『真田丸』 第2話 「決断」

f:id:emitemit:20160111201544j:plain

 

楽しーい! 硬軟のバランスがすこぶる良い感触です。大河ドラマに何を求めるかはそれぞれですし、大河ドラマと一言で言えど、50数作、様々な作品が作られてきたわけですが、基本は「歴史エンターテイメント」だと認識しています。ワクワクドキドキが基本で、随所にドドーンとかゾワーとかウガーッとか絶句とか。

特に最序盤だということを考えると、主人公周りが呑気なのは定番で、「大河なのに軽すぎる」というご感想も散見しますが「え?こんなもんよ?」というのが大河の猛者(久々に使ったこのフレーズ!笑)の私の感覚です。

近作でいえば、あれほど格調高かった『八重の桜』の序盤も主人公と山本家はのんびりしたものでした。川で魚とったり、顔がススだらけになって縁談話が立ち消えたりね。武田信玄だって太平記だって、序盤は家庭の事情やら主人公の恋やらに時間を費やしており、クスリと笑える会話劇などもたくさんありましたよ。

大河ドラマの核にホームドラマがあるのも定番です。独眼竜も武田信玄もそうでしたね。要はホームドラマが面白ければいいんです。史実(とされている説)から想像を膨らませて創作されたお話が、「歴史ってそうだったのかもしれない!」なーんて思えたら最高ですよね。

思うに、今回の『真田丸』は、ワクワクするホームドラマをやるにふさわしい規模の家かと。これが綱吉の江戸城大奥とかでやったら家庭内に政治や愛欲が持ち込まれ過ぎるし(要するにフジの大奥ね)、頼朝の家でやると権力闘争で血みどろです(それはそれで見たいけど)。真田はちょうどいい。今は戦国乱世の荒波に揉まれて、とにかく家族が生き延びることが最優先だしそのためには家族が結束しなければならない。彼らには家族しかないのです。でも人は、危険だからといって毎日四六時中、悲愴な顔ばかりして生きてはいられないし、(それこそ勝頼ほど追いつめられなければ)自分が明日死ぬとは思わないものです。戦国乱世の武将の一家にとって、図太さも生命力のバロメータのひとつではないでしょうか?

ちなみに・・・

大好きな『風林火山』の宣伝でした(笑)


さて、前回ラストで野盗っぽい面々に襲われた、小さな真田丸(父上除く)の一行。ロケ撮影でのあの素晴らしい俯瞰図は、この長い物語のワクワクドキドキな初回として私の記憶に長く鮮やかに留まることでしょう。あの場はなんとか切り抜けたようですが、侍女が2人減っている、死ぬか大怪我するかして一行を離れたのでは?という指摘をTLで見ました。興味のある方は確認してみてね。

↑これは第1回の放送後のツイートですが、それが今回の襲撃で簡明に表現されていました。明らかに武士じゃない、農民っぽい人々がなけなしの装備で襲ってくる。兵糧狙いである、と。「皆、餓えているのです」。そういう時代。食うか食われるかっていうのが比喩じゃない、ダイレクトな世界なのです。

で、信繁が母上ご自慢の着物やなんかをくれてやることを思いつく。郎党が「いいんですか?」と確認し母上は「いいわけないでしょう!」とわめくんですが、迷いなく、母に断ることもなく、「かまわん!」と嫡男が下知するのがいいですね。





農民姿に身をやつすときも、「皆の者、顔に泥を」なんつって大真面目に指示する大泉洋の信幸が良いです。こういうとき(危急じゃない)は、「母上は一番気品がありますから」とか言って優しく(というかあくまで大真面目に)フォロー。そう言われると素直に顔を差し出す薫も良い(笑)。薫のキャラが良い! 公家出身で家族で浮いてる、とか事前情報見てたから、あー、よくあるめんどくさいやつかー(三条夫人的な)と思ったら、ひと味違う! 真田テイストとは違うが、これはこれで家族の中に溶け込んでいる(笑)。薫と昌幸のハグに超萌えました! 最近は大河も朝ドラも、結婚何年経っても面白みのない夫婦が多かったので(主観です)、三谷さんが描く夫婦関係、男女関係に超期待しております。ユニークで、かつビターなのも混ぜてくると予想。

しかしまあ、この母のキャラや、祖母の「信幸の言葉は聞こえない」設定が、のちのちどう響いてくるのかこないのかはまだわかりません。そのあたりは作り手の創作になりますし、あまり深読みしすぎず、今このときの物語を楽しみたいと思っております。

