『ふがいない僕は空を見た』 窪 美澄

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

泣きすぎて頭が痛い。話題になってたころに本屋で見てたけど、こんなすごい小説だったとは。

女による女のためのR18文学賞だっけ? 初期に受賞した『花宵道中』が「あーね…」って感じの作品だったのもあって(主観です)ナメてた。こんなすごい作品を輩出してたとは。おすすめしたい。私の世代の女子たちにもめっちゃ読んでほしい。と、今さら言うまでもなく山本周五郎賞本屋大賞の上位もとってるが・・・。

連作短編という形式は、ややもすれば読者の関心をつなぎとめるためのあざとい設定になりかねないが、この小説では抜群に奏功している。1編目、10歳年上の人妻に頼まれて、アニメのキャラのコスプレで売春する男子高校生 卓巳。2編目ではその人妻が主人公になる。3編目は、卓巳に恋する女子高生。4編めは、卓巳の売春を周囲にばらまいて陥れる少女の幼馴染でもある、卓巳の親友が。

すべてが「イタい」話で、ああ、こういう話はつらいなあと思いながらも、スピーディかつエモーショナルな筆致にひっぱられてぐいぐい読み進んでいく。何度も感情を揺さぶられてボディブローのように効いてくる。遠い話、たとえばワイドショーなんかで見れば「あー・・・。まぁ自業自得だよね」とすませてしまいそうなエピソードたち。だけど人は、つまらない落とし穴にハマる。追い詰められてバカな行動に走る。小さな悪意に蝕まれる。ダメだと思ってもやめられない・・・。

それらを、誰が断罪できるのか。この愚かさはすべて、個々の責任として突き放せるのか? それはあんまりにも残酷ってもんじゃないか、という気分になってきて、後半は涙が止まらなくなった。つらいばかりじゃなく、はしばしがユーモラスだったりする。それは作者の技量であるとともに、「人生とはこういうものだ」という信条でもあるんだろう。悲劇と喜劇は紙一重だったり同居していたりする。

そして希望も然り。最初の一編で、卓巳の自宅が助産院であることが示されるのだが、最後の一編はその母が主人公なのだ。同世代のママ友たちにすすめたいのは、ここが大きな理由でもある。

卓巳の母は、助産師として、女手ひとつで卓巳を育ててきた。息子の醜聞が近所にばらまかれ、助産院も中傷される。その後もはた目には普段どおり、気丈に赤ちゃんをとりあげ続けるが、息子が心配で、ストレスで体調が崩れ、過去の苦しみも思い出される。地に足のつかない夫と離婚し、父を失った小さな息子が泣いていたこと。さらにその前、妻子ある男と不倫していたこと・・・。負のループに入りながらも、とにかく仕事がある、とにかく息子をなんとかせねばという逃れられない現実と苦闘する姿が胸につまる。心配で仕方なくても、高校生ともなれば親にはいかんともしがたいのも、つらい。

配偶者もなければ、親や親友と呼べるような存在も彼女にはいない(少なくとも出てこない)。そこで彼女の支えになったのは誰なのか、なんなのか。息子は救われるのか。それでも生まれてくる赤ん坊たちに、読者として何を感じるか・・・。ぜひ読んで味わってほしい。

社会や時代の切り取り方も、鋭い。性の扱い方も。