『新編 子どもの図書館』  石井桃子

どんぐり文庫の梶田さんにお借りした本。

 

梶田さんは高校時代からこの本を繰り返し読んでは「家庭文庫ってなんて素敵なんだろう、いつかやりたいな、おばあちゃんになってからでも」と思っていて、おうちを建てたのを機に(文庫をやることを前提に設計してもらって)、「どんぐり文庫」を始めたということ。いわばルーツ、原点の書ということになる。


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著者の石井桃子は1907年生まれ、戦前は文春や新潮で編集者として勤務し、戦後、欧米の児童文学や図書館の状況を視察したあと、1958(昭和33)年に家庭文庫「かつら文庫」を開設した。本書はその最初の7年間の記録が主である。

梶田さんが夢中になるのもわかる面白さで、私もほとんど一日で読んでしまった。開設までの経緯、年度ごとの記録、また幾人もの子どもの貸し出しカードから読書の変遷を振り返るなど、とにかくすべてリアリティにあふれる。

現代では図書館にも本屋にも子ども向けの絵本がたくさんあるけれど、そうなるまでには、こういった人たちの志と試行錯誤があったのだなあと思い知らされる。

ちなみに石井さんが児童文学の黎明期に協働していた中には村岡花子もいて、『花子とアン』ってホントにもったいないドラマだったよねーと思い知らされるんだけど。何年かしたら、石井桃子さんの朝ドラも作られるかもしれないけど、そのときは、児童文学を大事にする脚本家を選んでくださいね>NHK

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』や『シナの5にんきょうだい』、『小さいおうち』も、この当時はまだ訳されていなくて、原書を石井さんらがその場で訳しながら読んであげていたのを子どもたちがあんまり喜んで大人気なもんだから、訳して出版しましょうということになって、現代までのロングセラーがあるのだ。

いたずらきかんしゃちゅうちゅう (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

いたずらきかんしゃちゅうちゅう (世界傑作絵本シリーズ―アメリカの絵本)

 
シナの五にんきょうだい

シナの五にんきょうだい

 

 

石井さんが「子どもに読ませるべき本」としてかなり厳しい選別眼を披露している箇所もとても面白い。『ながぐつをはいたねこ』のかつての訳書2パターンについて、これはこうだから悪い、こっちもここが良くないと具体的にダメ出しをしたあと、「こうでなければならない」としっかり示す(今の訳書はそうなってるんだろうね、たぶん)。 

「たった一つのセンテンスにも、これほど厄介な問題が含まれているのです。」

という文章に、彼女のプロとしての矜持をビシビシと感じる。

子どもは抽象概念の少ない世界に生きているから、そのものずばりの主人公がすぐに出てきて、すぐに動き出し、事件が起こらなければならないという。それがよくできているのが、巷間伝わってきた昔話。時代ごとに再話され再出版されるものだが、その際にこの原理原則が崩れることがあるので要注意、という。

子どもの本選びにも参考になる。子どもの本って大人が選ぶ場面もあるからね。子ども・・・というのは自分の子どものみならず、できれば「本って面白い」「お話、楽しい」って思う子が多かったらいいなーと漠然と思うわたくしです。そんなとき、これだけ現実に尽力してきた人たちの言うことには大変な説得力があります。

あともうひとつ驚いたのは、もちろん東京の住宅地という土地柄はあったろうが、この時代、昭和30年代半ばで既に、小学生でも塾に行ったり受験があったり、また、作者の家庭文庫のようなところを「お勉強の役に立つから」という目で見る親も少なくなかったということ。高度経済成長期はもう始まっていたってことかね。