 







信玄の亡霊と言葉を交わす勝頼のシーンが秀逸でした。勝頼は偉大な父を畏怖しているけれど、だからといって疎んじたり怖さ余って憎んだりすることはなく、明らかに慕っていることが、あの短いシーンでよくわかりましたよね。彼の言葉を聞きたがっていた。叱咤でもいいから。そして「そちらにいくから四郎をたっぷり叱ってください」ですよ。四郎ーーーっ! テレビの前で今日も悶絶。

普通、大河の初回や2回目あたりでは、主人公の初恋だとかいう(結構どうでもいい)エピソードをやるものなんですが、今作最初のエピソードは武田滅亡、勝頼の死なのです。これは勝頼がヒロインである証拠・・・いやそれは冗談ですが、この武田滅亡、しかも偉大すぎる父のあとに滅亡した勝頼が物語の起点であることを我々は忘れるわけにはいきますまい。

それとは別ですが、TLで見かけた、「最初と最後が滅亡だからこそ、暗くなりすぎないテイストにしているのではないか」という呟きも何となくわかりますね。敗者の物語=暗い物語ではないと三谷さんは言っている(たぶん)。

平岳さん。篤姫にも江にも出ていましたが、これで前にもまして待望される大河役者の一人になりましたね。彼が大河で次に何の役をするのか本当に楽しみ。てか、篤姫や江に出てたからこそのキャスティングでもあったのだろうな、屋敷Pだから。作品の出来や好みはどうあれ過去作のキャリアも大事なのだわ…。

小山田パイセンのラストは戦国モノの王道って感じ。こーゆーの初めて見る小学生とかはインパクトあるだろうなー、と自分の大河体験を思い出します。信忠が、別に馬鹿じゃないんだけど腹蔵ってもんがなさそうで、信忠らしい良い味出してました。吉田鋼太郎さんが信長にしてはえらく濃い顔だから…かどうかわかりませんが、嫡男に肖像画の信長っぽいビジュアルを持ってきたのね、という感じもありました。それにしても、段田安則さんの、滝川一益の似合うことよ(笑)。





石川数正、鷹にエサをやる本多正信に冷たい一瞥をくれて登場するのもよかったですねー! 「ふん、この裏切り者の出戻りめ、信用できん」ぐらい思ってる感じ。「徳川は一心同体、心配ご無用!」って秀吉か、おめーは! 後年、秀吉ry・・・のくせにってやつね(笑)。

「生き延びられればそれでいい」ももちろん印象的ですが、「これからどうなる?」「わしはどうすればよい?」なんて尋ねる家康! 主体性なし!(笑) いや実際、この時点ってそういう心境だっただろうなあ。これがどうやって、秀吉の死後グイグイいく家康になっていくのか。

阿茶局にも冷たーくたしなめられる(でもそのたしなめは、愛情・心配ゆえって感じもちゃんと出てたよね)家康なので、当分は、有能な配下たちを使いこなすというよりは、支えられるのかもしれないですね。家康が「勝頼は取り巻きが間抜けすぎて滅んだのか」と言ったのの反対。真田もこれからいろいろな大名に仕えたり人質になったりするわけで、どのような配下を持つかによって大名の運命が大きく変わる、ということを描くのは大いに考えられる。

大志など何もない家康ですが、虫の好かない梅雪の手を自ら握り、大仰に持ち上げるくらいの腹芸は朝飯前です。家康はこうやって生き抜いてきたのであり、けれど「裏切り者は嫌いだ」というまっとうな性質も持ち合わせている。「武田が滅んでもうれしくない」も、そういう性質ゆえの言葉だと解釈。愚鈍でも卑怯でもなかった勝頼が滅びてしまう乱世なんてうれしくない。のちに江戸の太平の世を築く家康の、いってみれば逆算のセリフですが、「未来人目線」ではない、天生十年の家康が言って自然なのはさすがです。勝頼がいわゆる二代目のアホボンでなかったというのは昨今の歴史研究での潮流でもありますね。


ちなみに三谷さんは昔から大の大河ファンだが、斬り合いを書くのはあんまり好きじゃないと言ってます。面白くないそうです。だから「清須会議」なのです(笑)。三谷さん選定、日本史三大会議のひとつだそうで(笑)。

