『アンナチュラル』 第3話

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セクハラとパワハラを絡ませて同時にやる見事な手腕! 腕がよくておまけに顔もガタイもいいとくりゃ、「個性よね」「天才肌だから」と片付けられてしまいそうな中堂さん(井浦新)の暴言や横暴の類を、3話という早い段階でちゃんと取り上げるこのドラマはやはりいいですね。

ずん飯尾に訴えられた中堂さんに、前回は中堂に命を助けられたミコト(石原さとみ)が、「いろんな人がいる職場だから乱暴な言葉遣いは感じが悪い、苦痛を感じる人もいる、コミュニケーションは大事」と極めてまっとうな方向性の言葉をかける。それで中堂は悔い改めるわけではないが「クソとは申しません」等宣誓して飯尾と和解。でも飯尾はUDIに戻ってきて嘘のように仲良くなったりするのではなく、新しい職場に旅立っていく、という現実的な結末。

セクハラのほうも同様で、ミコトは最終的に法廷で証言に立つことを避け、腕はもちろん、顔もガタイもよくて態度もでかい立派な男である中堂に代打を頼む。中堂は見事に応えて、吹越満の女性蔑視検事をやりこめ、温水さんの容疑者にも一矢報いるのだった。「ミコトの口で、あいつらにぎゃふんといわせたかった」と惜しむ夕子(市川実日子)に、「今は法医学の勝利でよしとしましょう」とミコト。

ドラマなのだし、ミコトは本来優秀な法医学者なのだから、自らぎゃふんといわせる脚本にしたってよかったのだ、というかそっちのほうがカタルシスは大きい。でもミコトはそうしなかった。法医学者である彼女は何よりまず真実を追求し明らかにする(それは彼女の人生観といってもいい)ためにために、女性として蔑視される場所を避けた。

法医学者としての勝利と、女性としての尊厳。本人に優秀な資質があっても、どちらも同時に成し遂げるのは困難なのだ、それが今の現実なのだ、と強く印象づける。そこで、男性である所長(松重豊)が、「I have a dream! いつかあらゆる差別のない世界を」とキング牧師の言葉を引いて大真面目に(だからこそユーモラスに)言挙げするのも、スマートなだけでなく誠意ある幕引きだったと思う。

男女の非対称の考え方が、吹越満の検事や斎藤実の大学教授のように個人的な性向にとどまらず、社会全体に共有されていることをドラマは描く。北村有起哉演じる週刊誌の記者が「敏腕検事 vs ヒステリー女法医学者」という記事を出すと、見る間に傍聴人が増え、メディアの注目度も上がっていく。「こういうのはな、わかりやすいほうがいいんだよ」とほくそ笑む記者。ユッキーヤのゲスな存在感が際立っている!!! ・・・のはさておき、私たちはこうやって安易な二項対立に踊らされている。個人やメディアや社会など様々な環境が相互補強しあって性の非対称は維持されている。

だからこそ、「女性はすぐ感情的になるから」とミコトの証言を退けた検事を、今度は中堂が怒らせ、「感情的になるなよ」となだめる場面も光る。女性は××だ、と括ることのナンセンス。

温水さん演じる、妻を殺害した冤罪で逮捕されていた容疑者は、夫婦間では弱者であったがゆえに、こじらせて女性不信・女性蔑視になったという造形。殺された妻は美人主婦ブロガーとして有名だった。女性ゆえの軽視・蔑視と、女性ゆえにもてはやされるのは表裏一体であり、それが絡まって新たなミソジニーを生む・・・という構造にも目配りがされていて、唸る。

そういえば、ミコトの実家で、弁護士の母親(薬師丸ひろ子)がビールを傍らに持ち帰り仕事をしており、ミコトの弟が慣れた手つきで夕食?夜食?を作ってサーブする場面も、何の説明もなくサラッと描かれてたね。

・・・と、ジェンダーちっくなこともいろいろ書いたけど、随所に笑いと萌えがちりばめられていてすごく洗練されたドラマです。