『戦国大名』 黒田基樹 (感想 3)

戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)

戦国大名: 政策・統治・戦争 (平凡社新書)

流通についても興味深い。

「過書」というものがある。領国内の関所や渡といった施設の通行を認める通行証である。関所や渡では、「役銭」という通行税が課されるが、「過書」を持っていればそれが免除される。

「伝馬手形」もある。主要街道上に設置された「宿」から次の「宿」まで、伝馬(宿伝いでの人・馬による輸送)の利用を認める許可書である。有賃と無賃の二種類があった。有料の場合の利用料を「伝馬銭」という。ただし「伝馬銭」は、手形の無い場合の通常の利用料(駄馬による輸送なので「駄賃」といった)の2/3ほどの金額であったらしい。しかも、手形があると一般の輸送より優先された。発行から三日以内限り有効。

「過書」も「伝馬手形」も、戦国大名が発行するもので、公用や、大名に特別な奉公をする商人などに与えられていた。関所が徴収する通行税は場所によってはかなりの額になり、むろん戦国大名への上納分がさだめられていたが、家臣に知行として与えられている場合もあった。

「宿」は戦国大名に「伝馬役」(次の宿までの輸送)を負担することによって、大名に宿として認められ、保護された。各宿ごとに、一日における伝馬負担数が決められ(軍事行動の際はノルマ数が多くなる)、それを超えたものについては有賃で請け負うことになっていた。また、宿では「市」の開催も大名によって保証されていた。

ザッと見ただけでも、斯様に細かい、しっかりとした制度のあることがわかる。

これらは「同盟」「同盟破棄」についてもきちんと反映される。戦国大名といえば、あちこちで同盟を結んだり一方的に破棄したりというイメージがあるが、それらは軍事行動面で攻める攻めない協力するといった縛りだけではなく、同盟すれば、陸上では伝馬制を接続させ、海上でも同盟国の船に朱印を与えて通行させるなど、流通面でもつながるのだった。敵対関係になった場合は、街道はただちに双方で封鎖され、「通路断絶」となる。

敵/味方の視点だけでなく、領国経営の面からも出入国管理はなされており、たとえば武田氏では、麻・綿・布・木綿・塩・肴について移出を規制していた。内陸部である武田領では生産できない塩はもちろん、領国内で重要な物品が他国に大量流出するのを防ぐためである。移出するには武田氏からの「過書」が必要だった。領国で確保できない物資は、領国外から移入する必要があるため、武田氏は京都・美濃・会津駿河商人に過書を与えたり、彼らを被官させたりして、流通の安定につとめていた。(つづく)