というわけでくじ引きがちゃんとクライマックスになっている。めっちゃ笑った! もちろん笑いだけじゃなくうおー!という高揚があります。

こよりのクジを持ち出すまでにも、昌幸は迷いに迷っているのですね。一人でも。嫡男&重臣たちとのパブリックな会議でも(ここには次男坊の信繁は加わっていない!)。決して簡単にピピーンとグッドアイデアが浮かぶわけではない。彼は天才ではないし、そんな彼が初めて経験する「未曽有の危機」なのです。

遅かれ早かれ、織田は攻めて来る。そのとき、城に籠もって戦うか、それとも打って出て戦うか。軍議での二者択一に応えは出ません。父は2人の息子を呼びます。これは私的な語らいなので信繁も混じります。私的な語らいだけど、実質的には意思決定のための最高機関、って感じの雰囲気がいいですね。真田くらいの規模の家らしいです。

昌幸「武田は滅んだ。わしは己の不甲斐なさを責めるのみじゃ」
信幸「父上に非はございませぬ!」
昌幸「うん、わしもそう思うんだ」

まずはジャブ(笑)しかしそういう客観的な把握はちゃんとできる人だというわけです。「乱世ここに極まれり。ひとつ討つ手を間違えれば即座に滅亡につながる」それが勝頼の姿であり、小山田信茂の姿です。「心してかからねば。」兄弟、神妙に頷きます。

籠城するか、打って出るか。

「この上は、織田と戦ういわれはない。」

1回目の『エーッ?!』です。その手があったか、と。

上杉につくか、北条につくか。上杉は、弱気を助ける家風だから喜んで迎えてくれるだろう。

「北条とは、かねて何度も文をやりとりして気脈を通じている」。

2回目の『エーッ!?』(笑)。勢力の境目にいる国衆(武将)が、今現在従属している大名だけではなく、境目の別の大名とも外交があるのは、考証の丸島さんらの著書にももちろん詳しいです。「言っておくが、武田を裏切っていたわけじゃないぞ」そうです、それが戦国乱世の生存戦略というものです。交渉ルートを確保しておくということです。

さあ、どちらにするか。ここで、今日のメインアイテム、こより登場(笑)。

信幸「そんな大事なことを、くじで決めるなんて」
昌幸「わしは八百万の神に託したのだ。早く選べ。ほれ。ほれほれ」

ほれほれ、っていわれても(笑)。古代、太占とか盟神探湯のような占いで政(マツリゴト)の大事を決定していたのは言うに及ばず、この戦国時代にも、光秀が本能寺で信長を奇襲する前に愛宕神社のくじを引いたのは有名ですね。それは史実というより巷説かもしれませんが(何度引いても凶だった、って話)、クジに従って何かを決める、というのはこの戦国時代でも何も100%荒唐無稽ではなかった、と光秀の巷説が示しているわけです。

クジなんて・・・と思いつつ、引くとなると緊張の面持ちで臨む信幸お兄ちゃん(ここ、大泉さんの耳から首筋にかけてが真っ赤になっていて、本気で引いてる感がすごかった)。ところが、抜けない。じゃあこっちを、ともう一方に手をかけるが、抜けない。明らかに父が引っ張っている(笑)。なんだこのオッサン(笑)。

昌幸「こんな大事なことを、くじで決めていいのか・・・」

だよね(笑)。ここで信繁が「上杉にしましょう!」と明快に自説を披露しますが、理由を聞けば意外に考え無しです(笑)。

信幸「上杉につけば真っ先に織田と戦いになるぞ。下手すれば捨て石にされる恐れもある」
信繁「そうですね。じゃ、北条にしましょう」
信幸「北条は織田に臣従しておる。突き出されるかもしれないんだぞ!」
信繁「そうですね」
信幸「真面目に考えろ!」

と、信幸お兄ちゃんの説明ゼリフですが、とっても大事な説明をありがとうございます。コミカルなやりとりでわかりやすく説明してくれて有難いですね。つまり、織田の勢力範囲との境目に本拠している以上、どちらに与しても真っ先に尖兵扱いされると。それが、大勢力の狭間にいる真田の難しさであり、そこをどーにかこーにか生き抜いていくからドラマティックで面白いわけですよね!!

昌幸「よし!わしは決めたぞ。わしは決めたぞ、息子たち。わしは決めた!」

うおおおお、どっちにするのですか?!

昌幸(こよりを諸共に火中へ!!)「どちらにもつかん!」

えええええーっ。何回驚かせるのだよ!!

