『おんな城主直虎』 第28話 「死の帳面」

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おおう・・・・前回で龍雲丸編もひと段落したので、気分転換的な、箸休め的な、スピンオフ的なあれかという雰囲気を漂わせといてばっちり新章への導入になっている、しかもどす黒い・・・。さすがでごわす。

しっかし、こういったスピンオフ(に見せかけた)的なエピソードの主人公が寿桂尼でサブヒロインが氏真っていうのは、これほど「おんな城主直虎」にふさわしい人選はございませんね~! それは、直虎と、こののちにクローズアップされてくる直政との相似形なんですよね。

いきなり信玄との会談という豪華さ。「久しいのう、晴信どの」と、いきなり若き日の名で呼んで機先を制す。
「神仏も我には愛想のないようです」
「そりゃまた神仏も正直なことで」
こういうやりとりを書ける大河の脚本家って意外に多くないのだ。

「孫娘を引き取りたい」
「本人が帰りたがらない。夫のためにも武田に尽くしたいと」
「なんという思い上がり。私が説き伏せましょう」(立ち上がる勢いで)
「いやいや、気鬱で寝てるので」
「気鬱くらいで情けない。それも含めて説き伏せましょう」

寿桂尼さま無双キターッ! 信玄入道タジタジやんw
しかし「私が行ったぐらいで簡単に返してはもらえない」と超現実的な寿桂尼さま。間髪入れず、次の手として北条まで行くと言う。これ、老体に鞭うつというレベルじゃなくて、「ばばが行くからいいのです。この姿は哀れを誘いましょう」って自分の老体を道具に使うという・・・!

その凄みに圧倒されて感服するのではなく捻じくれちゃう氏真のボン気質を松也がものすごくうまく演じている。「お見苦しや、太守さま。弱音を吐いた者から負けるのです」正しすぎてぐうの音も出ないんだけど、それがグサッときちゃう凡人の気持ち、わかるよなあ。先週、義信自害ニュース(方久が目撃)から白塗りのバカ殿化(但馬が目撃)までに、こういうワンクッションがあったのね、と今週判明するのも面白い。

いわゆるスポイルされたボンボンなんだけど、そこで振り切るまでヒネられない造形なのがまた、凡人臭くていいんだよね、氏真。偉大すぎるおばば様にコンプレックスを持ちつつも、おばば様のこと大好きだし、おばば様がいなくなると不安だし、おばば様と父とが築いた今川の黄金時代、その文化は彼の血肉なんだよね。

妻に焚きつけられた(←ここでの演技、さすが西原亜希やったね~!)結果が「屋敷中の楽器を集めて盛大に鳴らせ、それでおばば様を目覚めさせるのだ or 送るのだ」っていうのがさ~。それまで、それこそ使えるものは嫁でも北条でも、自分の老体までも使って奔走して今川を守ろうとする寿桂尼と対照的でさ。楽人にやらせるのはまだいいとして、せめて太守様は涙目で笙を吹いてるヒマあれば政治的に動いたほうがいいんじゃないかな?とか思っちゃうんだけど、彼は身内の情に厚い生粋の文化人なんだよね。

そこで寿桂尼が見ている夢。光り輝く今川。氏真の正室が語った通り、あまりにも美しい世界。その中をそぞろ歩く寿桂尼は、(本当は周囲が幻なのに)彼女のほうがすでにこの世の者ならぬ幽霊のようでもあり、いっぽうで、切り下げ髪とほほえみはけがれなき童女のようでもあり。

とにかく彼女は光り輝く今川を愛し、光の中にいる義元と龍王丸を心から愛した(そうだ、氏真は、もうひとりの “龍”なんだね)。でもその光が輝かしければ輝かしいほど、できる影も濃いだろうね、と。あまたの影あってのこの光なんだよね、という、それを思い出させる「そなた、あれをどう思う? 直親のことじゃ」ですよ・・・・!

直虎との対面。寿桂尼は直虎の成長に目を細め、直虎は恐縮して寿桂尼の慈悲に感謝し、いい雰囲気になったところでの「そなた、あれをどう思う?」。尼頭巾で顔の表情が見えないアングルからの映し方で、地の底から響いてくるような声音にゾッとした。直虎もハッと衝撃を受け、それでも同様は最小限におさめ、言う。「家を守るのは綺麗ごとだけではない」。

その答えを聞いて、寿桂尼が感極まったような表情をするのが、この時点では「ほかならぬ直虎がこう言うのがうれしいのだな」と思う。おとわの時代からを回想し「そなたが娘であればと思っていた」、こういうのって大河の王道なんですよね。主人公が、身内でも何でもない、しかも格上の相手から「そなたが息子/娘なら」と惜しまれる。そして「私亡きあとも今川を頼みます」今生の別れにそんなふうに言い残すのも、時代劇の王道。ここぞというときには王道でくるのね、王道ってやっぱり泣けるもんね・・・・

・・・・なんて思いつつ、劇中の来し方を振り返りつつ浅丘ルリ子の名演に涙をぬぐっていましたら、なんだかガラの悪い次の客が、ってとこで嫌な予感、そういえばわざわざ書きつけについて直虎に「何を?」って言わせてたな、そういえば今日のサブタイトル「死の帳面」だったな、え、え、えええ、次の客、謀殺されちゃった、えええ、えええええっ、わーーー直虎に禍々しい朱のバッテンが!!!!!

「我に似たおなごは、老いた主家に義理立てなどせぬ」
サイコーな流れだな、こんちくしょう!!!!! おひねり投げたい!!!!!

戦国の世のマイノリティ、おんな城主。寿桂尼と直虎、2人にしかわからない世界があり、間違いなく響き合うものがある。でも、だからこそ、寿桂尼は直虎を排除しなければならないのだ。自分を初めて理解してくれたおなごを、理解してくれたがゆえに、彼女がもっとも大事に思う家ごと滅ぼさなければならない。その悲しみと、悲しみを凌駕する悲壮な決意、それが、直虎の返答を聞いて感極まった表情と涙の理由だったのだ。「そなたが娘であれば」も本心なんだよね。直虎が娘ならば、滅ぼさずに済んだのに・・・・という悲しみ。

光り輝く今川の庭で、ざんばら頭、泥だらけ傷だらけになりながら毬を追い続けた少女。それが、井伊にとって最悪な形の報いとして返ってくるこれからなのだなあ・・・。いやぁ、残酷。



すごすぎた。まさに森下脚本の真骨頂だった・・・(このフレーズ、すでに今作で何度も使ってる気がするけど)。

浅丘ルリ子がすばらしい。「すいか」の20年後にこんな浅丘ルリ子が見られたことを人生の喜びに思う。震える声が、深く刻まれた手の甲の皺が、目元の厚化粧すら寿桂尼の孤高で波乱の人生を伝え、それでいて、表情の純度の高さが、寿桂尼の心の奥のとても人間らしい部分を伝える。昏睡状態から覚めた時の「太守様、つらい思いをさせましたね」になんと真情がこもっていたことか。それにしても、何度昏睡状態からカムバックすることか。去年の草笛光子おばば様もびっくりだよw(とりさん@真田丸)

この、寿桂尼さまの粘り強すぎる土俵際の様子は、いずれ直虎の晩年で形を変えてリフレインされるのであろーかね。

で、そんな今川を、井伊のほうも裏切ろうとしているのだよね。それも言い出しっぺは政次。この流れ、直親のときとまっったく同じやんかーーーーー!! あのときと同じく徳川まで絡んできて、もう、イヤな予感しかしません!!!!!