伊勢崎賢治 『紛争屋の外交論ーニッポンの出口戦略』 “第1章 紛争屋が見た「戦争と平和」
紛争屋の外交論―ニッポンの出口戦略 (NHK出版新書 344)
- 作者: 伊勢崎賢治
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2011/03/08
- メディア: 新書
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伊勢崎賢治
:1957年生まれ。インドネシアでスラムの住民運動を組織したあと、アフリカで開発援助に携わる。国連幹部や日本政府特別代表としてアフガニスタンなど 紛争地各地で武装解除を指揮。東京外国語大学大学院地域文化研究科教授、平和構築・紛争予防学を担当。
(2011年に上梓された本です)
◆
Q:なぜ戦争はなくならないのか?
A:戦争は儲かるから
軍需産業。戦争を伝えるメディア。復興する建設業者。人道援助NGO。
・・・・など、さまざまなところにお金が入り、利益をもたらす。
もちろん、利益を得るのは少数であり、大多数は被害者になる。
Q: 戦争、紛争の原因は?
A: 貧困(であることが多い)
●では、貧困の原因は?
→ その国や地域に構造的な問題がある。
例)独裁政権。
独裁政権では監視機能が働かず、政権が好き勝手出来る。賄賂の横行。
↓
賄賂が横行すると、公益が私物化されていく。密輸が黙認され、公的な財源がなくなり国家財政が破たんする。
↓
国家財政が破たんすると、公共サービスが破たんする。
(例):水や電気の供給。教育。警察機能など
★上記のような流れで国や地域に貧困がはびこると・・・
国連やNGO団体が国際援助に乗り出し、公共サービスの代替を始める。
つまり、
「本来、その政権が負うべき責任を肩代わりする」
= その国(地域)の構造的矛盾を隠蔽し、悪政を延命させる面を持つ。
また、警察機能の崩壊のため、赴任する外国人は、国連も企業もNGOも特権階級も皆、民間の警備会社や軍事会社から私的にガードマンを雇う。これらはすべて外国籍。
↓
国際援助は、貧困の根本的原因となる悪政を延命させ(新たな貧困を作り)、さらに貧困を通じて海外への利益を出す「マッチポンプ」な面がある。
たとえば、世界最貧国のひとつ、シエラレオネの国家予算は日本円100億程度。1つの企業が買収できる程度の小規模。それでも、国連やNGOが束になってかかっても、依然、最貧国のまま。
・・・・→「貧困対策の難しさ」
Q:紛争を予防することはできないのか?
A1:近年議論が盛んになっている「予防外交」・・・いずれもハイレベルの外交交渉で、のちに合意が決裂することも
A2:国連の介入・・・常任理事国の利害が絡むと機能不全に
→紛争を予防するのは難しい。
→貧困対策によって紛争を終結させるのは難しく、むしろ貧困を連鎖・拡大させる可能性がある。
・・・シビアな現実認識が必要といえる。
Q:核兵器を廃絶すれば戦争による大量死は防げるか?
A:ノー
・1994年ルワンダ内戦では、わずか100日で約80万人が死亡
凶器は、マシェティとよばれる農作業用の鎌や、どこの家にでもある道具
●なぜ、生活の道具を使って、そんな大量殺傷ができたのか?
→ 「熱狂」 扇動された民衆が戦うと大量破壊兵器以上の殺傷能力を有する
扇動の媒体は地元のFMラジオ。
フツ族メディアが、ツチ族に対する憎悪を連日煽り、刷り込んだ。
刷り込みによって、大量殺傷は「正義」に昇華してゆく・・・
Q:正義が守られれば戦争はなくなるか?
A:ノー
正義は人によって・国によってさまざま。
さまざまな正義同士のぶつかりあいが「戦争」になる
むしろ、
「○○は圧政で民衆を苦しめているから、
○○(ex:政権)を多少の犠牲が出ても倒さなければ」
という正義が戦争開始の大義名分になる
Q:戦争はどうやって終わらせるか?
A1:徹底的にやっつける
例1.第2次大戦の日本
玉砕を辞さない戦争を繰り広げた日本人が、本土空襲・沖縄戦・2つの原爆を落とされて無条件降伏。その後70年、とりあえず戦争を起こさず、戦争による犠牲者を出していない。「徹底的にやっつければ、復讐は連鎖しない」という実例のひとつ。
例2.スリランカ
1980年代から、政府(シンハラ人系)から独立しようとするタミール人の勢力LTTEが抗争。2002年には停戦合意するも、2006年から戦闘再燃、2009年に政府軍が総攻撃して20数年にわたる内戦に終止符をうつ。
この総攻撃は多数の犠牲者を出し、国際社会からは人権侵害の真相究明を求められているが、勝者スリランカ政府は応じず。厳しい非難がある一方で、「20年以上の内戦の苦しみを思えば、あのままズルズル戦闘を続けるよりはよかった」という評価もある。
Q:戦争はどうやって終わらせるか?
A2:戦争犯罪を免責して停戦させる
戦争犯罪(多くの人間の殺傷)はもちろん人権侵害に該当。本来、首謀者は罰せられるべき。
しかし、停戦後に戦争犯罪人として裁かれるのがわかっていて、停戦合意する首謀者はいない。
よって、シオラレオネの内戦の和平合意(クリントン政権の仲介)では、最初から首謀者をはっきり免責。首謀者全員の恩赦し、リーダーに副大統領のポストを与えた。
人道的に許されることではないため批判も多いが、それよりも停戦を選んだ例。
―――(例1・2より)戦争終結には多大な犠牲や人権侵害が伴う
Q:戦争はどこから始まるか?
A:政府(か、それに準じる団体)が宣戦布告したとき
↑のように思えるが、実はそうではない!
「多少の犠牲を出そうが敵を抹殺する」ことを
有権者の大多数が支持しない限り、民主主義国家では戦争ができない。
そのような民意の醸成にはあるていど時間がかかる。
→ 「熱狂」の熟成 が必要
「熱狂」を作り出す手段:
政府。メディア。教育。有名人、芸術家や音楽家。
など、さまざまなものが動員され、
民衆と政府が刺激し合い、相乗効果によって促進される。
そして社会全体が戦争に突入していく。
→宣戦布告よりずっと前に戦争は始まっている。
これを踏まえて著者・伊勢崎賢治の指摘:
「日本は、心理的には戦争の前段階に入っているのでは?」 詳細は次章にて…
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