『真田丸』 第11話 「祝言」

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いかにも頭の悪い小物臭(しかもうるさい)を漂わせて登場した、知名度もほぼゼロな室賀正武が、やがて「黙れ小童!」の決まり文句でネタキャラ化。その後この数話では、氏直にしんがりを命じられた時に見せた「武士の情け」のセリフや、小県で育った国衆として自領を守るのに必死な姿、昌幸に協力を求められ喜び張り切る様子が描かれて、可愛げも哀愁もある立体的な造形が明らかに。そして今回である。今回の、室賀正武の死にざまである。



室賀は、勝頼のように尊ばれたり、滝川一益のように「名将」扱いされるキャラではなく、今作における信忠のようにかっこよくもない。雑魚のように見えた彼は等身大の人間で、真田にとって距離的にも環境としても近い人物だった。だから視聴者にとっても身近になった。その彼を主人公サイドが寄ってたかって手にかける。その、暗さ。


恨みも憎しみもない、野心からでもなく、真田がしかけた策略でもなく、ただただ、今この場で自分(自分達の親玉)が殺されないために殺さなければならない。室賀のほうも、徳川に命じられなければ昌幸暗殺など思いもよらなかっただろう。けしかけられたのでも焚きつけられたのでもなく、「命じられた」という言葉がふさわしかった。室賀は一度もその気になっていない。浜松にもう一度わざわざ出向いて(もちろん新幹線も高速もないのに!)「やっぱり無理だ」と言っている。その理由は「あいつは幼なじみだから」と。

それを理由に挙げること自体、彼が戦国で生き残れないことを示しているのだけれど、無情にも腕利きを2人つけてやる本多正信。これでもう、室賀はやるしかなくなった。2人の刺客は、室賀が昌幸をやらないならば、代わりに室賀を屠る。そんな脅しだったと思う。「真田・・・そろそろ死んでいただきましょう」ポイッ、とゴミのように「真田の札」を投げ捨てた酷薄さにふさわしい、本多正信の所業。

でも、室賀はたぶん最後まで迷っていた。たぶん「私の家来になれ」の一言でふんぎりがついた。昌幸は本気だったろうと思う。でも室賀には、「家来になれば許す」その言葉が信用できない以上に、幼なじみの家来になるなんてありえなかった、たぶん。昌幸とは、対等なパートナーシップ(9話)だからこそいいのであって、織田や北条に対するように従属することはできない。一度も劣っていると思ったことなどないのだから。「おぬしの負けだ」は本心だと思う。本気で真田昌幸に俺は勝っている、と思ったまま室賀は斬られたのだと思う。彼を最初に傷つけとどめをさしたのが、同じ国衆ながら、自ら素早く「真田昌幸の家臣になる」と決断した出浦昌相だというのは、これもまたむごい構図。

滝川を騙して沼田城を奪還するとか、遠く越後の春日信達を調略にかけて殺すとか、そういう策略とは種類の違う今回の室賀暗殺劇だった。仲間内で殺し合うのに近い。仕向けたのは当事者である真田でも室賀でもなく、徳川なのが大きい。TLでは癒しパートとまで言われるくらい真田丸において愛されてきた徳川は、本当に真田なんて「雑魚」、せいぜいが「猛毒を持った雑魚」としか思っていなくて、それはもちろん北条も同じで、そういう大海を泳ぐのが「真田丸」という舟。

三谷さんの、巧さや周到さとはまた別の、なんというか力の入れ具合が感じられた室賀正武の生涯。西村雅彦のキャスティングにも当然、彼の意向が働いているのだと思う。なんというか、室賀を描き最後には惨く殺すことによって、俳優西村雅彦が生き返った…といっては失礼だけど、より輝きを増した。古くからの盟友であり「王様」や「古畑」で三谷さんをスターダムに押し上げた立役者のひとりでもある西村雅彦に対して、2016年にこうして報いたんだなというか。意気を感じる。



室賀が退場する前には、必ず「黙れ小童」リターンズがあると、視聴者は当然のように思うところ。直接ではなくてもその言葉にまつわる印象的な台詞が誰かから出ると。出なかった。なんにも触れなかった。室賀が死んじゃってショックなんだけどちょっと「あれッおかしいぞ」と思ったもん。「わざと言わせなかった」んだよね。信幸が今までで一番くだらない話を、あんなに長々ともちかけたのに。心疚しいからいつものノリになれなかった。だから「室賀は黒だ」と真田サイドが判断するのだけど、その場の人間に「黙れこわっぱ出なかったね」みたいなメタ視点のセリフを言わせないのが立派な脚本だった。

それもしても、信幸のトーク、寒面白かったですねw いきなり父に振られて、弟も知らんぷりで、芝居のできない彼が必死に考えたのが「室賀はお肌つるつる→美容にいいうなぎでも食べたのでは→浜松に旅行に行ったのでは」という三段噺(違)。全然うまくないけどなにげに凝ってるw 

以前の、きりたちの女子会「かかとがガサガサで~」もそうだったけど、時代劇しかも大河ではありえないようなトークに興を削がれるという視聴者もいるだろうけど、私はなんか楽しんでる。ここはわざと「遊び」またはツッコミどころを入れてるんだなと感じるからかな。

凄惨な後半が印象に残るけど前半も軽い展開ながらいろいろあって目が離せなかった!

