『真田丸』 第38話 「昌幸」

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超高速!関が原に負けず劣らずの驚き、超高速!九度山ライフ(前編)であった。あっという間に10年経っちゃった。でも見てすごい納得。なんたって昌幸はこのドラマの開始当初から牽引し続けてきた存在。真田丸の父であり、ヒーローである。ろくでもなくても愛すべきそんな彼が弱っていく姿を微に入り細を穿って見せられるのも悲しいし、でも彼の九度山での年月では無実さを描かなければならないし(昌幸のためにも、信繁のためにも)、ってことでリフレインと変化でスピーディに見せたのはなるほどな、と。

九度山の人々が野の人らしい風貌や格好になっていくが、信之らはより大名家らしく、しかも「戦国は終わり江戸時代になったんだな」って感じの、こざっぱりと折り目正しい装いになっていく。三十郎や茂誠までそろって、月代も剃っていたね。月日と共にグラデーションしていく服装や髪型、老けメイクなどの変化が面白い。紛争も演じるのも、けっこう大変だっただろうなあ。

昌幸の最晩年をもっと重苦しく描くのではないかと思っていたけど、三谷さんのバランス感覚が発揮されてた。悲哀も無念もありつつ、親父ほんと変わんねーなって思わせて、そして「兵は塊に非ず」。なんか、ものすご良いことを言ったようだけど、「塊じゃなくて一人一人なんだから、一人一人をうまく扱い転がして口八丁手八丁で自分の思い通りにしろよ」って話ですよね(笑)。家康のたぎるような憎悪になんかちっとも思い至らない、あくまで自分本位な昌幸でした。そこがいい。

今回の放送に先立ってNHKでミニPR番組「さらば昌幸」を放送してたの見たけど、これがすごく面白くてね。くじ引きを作って引かせたり、もちを引きちぎって並べたり、鎧の後ろからこっそり登場したり瓜売りに身をやつしたり、美しい花魁を転がし再会した娘を抱きしめ、大言壮語し、馬上で号令をかけ、親子で並んでガッツポーズ、一人で雄たけび上げてガッツポーズ・・・いやはや、こんなにもバラエティに富んだ姿を見せてくれてたのねパパン、って思いました。

草刈正雄の端正なルックスを野卑で表裏比興な田舎武将に見せた脚本演出、そして信玄を追って背を倒していくラストシーンに至るまでの演者の演技、けれん味を堪能しました。草刈さん本人も自分の代表作、みたいなこと言ってる。真田丸に出てる役者は口々にそう言うね。江雪斎の山西さんやら、秀次の新納さんやら。真田丸すごいね。

昌幸が失意のうちに年を重ねた10年間で、秀頼は輝くばかりの若武者に育ったんだなあ。大河ドラマにおける中川大志の大物オーラ感は頼朝少年のときよりさらに増していた! 対面で秀吉のテーマBGMが流れたとき、痺れたよねー!

そして家康もまた、10年、年をとってるんだよね。家康も本多佐渡も老けメイクすごい。2人ともが、対面直後に豊臣を滅ぼすことを決めたっていう流れね。昌幸に対しては、恨み(家康)と哀れみ(本多佐渡)で割れてた2人が、秀頼については「滅ぼす」と言葉に出すまでもなく一瞬で完全な意見の一致をみている。自分たちの脅威になりうる者についての容赦なさ。

本多平八郎、加藤清正が退場。どちらも良いキャラだった。新井浩文は今後さらに大きな役をNHKでやりそうだな。清正は頓死に近い描かれ方だったが、これはかつて小姓を井戸に放り込んで殺したことと呼応してるんだろうな。

先週は女たちの悲しみをとっぷりと描いていたので、今週の元気な女たちにはホッとする思いだった。長澤まさみのコメディエンヌぶりが最高。今回、妙に老け感も出してきてたけど(腰が重そうな)、きりはもう出産に適した年齢を過ぎているということだろうか。それにしても「あんたは私と違って垢ぬけてないけど源次郎はそういう人が好みだから自信をもってがんばって」って正室に向かってぬけぬけとぬかす側室ですらない女って前代未聞だな! 春ちゃんもおそろしいがやっぱりきりの無尽蔵のパワーの前には霞む。

で、これまで変わらず若く、つるんとしていた源次郎の顔が、ここへ来てついに浅黒く、ざらついてきた。いいぞいいぞ! あと12話、連続ドラマでいったらまるまる1クール分、ついに信繁(=幸の字をもらって幸村になる!!きっと!!)が主人公になるんだなあ。

昌幸の死を知った家康はどういう反応をするのだろうか。