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『真田丸』 第9話 「駆引」

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信繁。あらま。春日信達の一件を、引きずってる。きりちゃんがやってくるけど、ガン無視して梅ちゃんのとこに行きます。兄の作兵衛が、畑の作物をよその村に奪われて交戦している模様も、その前に説明されます。梅ちゃんとのシーン、「私の考えを言ってもいいですか?」で始まってたけど、これは恐らく以前からの踏襲というかバージョンアップなんでしょうね。「何も言わずに私の話を聞いてくれ」「はい。」「・・・・。何か言ってくれてもいいんですよ」のときの。賢い梅ちゃんは、今回は信繁に促される前に、自分から口を開いたわけです。

ここで梅ちゃんが喋ることは、彼女が百姓仕事をしている地侍の家の娘だと思えばその賢さが非常に際立つのですが、それがコイバナに繋がってるのもミソなんですよね。大好きな梅が言うから、心に響く。でも、信繁が欲しい言葉をそうやって賢くつつましく伝えてくれるから、梅が大好きなわけで。くーっ、恋ってそういうものですよね。



個人的には作兵衛の述懐がよかった。「自分も戦は嫌い。そりゃ、殿のためなら命は惜しくない。でも、畑仕事のほうが好きだ」。いいセリフだったと思います。畑が荒れ、よその村の奴らと畑や山の資源を巡って争いになり、家族を亡くす。だから戦は嫌だ。そうなんですよね。そして、“戦で大きな被害を受けないために”とりあえずは戦をしなければならない戦国乱世の矛盾を信繁も飲みこんでいきます。春日の誅殺も、その戦のひとつであったのだと。

出浦が「春日は自業自得」だと言ったのも、戦国してるなあと。でも、この「自業自得」に、現代で言われる「自己責任」のようなうすら寒さを感じなかったのは、気のせいでしょうか? 「おまえは優しすぎる。もっと強くなれ」。それは、落ちこぼれた人間をさらに蹴落とすのではなく、清濁併せのめる大人になることを主眼においた叱咤激励だったのではないかと。





で、そんなこんなで、信繁と梅ちゃんはすっかり良い雰囲気に。



うん、あれは事後でいいと思います。梅ちゃんの身分を思えば、ちゃんとした祝言を上げて初夜・・・というよりは、あの雰囲気で既成事実ができたほうが自然だし! ってゲスな話はいいんですが




きりちゃんであれば、真田の家来格とはいえ、れっきとした武士の娘なので、ちゃんとした祝言やると思うんだよね。大河で祝言っていうのはもう、数限りなく・・・と言っていいぐらいやってきてるシーンなので、なおさら、三谷さんが腕によりをふるって書いてくれるものだと確信してて、楽しみ。

今週もうひとつの男女のシーンは、なんと親世代。




春日信達をハメて信濃を大名の空白地帯にした、先週の調略の大胆さ・老獪さを思えば、妻の懐柔策はあまりにもお粗末であるw が、そこがいい!! 

この夫婦のありようは、とても人間くさく、好もしい。夫が機嫌が良いことはわかってもその理由を履き違えてる薫が先週描かれたように、2人は基本的に全然違う方向を向いているし、理解し合っているわけではないんだよね。でも、昌幸は妻が未だに京風の着物や調度で暮らすのを受け容れてるし、薫は夫が膝を求めれば喜んで差し出す。でも、イヤなことはイヤと言う。相手は変な調略はかけないで(笑)とりあえずは一旦引き下がる。そうやって10数年を一緒に暮らして(彼らはまだ30代後半の設定でしたよね)、子どもを(少なくとも)3人以上作ってきたんだろう。

さて、先週ラスト、大いにカタルシスを与えてくれた「信濃、国衆独立国家構想」なのですが、絵に描いたような不調ですw 

しかし、室賀さんだけがやる気満々という、まさかの、でも「あー、そう来るか!」な展開。



「上杉も北条もいらん! 我らの国をつくろう」という呼びかけに、雁首揃えて目を逸らし首をひねる国衆諸氏。室賀と正武と同じくらい、真田昌幸にも、人望も力もないらしい。北条、上杉と言った大名との力の差が明らかになるシーンのひとつ。



TLでも外道の名をほしいままにする昌幸が「国衆連合」というある意味ロマンチックな夢を見、「信用第一、一途が信条」な素破の親玉、出浦昌相が「そんなのは夢のまた夢」と言わんばかりに、外道を大名に推す構図は面白かったですね。

「北条や上杉を追い出し信濃を空っぽにした、その才覚と度胸があるそなたなら大名になれる」と出浦は言うが、才覚と度胸だけでは大名にはなれないと昌幸は思っている。眼裏には武田信玄の鮮やかな残像。信玄こそが大名たるものの理想を圧倒的に体現した姿であり、自分は足元にも及ばないのだと。



戸を開けたらびっくり顔の信幸。この脚本演出が面白くて、笑いつつ唸った。己の才覚と度胸は昌幸にも自負があるはずで、であれば足りないのは、何か、人間の器の大きさのようなものだと思っているのではなかろうか? そしてそれはおそらく正しい自己評価なんだろう。

・・・というふうに思ったのは、物語のそこここで信玄の偉大さが言及されるからでもあり、それと昌幸の造型とを対照するからでもあり、やはり、ここで信幸が現れたからでもある。



