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『よだかの片思い』 島本理生

 

よだかの片想い (集英社文庫)

よだかの片想い (集英社文庫)

 

 

すごく面白くて胸を打つ、恋愛小説であり青春小説でありビルドゥングスロマンだった!

生まれつき顔に大きなアザがあるアイコは、恋とも人間関係とも距離をとりながら大学院生になっている。冒頭では立て続けに、子ども時代からのアザのエピソードが語られる。

ある日、アイコは顔にアザや怪我のある人をテーマにした本の取材を受けることになる。思いがけず表紙に選ばれた自分の顔写真に、アイコは「自分自身」を見るが、それを見た両親や友人たち、教授の反応に、自分と他者との認識の大きな乖離を知る。

このあたりまでで約20ページと決して長くはないけれど、息をつめて読むような、かなり胸がふさがる序盤である。そこに、若い映画監督、飛坂が出てくる。彼は実在性が濃いような薄いような不思議な質感でアイコと物語に風穴を開け、あっというまにアイコの心を虜にする。タイトルの「よだか」はアイコであり(宮沢賢治の短編小説『よだかの星』が下敷きにあるのだろう)、飛坂はアイコを空高く飛ばせる存在であり、物語の進行とともに、徐々に彼自身がふわふわと飛んでいるような存在でもあることがわかってくる。

この飛坂が、幼いころから不条理に傷ついてきたアイコの心の防御を取り外させてしまうのがよくわかる魅力にあふれていて、私は20年くらい前にいくえみ綾が描いていた男性を思い出したのだが、それがこの物語の(あるいはこの作者の)ちょっとした古めかしさなのかもしれないけど普遍性にもつながってるんじゃないかと思った。

縮こまり心を閉ざしていたようなアイコが、飛坂と出会ってからは衒いない率直な振舞いを随所でするようになり、初めての恋に右往左往しながらも、折れないまっすぐな強さを見せるようになる。その姿を、「恋が彼女を生まれ変わらせた」のではなく、「恋によって彼女がそれまでの人生で築いてきた美点が顕れるようになった」と描いているのがすごくよかった。

両親や教授など周囲の大人も、数少ない昔からの友人や研究室の同僚たちも、それまでと少し違ったように見えるようになる。大人がこれまでより少し小さく見えたり、逆に大きく見えたり。何となく軽んじられている後輩の意外な芯を見たり。それらは、失望や、過度な憧憬にはつながらない。誰もが自分と同じ、傷ついたり迷ったりしながら生きている等身大の人間なのだと、自分も人も、フラットな地平に立っているのだという気づき。そのとき、アイコの目に飛坂はどう見えてくるか・・・

 


「多数派って、ほとんどが自分で考えて答えを選んでるんじゃなくて、右にならえの人たちですから。だから、ほら、ヒトラーみたいに口が上手い指導者が1人いたら、持っていかれちゃうんですよ。地球が回っているのだって、最初は誰も信じなかったし。だから、アイコ先輩の普通がなにを指すのかは知りませんけど、そんなに素晴らしいもんでもないと思いますよ」

 

 

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