幸四郎・白鸚襲名公演@博多座!!

●6月某日: (facebookより)

博多座で歌舞伎! 松本幸四郎白鸚、襲名披露。はぁ~。贅沢したわ。
「歌舞伎のチケット、とったんだ~」って息子小2に言ったら、間髪入れず「ぜいたくだな!!!」って返されたもんね。
わぁってるよ! てか、値段言ってないのに何で贅沢ってわかるんだよ!
そもそも、夫でさえそんなこと言わないのに、なぜ7歳に・・・w

ともかく、チケット代を思うと、目を皿のようにして見てしまって、疲れました(←貧乏性)

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【俊寛】って知ってます?

時は平家の全盛期、平清盛に反抗した罪で、鬼界が島に流された3人の男。そのうちの1人が俊寛。
貧しさと飢えと孤独に苦しむ彼らのもとに、ご赦免船がやってくる。
船には3人しか乗れない。でも、3人で一番若い男は島の娘と契っていた。

いろいろあって、俊寛はみずから身を引き、代わりに島の娘を乗せてやる。
皆を乗せた船は少しずつ遠ざかり、地獄のような島に一人残される俊寛・・・。
そこで終われば美しい自己犠牲の話だけれど、終わらないから文学なんである。

やがて船の中から自分を呼ぶ声が聞こえなくなり、波音と風音だけに包まれると、
一転、俊寛は苦悶に顔を歪め、海に入ってもがきながら船を追う。
波にのまれて無理だと悟ると今度は岩山に駆けのぼり、帆影を追い続ける。

やっぱり自分も乗りたかった、乗せてくれ、一人は嫌だ。
・・・という思いを表す名文句、

『 思いきっても凡夫心(ぼんぷしん) 』
義太夫が語る。

どんなに思いきり、悟ったかのようにふるまっても、やっぱり凡夫の心が押し寄せてくる。このリアリズム!!! 冷徹な人間観察にして、人間の弱さの肯定でもある。
1719年、近松門左衛門の作。すんごいね!!!!!
仁左衛門の芝居はもちろんだけど、台本(戯曲っていうのかな?)のすばらしさに鳥肌立ったわ。

ちかえもんのおっさん、やるやん!!
と、一昨年、ドラマ『ちかえもん』で近松門左衛門を演じた松尾スズキの顔が思い浮かんでたよね・・・。

【魚屋宗五郎】は、江戸の庶民の生活を描いた世話物なんだけど、主人公が酒乱です。

妹が殺されたショックで禁酒を破ってしまった酒乱の男がやり散らかし、周囲がすったもんだする

・・・っていう笑えないシチュエーションなんだけど、これが滅法笑えます。
酔っぱらいの言うことなすことがひどすぎるw 誰もがやったことあるか、見たことあるか、そういうやつやww

最後は何でハッピーエンドになるかっつーと、お殿様も酒乱だったからw ひどいww
こちらは1883年初演、ジャッキー・チェン酔拳(懐かしいw)より100年前ですよ。

書いたのは河竹黙阿弥
『 矢でも鉄砲でも もってきゃぁがれ!!! 』
っていう名台詞があるんですが、酔っ払いの大トラの発言です(笑)

新・松本白鸚(元、幸四郎王様のレストランの千石さんね)が宗五郎をやってるんだけど、すんごい立ち回り! すんごい体力!! そして、酔っ払いの芝居に、どこか西田敏行みがあるww

最後の【春興鏡獅子】は、長~い獅子の毛のかつらをぶん振り回すやつです。

全部で20数名の長唄(ボーカル)・三味線・お囃子(鼓や笛など)連中が、上下の雛壇にずらっと並んで生演奏。すんごいゴージャス! 

