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『経世済民の男』 第1部 「高橋是清」

すごく良かったー。前編を見終わったとき「これで新島襄(@八重の桜)が成仏できる・・・」て思ったもんね。
80余年の人生をわずか2時間に。掘り下げていくにはあまりにも短い尺のはずなのに、この満足感。

アメリカで奴隷に・森有礼との関係・素行不良で大学南校罷免・唐津英学校・先物で失敗・仲買店ひらく・欧米派遣・ペルー銀山。前編の60分で、これだけのことを入れ込んでるんですよ。そりゃひとつひとつは短いんだけど、どれも不思議とちゃんと印象に残るのは、もちろんひとつひとつのシーンが鮮やかなこともあるが、それらが散発的なエピソードに留まるのではなく、つながっているように感じられるからだと思う。ひとつの人生の道すじだという感じがするのだ、ちゃんと(と、無意識に日曜8時にやってるアレと比較しちゃうよねどうしても)。

さすがにオダギリジョーをダルマ体型にするわけにはいかない中で(笑)、ダルマ=七転び八起きのイメージを前面に出した話の展開がうまい。放っておくとてんで大成しなさそうな危うさもありつつ、基本的に明るくてポジティブで好奇心旺盛、人に憎まれず、胆力もあり、それがそういうキャラだけで終わるのではない。様々な人生経験は類まれな有能さにつながり、胆力や有能さをあてこまれて次のレア経験の機会が巡ってくる。

これだけ有能かつ人柄のいい人は、世の中に何度でも求められるんだねと思ったし、昔は若くして国を左右する大きな仕事をやっていたんだねぇとあらためて思った。「偉い人」感マックスな森有礼が、暗殺により生涯を閉じたのが42才ってことにびびった。若い~! その若さで、大臣で大人物で風格があって国家の行く末を見通し、一方で若い者を気にして嫁を見つけたり仲人したりしてやっていたのよね。

この時代の作品に触れると「幕末・明治から第2次大戦までは、つながっているんだなー」と思わされることは多いが、本作では「ずっと暗殺の時代だったんだな!」と戦慄した。いや、知ってたんだけどさ。森有礼原敬犬養毅・そして是清自身。まったく、暗殺ドラマじゃないですか! 大正後期から昭和初期の暗殺事件の数々が、軍部に対して物申せる人材を失わせていった(殺された or 殺されるのが怖いから表舞台から去った)。その最後にして最大の事件が是清が暗殺された2・26事件(1936年=昭和11年)であり、以後日本は有効な歯止めなく戦争を遂行していくという認識はあったけど、暗殺って、ずーーーっと続いてたんだよね。

幕末には清河八郎佐久間象山や龍馬や中岡慎太郎が暗殺され、明治に入っては大久保利通森有礼が暗殺され、星亨も伊藤博文濱口雄幸井上準之助も殺された。「邪魔な者は殺す」のが当たり前の国であり、逆に言えば政治家ってホントに命をかけてやるもんだったんだな、っていう。戦後もね、長崎市長が撃たれたりとかあったけど、それはやっぱりレア中のレアケースで、やっぱり戦前とは違う世の中になってるんだなーと思った。

さてさて、オダギリジジョーめっちゃ良かったよね! 彼がこの時代にハマるのは、なんといっても英語の場面がかっこよく決まることにある! 唐津で前途ある生徒たちに語りかける英語ももちろんよいけど、外国人の中で英語を話す姿よ。英語はうまいし、体格もいいし顔も子どもっぽくないし、かっこいいことこのうえない。

欧米派遣の折は華やかでソフトに。日露戦争の戦費調達では、密やかに、ハードに。対比も効いてたと思う。どっちもかっこよかった~(メロメロ)。米国の紳士淑女の前で、赤ふん締めて「♪梅が枝の~手水鉢~」と歌いながら舞っても恥ずかしい茶番にならないのがオダギリジョーの芸と脚本演出の腕ですよ!! ほんと、天地人の「ドジョッコホイ♪」のトラウマは大きい(笑)。てか、ジョー、声いいね。歌うまいね。戦費調達の場面もちゃんと息詰まる交渉になってた。最近大河ドラマでは熱意と情を垂れ流す熱弁ばかりで(軍師と銘打たれたドラマすら)、政治的交渉ってほぼ皆無だからなー。

人間味のほうを女性遍歴(笑)で描くのも、ジェームス御大、さすがに巧い。

さすがに表情はまだ硬いしセリフ回しも淡泊かつ単調ではあるんだけど、雰囲気あったと思う。なんたって、草笛光子と2人の場面がしっかりよかったんだもん。若い是清が後ろから抱きしめながら「おまえに惚れているのだよ」とストレートに言う場面も、昼間、敷きっぱなしの布団の上でという舞台の割に淫らな感じがまったくしない。後年の再会は撮り方と脚本がやはりよかった。

このドラマでは、芸者も、主に手を付けられる女中も清潔感のある女に描かれていて、それでいて(あんな大河やこんな大河のように)小学生の学芸会みたいな子どもっぽさとは無縁なのだった。是清がケイコを孕ませたことが発覚する場面、夫が「昔ってすごいな・・・。女優がこの人(=松岡茉優)だから、何かあるんだろーなとは思ったけど」と述懐したのがおかしかった。もともとドラマなど見らん人やったのに、妻の(悪)影響ですっかりドラマニア的な見方を・・・笑

あの場面でのミムラも絶品。夫の言いにくいことを自分から投げかけてやり、鷹揚に許す言葉を言いながらも、握られた手はそっとはずして外を見る。私、ミムラさんってあんまり見たことなくて、『江』での洗脳されてるみたいな細川ガラシャの印象が強かったんだけど、こうしてちゃんとした作品で見ると、時代劇めっちゃ似合う良い女優さんじゃないですか。ほんと、駄作って罪だわね。

ケイコの子どもは正妻を母として高橋の子に。「ケイコはあくまで当家の女中じゃ」。是清の言葉を受けて「ケイコ、あんたそれでいいのかえ?」と尋ねる品子。それに対して、掛け値ない笑顔で大きくうなずくケイコが「はい」と言うのは口の形でわかるのだが音声をカットした演出がよくできてた。

ケイコは発言しない。けれど是清という“いい男”の子が産めて、子どもの将来が安泰で、幸せなのである。視聴者はそれを充分に受け取りながらも、“声のない女の儚さ”も感じるのである。是清とケイコが目を合わせて会話するシーンはまったくなかった。ああ、大人の脚本演出。あんな大河やこんな大河の作り手は、これを100回見て反省してほしいもんである!

森有礼すごくよかった。谷原さんはあんな「剛の者」な役もできるんですな。薩摩隼人からは程遠い雰囲気なのに。是清が放蕩するお座敷に乗り込んできたのが武田鉄矢風間俊介。迎える女将が岡本玲。完全に「純と愛」じゃないですかー!(喜)。藤本隆宏はお調子者な役。意外で楽しかった。