『おんな城主直虎』 第34話 「隠し港の龍雲丸」

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政次の辞世は近藤がオフィシャルに許したのではなく、牢番の情だったんだね。井伊の手元に届かないかもしれなかった、いや、そもそも政次は辞世を詠めないかもしれなかった。辞世がなければ、直虎はまだ当分、夢の中をさまよっていたかもしれなかった。

政次の辞世を存在せしめ、届けたのが誰かしらの情や判断なら、近藤のはかりごとを止めなかったのも誰かしらの判断だった。ということで、鈴木重時(ブティック今野@「あまちゃん」)が陳謝する。それに対し、南渓和尚が政次を返せと言うのがとてもインパクトのあるシーンになっていた。

物語の中で、南渓はだいたい無力である。知恵者の僧侶とはいっても、義元を支えた雪斎や中国の安国寺恵瓊なんかとはレベルが違うし、それ以前に無責任だなと思えることもしばしば。だから、人様を責められる義理かよ、オメーも政次を救えなかった一人じゃねーかよ、と思うところでもあるわけですが、和尚にしたらそれは重々承知での、鈴木重時への断罪だったんだと思う。理不尽に奪われたものに対しては怒りの声をあげていいんだと。自分の無力を思い自己責任だと泣き寝入りするんじゃなくて。

そして「直虎を領主にしてしまった張本人」南渓なりのコミットが、さまよい苦しむ直虎と向き合うことなんだろうなあと思う、今は。

酒井忠次役のみのすけの見事なヒールぶりに痺れる。家康を差し置いて独断専行するのは、「徳川のため」の忠義一心というよりは、家康の判断が最適ではない・手ぬるいと感じているからみたいだ(劣勢に際して家康に向かい声を荒げるシーンがあった)けど、彼を今後どのように描いていくのか、今回で俄然興味が湧いた。酒井、大沢、近藤、鈴木・・・と、武将たちがみんな個性的でいい面構えしてるよね。

とにかく徳川内部はなかなかのディスコミュニケーションというか、家康は主として君臨してはいるものの全権を握れてはいない。気賀の民を結果的に殺してしまったのは彼の意図ではないけれど、それも「因果」としてたまってゆくのが森下脚本ワールドである・・・。こわい。

方久も中村屋も徳川を頼った。

彼らにはイデオロギーはない、ただ自分たちの町と商売が守れればいい。だから武器と船を融通して「銭の力」で自衛しようとした。

銭の力がいとも容易く否定され、それどころか手詰まり気味だった徳川を軍備拡張させ、それが気賀に攻め込まれるきっかけになるという展開。残酷。酒井の言葉に狼狽し、なすすべなく瞳をうるませるムロツヨシの演技が印象的。

今川方の大沢は、気賀の民を捕えて「城主は逃げた、うぬらは捨てられた」とアピールする。「のこのこ出て行って徳川に殺されるか、人買いに売られるか・・・だからこっちの兵として死に物狂いで戦うしかない」と。

政次の死で悲嘆する視聴者をさらに突き落とす展開は、完全にわざとなんだろうな。わざと、政次の直後にこの展開を持ってきたんだろうな。「少女漫画や歌舞伎では終わりませんよ、この世界は」と。

政次の死はいわば政局の結果であり、彼は覚悟をもって磔台に臨み本懐を遂げたが、「選ばれた者」でないわれわれは、わけもわからぬまま捕らわれる。逃げても追われ、戦わされる。見せしめとして積み重ねられ晒される死体になる。視聴者の私たちは、そんな気賀の民だ。それが戦争だ。

しっかし、「逃げるために作った城」で、今川と徳川、両方から武器を向けられて袋のネズミになり一網打尽になるんだから、情け容赦ない脚本だよな! 佳子の鬼!!

巻き込まれるなんてあほらしい、逃げるが勝ちのはずだった龍雲党。
自由が身上でそれだけの実力も持っていて、自分たちだけなら何とかズラかれただろうに。

「ばーーーーーーか!」と余裕で嘯いて華麗にドロンするはずが、党のメンバー全員死なせるって、龍雲丸の立場(泣) 佳子の鬼!!

龍雲党にこんな行動をとらせたのは、これまでの経験なんだよね。
昔なら自分たちだけで逃げてた。
井伊に来て、材木切って、いろいろあって気賀に根を張ることにしたから。社会にコミットしたから、みんなを船に乗せようとした・・・。なんという皮肉。



政次が死んで、直虎がどん底に落ちた時、龍雲丸が何らかの形で直虎の力になるかと思ってた。
まさか、龍雲丸も「大事な者を死なせた」という、直虎と同じ因果を背負ってしまう展開になるとは・・・! そう言われれば、これ以上なく佳子らしい脚本なんだけども。

龍雲丸は死なないと思う。
彼はまた生き残ってしまうと思う。すべてを見て生き残る。直虎も龍雲丸も、ここからなんだよね。

コミットしたら傷つく、というのは森下作品の常道。
「傷つくけど、それでもコミットしたからこそ得たものもある」というのが『ごちそうさん』のめ以子と和枝にはあったけど、これだけたくさんの仲間の死を、龍雲丸は飲み下すことができるんだろうか。

もとは、村同士のいさかいになれば生贄として差し出される「解死人」だった方久は、自分が助かり城の者たちを多く死なせてしまった後、頭を丸めればそれで済むんだろうか。

直虎はどうかかわって、どう立ち上がっていくのか(主人公である彼女だけは、まだ立ち上がって進まなければならないことが確定している)。

もろもろの謎を謎のままに、遠州大乱はまだ続きます!  ぎゃああああ