乱世が終わったあと大名になる信幸。それは父や弟の犠牲の上でというのではなく、信幸自身にそもそもその器量があったのだというふうに描く脚本なんだと思う。しかも、今の段階では、老獪で度胸のある父が大器であり、純粋まっすぐ君な造型で、しかも中の人が大泉洋である(笑)信幸はちっちぇー器のように、一見見えるのに、実は逆なのだと脚本が仄めかしているのが、ものすごく面白い。信幸自身も、「父上の器は大きすぎる」と口にしている(5話)。父の大きすぎる器に、今回も翻弄されている(笑)。それでも、「お屋形さま」のように器が大きいのは実は信幸なのかもしれないよー、と脚本は言っているんである。

そしてそういう目で見ると、うんうん確かにそう見えるんである! 松を失ったことも春日の調達も、仕方がないのだといち早く受け容れる信幸(まぁ、これはどちらも当事者じゃないからともいえるけど)。くよくよする弟を諌め、けれど「おまえは疲れているのだ」と気遣える信幸。父に翻弄されても、父の器の大きさを素直に尊敬もしている信幸。故事に通じ、国衆連合に夢を見る信幸。病弱で心安らがせてくれない妻に歯がゆい思いはあろうが、受け容れている信幸。曲がったことが嫌いな信幸。まっすぐな信幸。



梅ちゃんとのラブチャージもあって立ち直り、ぶん張り切ってる弟が献策したときの、あの表情、あの声音! 大泉洋すばらしい。まだ若くて未熟だし父に翻弄されてはいても、信幸には人間的な度量があるのだと思う。人を信じ、称賛し、受け容れ、まっすぐに進める度量が。そして、その「まっすぐさ」は「父上にそうあれと言われて育った」と6話で信幸が述べたように、昌幸が彼に求めた姿でもある。

この、関係性ね! 息子は大きすぎる父に翻弄されつつも、父を尊敬したり懐疑したりしながら育っていて、けれど同時に父に無いものを持っている。父は自分にないものを知っていて、だからこそ息子(嫡男)に「そうあれ」と育てるも、普段はそのまっすぐさゆえにことごとく意見が合わない。戦国乱世では、父の生き方をしなければ真田は途中で潰れていた可能性が濃厚。でも、最後に残るのは息子。偉大な信玄は、けれど家を滅ぼす息子しか残せなかった。自らを信玄の足元にも及ばないと思っている昌幸は、信幸という偉大な息子を残す。この、一筋縄ではいかない関係。単なる仲良し親子でも、反対に憎しみ合う親子でもない、複雑で濃密な親子関係! 

ということで、主人公である信繁の成長もメインエッセンスだったんだろうけど、そこはいわゆるストレートな成長譚なので、三谷さんが仕込んでいる昌幸-信幸の親子関係のチラ見せに超みなぎってしまった。もちろん、昌幸-信繁の親子関係も、信幸-信繁の兄弟関係も、それぞれに濃く豊かなものが仕込まれているのは、これまでの作劇でもうよくわかっているのである。そういえば、親の代の兄弟関係。



氷の愛の武将・直江山城のところから無事に脱出してきた信尹が、兄の前でも疲れた顔ひとつ見せず素早く徳川に走り、また堂々たる仕事をする姿に目頭が…。ここの兄弟関係にもいつか山場がくるんだろうなあ。

サブタイトルである「駆引」は、今日もまあいろいろあって、そうそう、徳川からの誘いに「そっちのほうが面白いから」ぐらいの勢いであっさり乗る昌幸も面白かったよね。負けそうな方に肩入れしたほうが恩を着せられる、そういうところがオメーの度量の小ささなんだよと(笑)。昌幸を異様に(とすら、もはや思える)出浦さんが「また始まったか」と真顔で吐くのも面白く(笑)。

で、信繁くんがひと皮剥けたのもよかったんですが、結局そのあとの、北条-徳川同盟がすべてを持っていきましたw 何だあの頬げたの撫であい合戦ww 大大名同士があれやっても既に浮かない真田丸の作風よwww

でも、あそこに至るまでの氏政がかっこよくてねえ。言葉少なな中でも「雑魚にかまってるヒマはない」にちびりそうになりながら喜ぶ私が(笑)。氏政が放った「鷹が全てを見ていた」のが、このディテールの描き込みが半端じゃない物語に、すばらしい高さも与えましたね。前回、言わば真田昌幸の「地を這う者の策略」に手玉に取られた北条と徳川が、今回は大名らしい俯瞰の目をもって、あっという間に事態を覆す。国衆と大名との力の差をまざまざと思い知らされます。前回ラストのカタルシスはどこへやら、また最大級のピンチに見舞われる真田。でもそれが、見ていてストレスではなく、むしろ最高に面白い。
 



そう、この真田丸の物語の最大の敵は、徳川。だから徳川を最強に固定するのではなくて、先週・今週は、北条>徳川 の図が描かれたのよね。徳川は(家康が必要以上にわたわたするだけでなく笑)、その場その場の対応に追われている。北条でかい! この北条がなすすべもなく秀吉にのみこまれていくなんて、ああ。見たいけど何だか見たくないくらい、すっかり感情移入である。徳川ももちろん良い。内野さんのガッツポーズ、あれ思い出すだけでちょっと元気出るもん(笑)。