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葉月の十三 / 人吉へ

●8月某日: 昼、家を出るまでバタバタ。サクと夫がスーパーに行っている間に、別途こっそり100均に行ってサクの旅路退屈対策グッズを調達してみたり。博多駅に着くと、駅弁を選ぶ間ももどかしげに「いこう、はやくいこう、はやく」とサクがホームに行きたがる。「まだ15分くらい来ないよ」「ホームに上がると暑いよ」となだめてみても聞く耳持たず。まーそんなに言うならね、と早めにホーム着、もちろん待ちぼうけの運命なので、夫はホームのキオスクに缶ビールを買いに行った。さあきたきた、九州新幹線800系つばめ! 新幹線に乗るってやっぱりワクワクする。40分で熊本に到着。この速さに慣れつつある自分が怖い。ここからは九州横断特急に乗り換えて行く。

別府から豊後竹田阿蘇を通ってきた列車に乗って、熊本から終点人吉まで。車両の乗客がほぼ全員左半分に指定席を取っていたのだが、これはこっちが眺望がいいってことですかね?! 「切符とるときこっちばっかり埋まっとったけん倣ってみた」と夫、長いものには巻かれてみるものですな!! やがて日本三大急流のひとつ、球磨川が見えてきて、列車は延々と川沿いを走るのだが、この景色がすばらしい。司馬遼太郎街道をゆく』によると

 

すべてが、山なのである。支流の一つの川辺川の水上は五家荘という山地で、標高1645メートルの上福根山などの群峰が落としてきた水を五木村の山々が受け、相良から人吉盆地に流し込み、ここから再び標高7,800メートル程度の山々を分け入れ、水流がそれらの山脚をたたき削るようにして流れ、やがて八代海にそそぐ。

(中略)

「おそろしか川ですよ」
と、このあたりの人ならみないう。(中略)水流は115キロである。流れ行くその両岸の山がみな急斜面をなし、このため山が雨水をスポンジのように貯えておくという堪え性がない。山に降った雨水はいきなり斜面を走る。鉄砲水のようにして球磨川に落ち込んで、水かさをみるみるふやすのである。

(中略)

その(球磨川の)流れで農耕文化をきずいたひとびとは、クマといわれた。クマとは山襞の古語である。球磨川の流れを眼下に見下ろしつつ、山襞に家と田を作り、山襞ごとに部族を成立させ、その部族がいくつかあつまって部族国家を為した。『日本書紀』の表現では「八十梟師(やそたける)」といわれた。むろん八十というは単に多いという形容だろう。「熊襲八十梟師」という。『日本書紀』ではクマ国とソ国を分けていて、クマはもちろん、地形が山襞(くま)ばかりの球磨川流域のことであり、ソは大隅(鹿児島)の隼人のことらしく・・・

 

で、この深い渓谷を縫って列車は走るのである。明治の終わりにここに鉄道を通した先人たちの叡智と労苦を思う。幾つものトンネルを抜けていくのだが、トンネルの入り口がすべて煉瓦造りでいかにも古そうで、また風情なんだわ。球磨川は、大きな岩の間をどしどし流れていくところあり、小さな石がびっしりと並んで浅瀬を成しているところあり、水量を調節するらしき装置が見えるところもあり、実に表情が豊かで、見ていてまったく飽きない。

1時間半の旅、おやつを食べたり、写真を撮ったり撮られたりしながら、子どももさほど飽きることなく楽しんでた。

16時半、人吉着。昔ながらの、それほど流行ってないけど落ち着いた観光地、って風情の駅前で感じよい。今夜の宿は「翠嵐楼」。チェックイン時に出された「温泉かき氷」なるものがものすごく口どけよい氷で目が覚めるような美味しさ、思えばこのときから良かったんだよな、この旅館。いかにもベテランらしい仲居さんが「こちらは○号源泉から引いた○○の湯、ここから降りていただくと×号源泉から引いたレトロ湯で・・・」と説明しながら部屋まで案内してくれる。種類の違う源泉がいくつもあってお風呂がたくさんあることだけはわかりました。

リーフレットを見ると、なんでも明治の終わりに人吉で初めて温泉を掘ったのがこの旅館の創業者で、それまでは人吉から湯が出るなんて誰も信じていなかったらしい。徳富蘇峰先生(笑 なんとなく(笑)マークをつけてしまう)が旅館の揮毫をしているそーだ、さすが熊本! 部屋にもいい感じの露天風呂がついていたので、「とりあえずここで入ろうか」と言うが、サクが「歩いていく貸切風呂がいい」旨、主張するので、貸し切ってみたら、これがすごく良かった! 広々としていて、石の積み方もすごくよくて、誇らかに語るだけあってお湯にパワーを感じた。温泉サイコー! 10分ちょっとしか浸かってないのに、汗が止まらんよ。宿には「お散歩用玄関」みたいなのが設けてあって、下駄やサンダルが用意されている。

 

50mも歩けば球磨川の河川敷なのだ。ああ、すてき。長い一本道を、高校生らしい男女が自転車を2人乗りしてパーっと走っていく。ああ、すてき。部屋食、お品書きが残っているので列挙。女将特製梅酒、鮎のうるか和え、とうもろこし豆腐、もみじ羊羹、山うに豆腐、生きくらげ酢味噌。山と海の御造り(馬刺し&お刺身)、天然鮎の塩焼き、うなぎの茶わん蒸し、特選黒毛和牛ひとくちステーキ、自家菜園と地野菜のスティック、明太豆乳ディップ、山女のから揚げ、SL鍋・元気鳥のいい湯だな~温泉しょうゆ仕立て、五目炊き込みごはん(自家米ひのひかり)、赤出汁、漬物三種、温泉プリン、季節の果物。



全体に、奇をてらわず素材をこねくり回さず、シンプルに、食べやすく作っている感じで、いい。人吉温泉郷の老舗ということになるのだろうが、とにかく感じの良い宿だ。なんちゃらプランとかで、スパークリングワインのハーフボトルがついていた。和食にも合います。そのあと、ビールともちろん球磨焼酎!