梅との結婚を聞いて「へぇーてっきり私はきりさんと一緒になるのだと・・・」と無邪気に言いかけて佐助にはたき倒される三十郎w 三十郎、目立つキャラではないけどいいキャラであるw 人質騒動の折に憎まれ口を叩き合う信繁-きりを三十郎がじっと見ているシーンがあったが、あのときの心の声はやっぱり「この2人、仲良いなあ」だったのね。

正室と側室との違いをわかりやすく説明してくれる信繁。「正室は家と家との結びつきを固めるための存在。だからおまえは側室としてしか迎えられない。でも私はおまえ以外の妻を娶る気はない。つまり実質、正室だ」信繁くんのよどみない説明のあと、すかさず「信繁は生涯、4人の妻をもった…」と有働さんの硬い声がナレーションww ここまで断言した以上、2人目以降を娶るとき信繁がどんな顔をするか楽しみであるw 青いのう、信繁ww

小松姫や上田城の紹介然り、将来の情報が堂々とナレーションされるのは賛否両論なのかもしれないが、私はアリだと思ってる。今んとこ、知らないことをナレーションされてないからかもしれないけどw 「今、放送しているのは、長い物語の一コマだよ。のちには全然違うこんな展開あるんだよ」って感じで、いかにも長編っぽくて良い。そういう「史実」「あらすじ」をバラしても、それを面白く、オリジナリティあふれる筆致で描ける自信があるからこそのナレーションだとも思う。





おばば、薫、おこう vs 信繁の席、面白かったですよねえ。薫ってどうしてこう憎めないのかw

できちゃったので結婚したいという息子に「でかした! これで人質の駒が増える」と悪びれず言うお父さん最高w それに対して「梅は体も丈夫だし良い人質になります」って普通に応える時点で、息子はもう戦国の武士なんだよね。それにしてもお父さん、「ああそれはもう、(祝言)挙げたほうがいい」からの薫を前にしての豹変ぶりがw

で、三十郎&佐助に報告し、両親とお兄ちゃんに報告し、きりちゃんには特に報告せず・・・なのは、信繁の中では筋が通ってるんだろうけど、「おまえが喜んでくれると一番うれしい」って本心があってしかも口にするのに、「そういうことになったから」で済ませるのは、大した男ですこと。時代劇で側室・妾の類は全然歓迎ですけど、人物造形や作劇によっては男が痛いめにあうのも全然ありだと思います。この調子だと、2人目以降を娶るとき、信繁はそれなりにコテンパンにされる可能性はあるなw






母上の鶴の一声(笑)で中止になった祝言を、「もうこの話はおしまい」と切り上げる梅ちゃんの賢さ潔さ。それでいて、きりちゃんのことは気になっていて、釘をさしたりするんだねえ。「きりちゃんの気持ちがわかるから」ってセリフもよかったなあ。室賀謀殺のあと、信繁と梅はどんな夜を過ごしたんだろう。梅は何を思ったんだろう。10代の初々しい若夫婦に、来週以降、変化はあるのかな?

そしてきりちゃんがいかにウザいといえど(私は大好きだけど)、つらいポジションだよなあと思う。もちろん一夫一婦制じゃないんだから、内記お父さんの言うように、自分もお手付きを目指したっていいんだけど、きりはそういう子じゃないしな。

でも何となく、きりも梅も幸せな人生を送りそうな気はするんだよな。それは長命とか身の安全とか愛されとかって意味じゃないし、2人をもろともに幸せにするだけの甲斐性は今の信繁には感じられないんだけど、2人とも、自分の人生を強くたくましくウザく(笑)まっとうしそうな気がする。この脚本、この作風では。





やっぱり、兄上の人間の大きさが光るよね・・・! 信繁を広間から出すなと、おこうに頼む信幸ですよ。あの、病弱で、思い込み激しく、頼りない女性に、そんな大事なこと頼めるか普通!?っていう。もちろん、信幸とおこうには視聴者も作り手も(笑)知らない夫婦2人だけの姿や関係性があるのかもしれないよ。でもさ、これはやっぱり、まずもって頼むがわの器の大きさでしょ。昌幸なら絶対できないと思うよね。ごはんのお代わりをよそう力すら無い妻を信頼して頼めるのが信幸なんだよ。そして結局ミッション失敗しても、「がんばった」と本気で褒めることができる信幸なんだよ。

姉を失くしたり、春日を死なせたりして、都度凹んできた信繁だけど、泣いたのは初めてだったね。予告でその涙が映ったとき、祝言を台無しにされたことを泣くんだろうなーと思ったら、「梅を気の毒に思う前に、策を見抜けなかった自分が悔しかった、そんな自分が嫌い」っていう涙だった。「大人は汚い」って泣くんじゃなくて「大人になってしまった俺」に泣いてたのだった。小さな驚き。

まぁ正直、泣かせなくても良かったかなって思いもするけど、室賀謀殺はそれだけの大ごとっていう位置づけだったんだなあとあらためて思いもするし、主人公が早くもここまで大人になってるんだなあと。ダテに口吸いとか、やることやってるわけじゃないってことよねw

いろいろあった夜だけど、最後、兄弟2人で並んでる姿がやっぱり良くてね。「わからないけど前に進むしかない」ってセリフがまたいいよね、信幸。彼は背伸びしない、ハッタリもない、変に後ろ向きでもない。丸の世界で今んとこ、お兄ちゃんが一番のお気に入りです。そして徳川・・・・うぬぬどうしてくれよう!!