『天皇の料理番』 3話まで (「はなもゆ」「まれ」もちょこっと)

今クールは『天皇の料理番』と『Dr.倫太郎』を見てます。朝ドラも見てます。倫太郎は、中薗さんの脚本ということで少しの期待もしていないくらいだったのですが・・・まぁまたいつか別項で書くかも。完走できるかはわかんないけどとりあえず毎週録ってます。

天皇の料理番』、面白いです! 初回2時間の壁をがんばって乗り越えた甲斐がありましたー!(でもいいかげん、やめてよね、初回2時間)。さすが森下女史の脚本、信頼できます。女史を擁するTBSドラマスタッフの気合もすばらしい。私は録画で見ていますが、『花燃ゆ』を死んだ魚の目で見た後、『料理番』で蘇生するTLの人々の気持ちがよくわかるw

今、5/10放送の3話まで見たところ。主人公の篤蔵は、婿に入った先での仕事は続かないわ、それどころか家つきの奥さんを置いて出奔し連絡も寄越さないわ、上司の秘密のレシピノートを盗むわ、3話では妊娠した奥さんに何ひとつしてやれず逃げるように仕事に行くわ・・・かなりのザ・クズなんですけど、その愚かさを、作り手がちゃんと自覚的に描いているんですね。見ていてそれが伝わってくるんです。

「花燃ゆ」みたいに、「これ、主人公の愚かさを描きたいの? この子は賢い設定じゃなかったっけ? ただのブラコン? 時代の流れに巻き込まれるしかない小市民を描いてるわけ? でもこの子にも“志”とか言わせたりしてるよね? てか、志って連呼してるけど結局何? えーと、さあ感動してごらん、ってな演出してるけど不快なだけなんですけど? え?え?」みたいな戸惑い、不安感がないんです。書いてみて、花もゆさんにはまったく随時不安にさせられていることを再確認だw

そこへいくと、『料理番』は、どーんと構えてますよ。シェフとしての成功を約束しておいて、そのうえで、そこまでに紆余曲折があるんだよね、図抜けて成功する人には、常識では測れない奇矯なところや無神経なところもあるよね、多くの人の協力も犠牲も、奇跡のような巡りあわせもあるんだよね、という「基本的な文脈」をちゃんと伝えながら、よどみなく個々の場面を描いている。

ザ・クズな主人公となると、それをチャーミングに描くことも必須。佐藤健くんって、華奢で線が細くて繊細なイメージの役者さんだと思っていましたが、こういう、愚かで神経太い役もできるんだなーと感嘆してます。朴訥としたイントネーションの方言もハマってるし(「はいー」と「い」が上がり語尾が伸びる返事が好きです)、2話のラスト、「どやさー!どやさー!」ですっけ? 興奮状態、聞き取り不能なくらいの発声で、自分の頭をボカスカ下駄で殴るシークエンスとか、「バカの極み」感がすごかったです。

てか、森下さんてすごく聡明な方だと思うんだけど、なぜか「バカの極み」なシーンを書くのもうまいよねw

佐藤健くんは、たとえば窪田くんとか菅田くんみたいな「演技派」のイメージがある若手役者とはちょっと違うところにいる気がしますが、もしかしたら、同世代でもいちばん大きな「器」をもった俳優の一人かもしれない。どこか底知れないものを感じます。

ヒロイン俊子役の黒木華も完ぺきなまでに演じています。もちろん「あてがき」でもあるんでしょうけど、それにしたってすばらしいですよね。大げさな演技のない役どころなんですが、細やかな表情やセリフまわしで、表面的には抑えられている俊子の感情がひだ多く豊かに表現されています。彼女、顔立ちが古風なだけでなく、首が細くて長いのも女優としてすばらしい造形ですね。顎をちょっと動かすだけとか、うなじとかでも演技がすごく映えるんです。

こんなにけなげで、こんなに純粋で、心映えのすばらしい娘、いるはずないじゃん! 白けるぅ~!!

・・・と女性視聴者に思わせない、むしろ「かわいい、いたいけ、幸せになってほしい」と愛でられるヒロインの造形は、『JIN』で綾瀬はるかが演じた咲さんと同じですね。

それで思ったたのは、 「これだけ純度の高いヒロインを、異なるバリエーションで描ける能力を有しながら、脚本の森下さんは、それを朝ドラには使わなかったのだな」ということ。TBS日曜9時のヒロインは、朝ドラ枠のヒロインには適さないという判断があったのでしょうね。『ごちそうさん』のめ以子は、むしろ一部の視聴者に強烈なアンチを生むほど賛否両論、おバカで粗忽なヒロインでした(私は、大好きでしたよ)。

結果、『ごちそうさん』は視聴率的にも成功したし、すばらしいドラマだったと思います。朝ドラのヒロインには「叩かれる要素」も必要なんだろうなーと改めて思いました。天野アキだって亀山エリーだって、男性から見ると「かわいいヒロイン」だったかもしれないけど、女性は、肯定派でさえ、ある種の冷やかさを持ちながら応援しているものです。

朝ドラってメイン視聴者たる女性はみんな、小姑根性で見てるっていうかね。だから、批判精神に応えうるキャラじゃないとダメなんでしょうね。しかしその批判精神は、日9ではあまり発揮されないのだ。枠って、視聴者層って、面白い。

・・・というところで、『まれ』については、またいつか別項で少し詳しく書きたいなと。