にもってきたい、と思う、もはや地理感覚が狂った2019年である。しかし海は楽しい。徐々に晴れ間ものぞき南国っぽくなってきた。

1時間ほど遊んで、最後にホテルのプールのほうも行きたいというサクの要望でそろそろ移動しようかというとき、この旅最大の事件が起こった。浮き輪がわりに使っていたビニル製の小さないかだが強風にさらわれてサクの手を離れ、宙を舞ったついでに夫の眼鏡をも吹き飛ばしたのである。

夫は焦っていかだを追いかけて海中を走り、やっとのことでつかまえてから気づいた
「俺の眼鏡がない」
えええーーー! 夫は0.01というなかなかの弱視で眼鏡がなければ足元もおぼつかないのである。折しも潮がみちみちて砂浜からすぐに深くなり、波も高く海中は砂で濁っている。

私の頭によぎったのは
「この中で見つけるのは砂漠の指輪を拾おうとするようなもの」
「二次災害だけは起こしてはならない(特に子ども)」
「帰りの運転は私か~?」 

とにかくサクに絶対に足がつかないゾーンへいかないように厳命し、とりあえず海中を探すが見つかるはずはない…。というところで「あった、あった」と叫ぶ声。サクが浅瀬の中を泳いで見つけたらしい。すげっ。サクが家族の危機を救った…。しかし「これに味をしめてはならない、海の中では過信は禁物、小さな慢心が大きな事故につながる」と言い聞かせる。夫は来年は度つきゴーグルを買いなさい、またはスペアの眼鏡を持ってきなさい。
 
ということで無事にプールに移動してちょっと遊んだ後(プールのほうがもっと寒かったw)11時にチェックアウト、そのあとで余っていた今日の朝食チケットを利用してカフェでブランチ。レンタカー返却、空港でおみやげ、帰りも順調なフライトで帰ってきた。部屋に洗濯乾燥機があったので、洗濯物が少ない。これ、かなりうれしい。
夜ごはんは焼肉~

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facebookより)

村上春樹という人は、世間一般の印象よりかなり愉快な人だと思います。そして世間一般の印象のとおり、すごく文章がうまいです。私は旅に行くときよく村上春樹の本を持っていきます(まるで英文和訳のような一文)。彼の軽くてリズムのよいエッセイは、旅の移動中や待ち時間などにぴったりなのです。
「ここ、いいな」と思った部分は、子どもに読むこともあります。

たとえば、今日、飛行機の中で読んで聞かせたのは、「『猫に名前をつけるのはむずかしい』という外国の有名な詩がある」という流れからの
 

僕はこれまでけっこうたくさんの猫を飼ったけれど、猫に名前をつけるのに時間をかけたことはない。頭にぽっと浮かんだ言葉をそのまま名前にしてしまう。
そのときビールを飲んでいれば「きりん」とつけるし、白くてほっそりした猫はかもめに似ていたから「かもめ」とつけた。
あまりややこしいことは考えない。おしゃれな名前も、気取った名前も好きではない。

 
というあたり。
息子小3にとって、村上春樹はこういう「テキトー」で「くだらねー」ことばっかり書いてる人。いつか将来、息子が『ねじまき鳥クロニクル』とか読む前に村上春樹ノーベル文学賞を獲ったら、彼はびっくり仰天するでしょう。
 

 
ただし、子どもへの読み聞かせにあたっての注意点。村上さん、割と平然と下ネタを繰り出してきます。しかも話の流れが唐突です。
この本の「献欲手帳」という章も、ジムで体を動かすのが好きな村上さんが「バイクマシーンを漕ぐ力を発電に利用できたらいいな」と想像する話から始まり、
 

もちろん原子力発電なんかに比べたら微々たる熱量だけど、たくさんのマシーンをみんなで交代で必死に漕いだら、街角の信号機の電力くらいはまかなえるんじゃないか。
だってエジプトのピラミッドだって、ほとんど全部人力で作ったわけです。人の力もいっぱい集まれば、決して馬鹿にしたものではない。
 それで「献血手帳」と同じように「献エネルギー手帳」みたいなのを作るといい。
街角にバイクマシーンを並べておいて、ボランティアの人にペダルを漕いで発電してもらう。

そして「はい、ご苦労さまでした。あなたの今日の献エネルギーは二千キロカロリーでした」と、スタンプを押してもらう。
そういうシステムを作ったら、発電ボランティアを志願する人はけっこうたくさん出てくると思う。
エネルギー不足も少しは解消するし、フィットネスの役目も果たすし、おかげで人々は健康になり、医療保険の負担も減る。良いことずくめじゃないですか。僕も熱心に、街角でボランティアをすることだろう。

 

…と、ここまでは牧歌的な風景にほのぼのするんだけど、ここで急に別のギアが入るんである。
 

ふと思いついたんだけど、余った性欲なんかも有効利用できないものだろうか。性欲だってひとつの立派なエネルギーなんだから、これをただ無駄に捨ててしまうのは惜しい。
たとえば元気いっぱいの男子高校生が「献欲手帳」をもって「献欲センター」にやってきて、「ここのところ性欲が余っていますので、献欲したいんですが」と言う。
「はい、ありがとうございます。さっそく抜かせていただきますね」ということで、性欲がその場ですっと電力化され(仕組みはよくわからんけど)、そのワット数だけ「献欲手帳」にポイントが加算される。
なかなか良いシステムだと思いませんか?

 

「さっそく抜かせていただきますね」って…(笑)

村上ラヂオ3: サラダ好きのライオン (新潮文庫)


 
作家の想像力って、くだらなくてすばらしいですよね。村上さんがノーベル賞を獲ったら、記念に「村上春樹のくだらない下ネタ傑作選」をシリーズ投稿しますね。
…というわけで、福岡に帰ってきました。沖縄よりよほど暑くて本当に納得いかない。