信幸「まさか、我らだけで織田を迎え撃つのですか?」
昌幸「織田も迎え撃たん」
信幸「では・・・」
昌幸「織田につくことにする」
信幸・信繁「織田に?!」
昌幸「敢えて火中に身を投じてみるのだ。織田に会ってくるぞ!」ニヤリ

うおおおおおお! 
なんという見ごたえあるクライマックスでしたでしょう。なんという、戦国サバイバルの一幕なのでしょう。部屋の中なのに。囲炉裏端で親子3人なのに。

個人的な解釈ですが、昌幸は息子たちをおちょくってたわけじゃないと思うんですよね。一人で悩み、公式会議で悩み、そのあと一人で考えても決められないまま、息子たちを呼んだ。クジも、半ば戯れ、半ば本気だったと思うんです。「えーい、ままよ!」な気持ちと言いますか。

でも、やはりクジで決めるのを彼の性質が拒んだ。「運を天に任せきりにできない」たちなのです、昌幸は。なぜなら、「捨て鉢にならず最後まで策を尽くした者だけに活路はひらける(from 第一話)」と言う人物だから。

で、息子たちがワーワー話しているのを聞いて、ハタと心が決まった。こういう決断ってあると思うんですよ。悩んで悩んで、考えに考えたから、ハタと妙案が降りてくる。もちろん、この時点では妙案なのかどうか、本人たちにはわかりません。でも、「よし、これでいこう!」と思えるのは、ここまでひっぱって悩みぬいたから。こういう過程を描く大河が少ないんですよねー。画期的な案が、「こん・こん・こん・ぴーん」って一休さんみたいに簡単に閃く。薩長同盟も船中八策も中国大返しも。

すっごい楽しかったです。もちろん勇壮な合戦は戦国絵巻の華で、痛みを伴う命のやりとりもありましょうが、それだけじゃない(一年間あるんだから、それらもこれから描かれるのだと思いますよ。ていうか、勝頼と小山田が既にそうだったわけで)。「どんなことをしてでも生き残る」「捨て鉢にならず最後まで策を尽くす」そんな戦国サバイバルが描かれるのですよ!と、2話目にしてめっちゃ私の目の前の活路が開けました(笑)。それは時にヒリヒリと痛く、総毛立つような残酷さで、だけどきっとワクワクするものでしょう!!

主人公の信繁が、才能の片鱗のようなものを感じさせつつも、今はまだのんびりしているのですよね。武装農民が襲ってきたとき、斬るのを一瞬ためらうんだけど、兄貴に怒鳴られてコクンと頷くという、軽いシーンにしていたのがすごく良かったですね。あそこでグジグジと悩んだり、そのせいで誰かが犠牲になって凹んだりして尺を費やすと、その辺の凡作駄作と同列になります(笑)。例、天地人(好きな人ごめん)。

そりゃ人間だし若いんだから最初はためらう。でも2度目はちゃんと斬る! それが戦国男児です。それでいいのです。信繁がボコボコにしてやられたり、後悔しきれないほどの痛みを負うことは、この先ちゃんとあります。別にドラマストーリーを読んだりしたわけではありませんが絶対あります(笑)。雑魚を斬るか斬れないかで悩んだり、目の前で人が死んで何日も落ち込んだりするのは芸の無い脚本家の作品か、または現代からタイムスリップする作品でだけ描かれるものです(笑)。

そう、三谷カラーが好みに合うかどうかは個人の嗜好ですが、今の真田まわりのライトな感じを大河らしくないとか緊張感がないとかいうのは早計だと思います。いつか重たいシーンになったときに(絶対になります。これは最近の三谷作品の話を聞く限りほぼ間違いなく、新選組よりビターなところは増えると思います)、この初期の軽みが幾星霜の向こう側に感じられ、懐かしくて泣けてしょうがなくなるのです。私にとって、そんな長丁場のドラマの楽しみを今の時点で確信させてくれる作家が三谷さんです。どうか体にだけは気をつけてくださいねー!(と、今日、五代さんを心配していたあさちゃんのように@「あさが来た」)

信繁が、「織田ってそんなに怖いんですかね?」って言ったでしょ。あれがミソよね。のーてんき。お屋形様の死を聞いたときも、現実感のないフワッとした顔をしていた。信繁はまだ半分は子どもで、武装農民に襲われるぐらいのことには現実的に対処できても、本当の戦国乱世の怖さはまだ知らないんです。戦国の雄たちの強大さも。彼は信玄時代にも間に合っていないんですから。でも大丈夫。これからちゃんと知っていきます。そして戦っていきます。安心してください。って私、何者?(笑)


最後に。


 

f:id:emitemit:20151201213953j:plain