『This is JAPAN』 ブレイディみかこ
しばらく前から人に貸していて手元にないので、読んだときの記憶で。
2016年8月刊行。「今このとき」にかなり近い日本を、ある視点から活写したルポタージュだ。
それは、地べたからの視点。
筆者のブレイディみかこさんは1965年生まれ、高校時代までを福岡で過ごし(貧しい家庭だったと本人談)、中洲や銀座でキャバクラに勤めお金をためて、1996年に渡英。アイルランド出身でトラック運転手をしていた夫と結婚し、資格を取って移民などいわゆる低階層の子どもたちの保育士を勤める。1男あり。
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約20年ぶりに日本に長期滞在した彼女が見たもの。
それは、賃金未払いを訴えるキャバ嬢を貶める同業者だったり、
明らかに予算不足と思われる子どもたちの保育環境だったり、
英国とどこか違う日本のデモ風景だったり、
貧困者にリーチする草の根団体だったりする。
20年前と比べてもあまりに貧しくなった日本の姿。
折れてゆく、力ない人々。
声を上げ権利を叫ぶ文化の欠如。声を上げる人々を叩く文化。
労働運動やフェミニズムの歴史、左右の党派やEU離脱まで、イギリスをはじめヨーロッパの状況にも随時言及する。
驚かされるのは彼女の知識の豊富さ。そのうえで日本に向けられる鋭い視線。「一介の地べたの保育士」がなぜこのように社会的・政治的な目をもてたかといえば、もちろんセンスもあるのだろうが、イギリスの保育士の資格をとったことがきっかけだったのだという。
イギリスでは、資格取得時だけではなく、その後も定期的に論述問題が課せられ、法制度や、その整備までの経緯、背景の問題などさまざまな知識を持って書くことが求められるらしい。
「保育士になるのに何でこんなことまで勉強しなきゃいけないんだ、と当時は思ったけど、そうやって勉強するから、問題の本質や改善策を考えることができる。
逆に日本では、たとえばNPOなどでも、大きなところ・上のほうの問題まで勉強しないから、いつも困っていることをミクロな視点だけで考えているのではないか?「自助」「相互扶助」はすばらしいけれど、国や政府に手間をかけさせない(国や政府の悪いところが放置される)危険もある。
イギリスという国にも問題はたっっっくさんあるけど、イギリスでは「保育を守る、子どもを守る」という考えの徹底のもとに法整備されている。」
とは、彼女の講演でも語られていたし(ちょうどよく福岡で開催されたので聞きにいったのだ! 今年の8月。というか、講演を聞きに行って、その場で買ったのがこの本。)、この本の中にも書いてある。
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内容の面白さはもちろんだけど、とにかく文章がうまくて、ぐいぐい読ませる。彼女はモリッシーやピストルズなどUKパンクの信奉者。文章はリズムだもんね。
鋭く尖ったような各章のあと、ホームレスのカトウさんと幼児たちとのかかわりを描く最終章のフワッとした感じも印象的。彼女はそこに、イギリスとも違う日本のひとつの面白さと可能性を見たんだろうと思う。