『おんな城主直虎』 第36話 「井伊家最後の日」

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生き残った者たちの物語。いわば、戦後まもなく。

ここで南渓が引導を渡すのか~、と。それが情とか責任感・罪悪感からなのが面白かった。物語において“運命の子”を焚きつけて舞台に上がらせる鬼コーチは自分の目利きや信念を貫くもので、「もうやめよう」なんて言うケースは少ないんじゃないかな。でも南渓は先週から明らかに直虎を痛ましいまなざしで見て、己の責任を感じていたよね。「政次が死んだら直虎も死ぬだろう」というセリフも、この展開の伏線だったのね。

政次が遺した碁石を掌中に、井戸端で座禅を組む直虎。井伊の殿であり続け、井伊を再興し存続するためには、あまりにも様々な仕事がある。井伊谷に入った近藤の心証をよくするよう努めなければならない。近藤のリハビリ介助だって、見てるこっちは「クララが立った!」ってネタ消費できるけど(それにしてもかわいかったw)、生身の人間であれば政次を処刑に追い込んだ相手を“戦後まもなく”心穏やかに介助できるだろうか? 実質役立たずに終わった常慶と相対したいだろうか? 

みなの身の振り方や生活の立て方を考え、隙あらば家を再興し、そのうえで誰も殺さぬように・・・・そのすべてを「やってやる!」と磔台の政次に向かって叫んだ直虎だけど、「それを政次無しで一人でやらなければならない、やり続けなければならない」ことの重みだよね。

「政次と相談できた時代にすら、結局は政次を殺さなければならなくなる程度の器の自分が、政次無しでやっていかなければならない」 これはきついよなあ。

政次を槍で貫くとき、涙を流すどころか眉一つ動かさず、血の通いを感じさせなかった直虎が、南渓に「もうやめよう」と言われ顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくった。それが生きてるってことだよなと思う。政次の最期の壮絶な言葉や辞世は、二度と覆らない、永遠不変のものだ。でも生きている者は、挫折する。押しつぶされ、撤回する。大切なものを自らの手で刺した、その重みをバネにできればいいし、それができるのが物語の主人公たる「選ばれし者」なんだろうけど(鶴ヶ城で戦う八重さんなんかはその筋をたどった)、直虎は、森下佳子が書く人間は、そうじゃないんだよね。

そこで、虎松を筆頭にみんなの意思と力が動き始めるんだろうなあ。これまで「井伊家ピンチ」のとき、「なんとかする、考える」と直虎が直之たちに背を向けて考え込むシーンがあった。結局直虎が背負い、政次が陰で補助してきたのが今までのスキームで、それが壊れ、直虎にひとりでやっていける力量がない以上、新しいやり方がないとダメなんだよね。之の字だって、「所詮おなごだけど、おなごについていくと決めていたんだ!」なんて決意が強けりゃいいってもんじゃなくて(しかしぐっとくるシーンだった…)、もっと実質的な力で支えていかないとダメなんだよね。

「次郎がダメなら虎松を焚きけりゃいいじゃない」っていう南渓の反省しなさ、性根の変わらなさに笑うw や、虎松があそこまで頑強でなければ、思いつかなかったんだろうけどね。南渓って、自分が政次に代わって直虎の参謀をやろうとはしないんだよね。そこは自分の限界がわかってる哀しさなのかも。フィクサー的存在がこういうふうに情けない、性根のさだまらない人間なのが森下脚本らしい。

そして繰り返される「君の名は」。そうかー、そうくるかー!!っていう。
男が女の名をたずね、女がそれにこたえるのは古来からの妻問いのならわし。そう、次郎と号し直虎という勇ましい名乗りをあげていた女の名を、かしらは知らなかったのだ。それだけではない、次郎になって以来、そして直虎になってからはもっと、とわという名の女は長い間、ほとんどいないも同然だった。

井伊の名を捨てさせてでもおとわと一緒になりたかった直親が死に、偽りの仮面で芝居をしてでもおとわを危険から守りたかった政次が死んで、直虎の中にうずもれていたおとわをかしらがそっとひっぱり出したという感じだった。それは王子様の仕草ではなく、そうしなければ二人とも生きていられないくらい傷ついていたからなんだろう。

なんせ名前が龍雲丸だもんだから、亀と鶴がなしえない、肉体とか性愛の部分を彼が担うんだろうなーと想像はしてたものの、虎と龍でなくなったときに2人が抱き合うことになるとはほんとに面白い。龍雲丸っていうのも、彼が一匹狼の盗人になったときに自分で名乗った名なんだもんね。

生き残った者のいろいろ。

家康。先週まであれほど憎々しかった酒井忠次が、家康の思い付きや瀬名の激しさに翻弄されてちょっとオロオロしている! 

氏真。夫婦ともども、プライドをかなぐり捨てた懇願。いっそすがすがしい。

信玄。明るい鬼畜道w うしろの高坂弾正がこういう信玄の薫陶を受けて、今川館で生首放り投げて哄笑する人間に育ったのがよくわかる(ついでに、去年の真田昌幸がああだったのもよくわかる)。

高瀬。ついに始動! 長い伏線だったなー。でも単に「武田の間者・井伊への裏切り」ってだけじゃなさそう。