襲名披露というおめでたい舞台にぴったりの演目なんです。
胡蝶の精の少女2人の衣装とかも超かわいくて豪華なの。
少女っつっても、演じてるのは大の男なんだけど。
だいたい、勇壮な獅子の精が、二十歳になったばかりの恥ずかしがり屋の女中さん(あ、演じてるのは40ウン才の幸四郎だけど)にとり憑くっていう設定が謎。

だから、この演目では、前半はかわいい女中さんとして清楚に舞い、後半は同じ役者がごっつい衣装に着替えて出てきて獅子の毛をぶん振り回す。
歌舞伎ってそういう、トランスジェンダーとか両性具有的な演目けっこうある。
ジェンダーの面から考えても面白いかも。

実はさっきの【魚屋宗五郎】も、昔は殺されるかわいい妹と、酒乱の宗五郎を、同じ1人の役者が演じてたらしい。

幕間にイヤホンガイド聞いてたら、新・幸四郎(もとの染五郎ね)さんが「妄想人生すごろく」っていう謎のコーナーをやってて、

「博多を舞台に新しい歌舞伎を作るなら、明太子 vs 鶏卵素麺の戦いですね!!」

とか言ってはしゃいでて、私は大枚はたいて博多座くんだりまで来て、何を聞かされてるんだろうという気分に・・・(笑)
いや、歌舞伎役者ってそういう人ばっかりなんだよねw

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ほか、メモ。

『俊寛』
・少将成経は雁治郎。平判官康頼に猿弥。海女の千鳥には孝太郎。瀬尾は弥十郎、丹左衛門に梅玉

・「りんにょやってくれめせや」(?)というセリフが何度か出てくる。「かわいがってね」「よろしくね」みたいな方言として使われているらしい。

・ご赦免船の作りが存外立派。

・瀬尾「慈悲も情けも身共は知らぬ」という役人の無慈悲が、丹左衛門によって皮肉られ、俊寛に殺されるんである。見事なブーメラン。とどめをさされると手下どもがサーッと遺骸を始末するのがなんかドライw

・赦免の書状を見て(自分の名前が)「ない、ない、ない」とか、もはや殺るしかない、と瀬尾殺害を決意するところとか、型が見事。わかりやすい。

・千鳥が海女の道具で瀬尾と立ち回ったりして面白い。

・「鬼界が島に鬼はなく、鬼は都にありけるぞや」近松は名文句の嵐だなあ。

・最後、花道がザーッと海になる演出すごかった。

『口上』
藤十郎の口跡にちょっと元気がないような・・・

・孝太郎 「幸四郎さんのお相手を何度もつとめさせていただいているが、映像では妹の松たか子さんとも夫婦役を演じたことがある」 何の自慢だよww 映画『ちいさいおうち』ですね。

白鸚 「博多座は7年ぶり。女房が博多出身なので、夜のお誘いがひきもきらないが、一心に舞台をつとめさせていただくのみの有難い博多の夜」

幸四郎 「半分は博多っ子の血が流れている。芸道未熟、不鍛錬だが、歌舞伎のため、歌舞伎の力になりたい」

全体的にさらっとさわやかな感じ。口上は各役者のキャラやキャリアのみならず、お家のカラーも出るよねぇ。「いずれもさまにおかれましては」「乞い願い奉りまする」「隅から隅までずずいーーーーっと」など、聞かせどころを心得た口跡は本当に心地よい。

『魚屋宗五郎』
・明治に入ってから作られた戯曲だけど、江戸の風俗がよくわかって面白い。丁稚奉公の小僧さんとか、煙草盆とか。江戸っ子口調もいい。

・妹が非業の死を遂げて暗く悲しい家の中と、年に一度のお祭りで囃子も聞こえる外っていう対比。

・亀鶴が演じるの男衆、三吉がうまく笑わせる。

・「いい酒だな」「あ~うめ~」「いい酒だな~おい」「親父の代わりにもう一杯」「かけつけ3杯っていうだろ」

・分別者の宗五郎、飲むにしたがって父親を「狸親父」女房を「うわばみ」そして極めつけは、弔問に来たおなぎさんを「おたふく」と言いくさる! ほんとひどいw

・おはまさん、めっちゃいい奥さん~! 魁春のお芝居もいい!

・「ほんとのことなんだから言ったっていいじゃねーか」「(妹には)れっきとした親もありゃ兄貴もあったんだ」こちらも名文句続出。

・酔っ払いの六方! 幸四郎、もろ肌脱いで大立ち回り!

・俊寛の仁左衛門、宗五郎の白?。いぶし銀なだけじゃなく、活力あふれる芝居が見られて本当によかった。白?なんか、舞台上でもどうにも体調が悪そうだといわれていた時期もあったようだし・・・。ぶっちゃけ、幸四郎はこれからまだ何十年も見られるわけで、上の世代の舞台はやっぱり、見ときたいもんだなと。