『キネマの神様』 原田マハ

 

キネマの神様 (文春文庫)

キネマの神様 (文春文庫)

 

 

初めて読んだ、原田マハの作品。ペンネーム(本名かも)と受賞歴から、なんとなく気難しさのある、爪を立ててくるような作風かと勝手に想像していたので、とても優しくあたたかく、読みやすいのにちょっとびっくりしたくらい。面白かった。

一流企業で大きな国際的プロジェクトを取り仕切っていた女性がわけあって退職し、流行らなくなって久しい小雑誌に転職し、編集部の変わり者の(でも悪い奴はいない)面々が登場する。という安心感(悪くいえば既視感)のある設定なんだけど、父と娘(裏で母と娘、母と父という夫婦)の物語に始まる前半にぐいぐい牽引された。親を疎ましく、度し難く思う気持ちと、それでも親がいなくなることが考えられない気持ちとのせめぎあいからくる言動や心情描写がうまい。重すぎず軽すぎず絶妙な質感で書かれてると思った。娘が39才、親が80才になろうかという設定に現代を感じる。1990年代までなら、親も娘も10年若い設定だよなあ。

父が、そして謎の外国人(?)ローズ・バッドが書く映画評が物語の大事なエレメント。もともと、書評やドラマ評など「評」を読むのが大好きな私にはたまらないけれど、万人がそうではないかもね(まあ読書好きの人って往々にして好きかな)。作中で評される映画が「ニューシネマパラダイス」だったり「フィールドオブドリームス」だったりと、超メジャー級のものなのは、映画評部分でお客を離さないというか、エンタメ感を損ねないようにしてる意味もあるんだろうけど、超メジャー作品を堂々と論じる(もちろん登場人物ごとのカラーを生かしながら)ことができる作者の自信と実力を感じて快かった。

読後、「キネマの神様っているのかも」と思えなかったらこの作品は失敗も同然なわけで、私は、そう思った・・・というよりは、「そう思いたくなった」というのに近いかな。神様、と言いつつ人を信じている人だと思った。三浦しをんの例もあり、まったく違う作風の作品もあるかもしれんけどねw ドラマ化とか映画化とかにとても合いそうな作風だとも思った。