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『ふむふむ おしえて、お仕事!』 三浦しをん

 

ふむふむ: おしえて、お仕事! (新潮文庫)

ふむふむ: おしえて、お仕事! (新潮文庫)

 

 

「特殊技能を活かして仕事をしている女性に話を聞く」という主旨のインタビュー集。

目次を見ると、ビール職人、活版技師、女流義太夫三味線、コーディネーター、動物園飼育係、お土産屋・・・などなど、ずらりと並んでいて圧巻である。インタビュアーは三浦しをん。『舟を編む』で辞書の編集者を、『神去なあなあ日常』で林業を、『仏果を得ず』では文楽を取り上げるなど、いわゆる「お仕事モノ」を得意とする作家だ。毎度いろいろな資料にあたり、実際にも綿密な取材をしてから執筆しているようだから、鉄板な内容になるのは確実。

それにしても、その内実をなかなか想像しにくい職業ばかりだ。それは「質問しにくい」とニアリイコールでもある。しかしそこはさすがにしをんさん、自然な対話の中で、その職業の何たるかや、その人自身の魅力を引き出していく。

最初の章は靴職人さんへのインタビューなんだけど、「何時から何時まで働くんですか?」とか、「靴づくりのおおまかな工程を教えてもらえますか?」とか、奇をてらわない質問をしながら、

●一枚の大きな革・・・たとえば牛革は半身で売られるので、牛半頭ぶんの皮から、靴の各部分の形に型抜きしていきます。ここで無駄なく、きれいに型が取れたときが快感ですね。

●不器用でも悲観することはない。職人仕事が執着心があればできますね。今、メーカーが潰れたりしてるんで、ミシンも漉き機も圧縮機も、中古でいくらでもありますから元手もそんなにかかりません。

●将来は、二本柱でやりたいんです。一つは、洋服がすくな方に合うシンプルな靴。もうひとつは、足が弱ったひと、足に障害を持ったひとのための靴づくり。そのために技術力をもっと磨かなければ。いいことをするために、って意識じゃないんです。武器をいっぱい身に着ける喜び、みたいな感覚です。

などなど、いつのまにかすごく深いところまで話が進んでいっていて惚れ惚れする。あっという間に引きこまれちゃう。


ビールのテイスティングを「官能検査」というとか、義太夫長唄・清元など邦楽の違いとか、花市場における時間帯別の雰囲気の違いとか、その業界ならではのマニアックな話も面白いんだけど、同時に、普遍的な話もあるから、いい。

●(靴職人) サイズや履き心地だけを求めるお客さんだけじゃない。たとえば男性の方で「体が小さいので靴は大きくしたい」と思っている人もいる。はっきりとおっしゃらなくても、そう考えてるんだなあとわかれば、それに合わせて靴を勧めます。

●(漫画アシスタント) 最終的には、有名な作家さんだからとか、好きな作品だからとかいうより、先生や仕事場の魅力ですね。自分の作品を大事にしている方は、ひいては私たちアシスタントが描いたものも大事にしてくださる。魅力的な先生についているアシスタントはまた、みんな面白いし。そういう仕事場に残るためには、私の技術が高ければ、次も呼んでもらえる。

●(建設会社の現場監督) やっぱり、きついからおもしろいし、おもしろいからきついんです。そういう仕事の醍醐味って、あるじゃないですか。しんどいからこそ、それを乗り越えて、すごい充実感がある。

どんな仕事でもお客さん(クライアント)のニーズをとらえることが大事だし、人間同士の関係って大事だし、そして、仕事はきついからおもしろい。本当に、普遍的な真理だと思う。


「まえがき」に、

個人的には、安易な個性礼賛には同意しかねるのだが、「わざわざ礼賛などしなくても、ひとはみないい意味で『変人』である」と改めて確信できた気がする。

とか、

「そのままのきみがいい」と言いたいのでは決してない。そういう「思考停止系自分全肯定」は反吐が出るほど嫌いだ。「いい」「悪い」じゃなく、太陽が東から昇って西に沈むように、ひとはフツーに変人なんだ、ってことだ。


と書いてあるのにぶんぶん頷いた。このまとめを、「あとがき」ではなくて「まえがき」に書くのが三浦しをんの良心であり、プロ意識だと思う。

そしてこーゆーの見たり読んだりすると、やっぱり「いい仕事がしたいなあ」と思うのだが、相変わらず1円にもならない文章をパタパタ打つのに時間を費やしている私って・・・。