『軍師官兵衛』 第29話「天下の秘策」

毛利との和睦は、

恵瓊に信長の死をバラす。恵瓊と官兵衛の秘密ってことに。(賭・狂気)
→信長の死を伏せた状態で隆景に和睦を了解させる(柔)
→隆景、別ルートで信長の死を知る
→信長の死を知った隆景を気合で説き伏せる(剛)
→隆景、これまた別ルートで信長の死を知った兄・元春を説き伏せる

・・・という数段構えになってました。割と凝ってるというか。

が、これが脚本として良かったかというと、やはりそうは思えませぬ。

しょせん、カッコ書きにした(賭)、(柔)、(剛)と、官兵衛の姿をバリエーション豊かに見せるための、都合の良いシナリオだよなーと思いました。必然性が感じられないんですよね。

最初の時点で、恵瓊が隆景にバラさないという確信をなぜ持てたのか、わかんないんですよ。たぶん、恵瓊の「山師」的性格を熟知して、きっとノッてくるだろう、っていう官兵衛の「人を見る目の確かさ」の表現かもしれない、そして恵瓊役の山路さんはものすごく「山師」っぽい演技をしているので割とスムースに見ることはできた。でも、なんか釈然としない。「小早川隆景には言わないつもりで、恵瓊にだけ言った」行動の必然が見えない。

この期に及んで「清水宗治に再度寝返りを促そう」なんつーこと言うのもナー。ここは断腸の思いでもいいから「清水には死んでもらおう」にならなきゃおかしいでしょ、ブラック開眼軍師サマなら!! その変化でドラマティック感を与えるための、以前の「宗治を助けたい」じゃなかったのか。

ただし、ここで「寝返りを促す」官兵衛は、そのセリフとは裏腹に、たいそう怖い目をしていた。「どうせ、宗治が応じないことはわかっている、促せば奴は自刃を決断するだろう」と読んでいるような。それが、脚本による指示なのか、岡田くんら現場の人間が判断した演技プランなのかはわからない。私としては、ここはハッキリ「死んでもらおう」と明言して(泥をかぶって)ほしかったなー。でないと、見逃す(=セリフを字義どおりに捉える)視聴者もたくさんいるし、それを見込んで「主役を守ってる(悪者にしない)」ように見えてしまうんだよね。

隆景との最初の会談でまたしても宗教のお題目を唱えてたのにも、もちろん萎えた。「天下のため」は、百歩譲って良いとしても、「乱世を終わらせる」はホントやめてほしい。荒唐無稽すぎる

だいたいね、官兵衛やん、「秀吉を天下人に」ってイキってますけど、その発想の出どころは竹中半兵衛の遺言なのだとしてもだね、やっぱり唐突すぎるんだよな。信長の死について何の言及もないし。最後まで信長に疑義をもつ様子を見せなかった官兵衛だったが、その割には、信長を失った悲しみをチラとも見せないのは変。ここまで「ご運がひらけましたぞ(邪悪な笑い)」路線でいくなら、以前から、信長の方針に疑問を持ってりゃよかったのに。せっかく、荒木村重とも友だち設定だったんだし。

まぁつまり結局は「新しい世=乱世の終わった平和な世」を作れる英雄を求めている、というのが本作の官兵衛の軸ってことなんだろうけども、その軸にまったく感情移入できないのがホントつらいわw


とはいえ・・・。狂った目で敵方に信長の死をバラしちゃう官兵衛やん。隆景をあざむいて和睦をすすめる官兵衛やん。臨時ニュースを知った隆景を恫喝する官兵衛やん。いろんな官兵衛やん=岡田くんの演技を見るのは確かに楽しいです。主役の演技を見るのが楽しい、って、ドラマの大きな訴求力になります。こんな脚本でも(笑)

特に、鶴見辰吾の隆景はこのドラマの良心。戦国に生まれたら、このドラマの隆景の側女になりたいよ、あたしゃ(笑)。隆景と官兵衛、ふたりのシーンはとても見ごたえがあります。信長の死について「欺いたんじゃない、こっちの利にならないから黙っていただけだ、アンタが俺の立場でもそうするだろ?」ってセリフはよかった。岡田くんのセリフ回し、表情も、超かっこいいし。

まぁね、隆景も「漢(おとこ)」であるからして、「信長の死を知ってなお、官兵衛に賭けた」というシナリオは、美しいのではありますよ。んでもなー、そういう「美しいシナリオのためのシナリオ」でしかないところが、弱いのだよね(見てるだけならホント好き勝手言えますよね苦笑)。

岡田くんだけじゃなく、戦の周辺では細かい演出がなされ、黒田の本陣で大返しの準備を始めるシーンも良かったです。配下に檄を飛ばす官兵衛のうしろで、下っ端さんたちが机を運びこんできてて、「よし、かかれ!」と指示を出し終えると、官兵衛やん、机に向かうんですよね。手紙を書くことが、当時の戦争(外交)やなんかの大きな実務、って描写で、とても良い。ただし、相変わらず、出てくる手紙はどれもこれも楷書である(笑)。

「重い荷駄は水路で運ぶ」と言う善助に長政が疑義を挟み、太兵衛が「若、軍備があろうとなかろうと、今、毛利が追ってきたら終わりです」と冷静に言うのも良かった。ただの筋肉バカじゃなくて、戦争では役に立つ、って感じが良い。松明の補充や草鞋の替え、炊き出しの準備などの実務面にも触れたし、それらすべてを緊張感の中でスピーディにこなしたところが好感。

馬に乗るシーンも、不自由な脚を押して乗る官兵衛・それを介助する善助・自身、ちびっこだから「よっこいしょ」って乗る善助、と細かい演出でした。

長政と又兵衛の邂逅は、まあ、大河ドラマにおいて、これぐらいは許されるレベルの茶番だと思います(笑)。ふたりを前にした光さんが、又兵衛に「長政を頼みます」と言うのがほんと解せない。奥方として、家臣に対する信頼をあらわす、極めてまっとうなセリフのはずなのに、先週のように、“又兵衛の母親ヅラ”をしてみたりするから、違和感が出てくる。又兵衛も子どもだと思ってるなら、等しく「ふたりとも死ぬな」じゃなきゃおかしいでしょ?って思っちゃう。

弟・熊之助を見て触れた長政に、余計なセリフを言わせず、表情だけで喜びを語らせたのには胸を撫で下ろした。「この子の兄として頑張ります」とか「弟を産んでくれてありがとうございます、母上」とか、くっだらんことを言わせかねない脚本であるからして(笑)。

清水宗治の船上の切腹、見ごたえがあった。宇梶さんの舞と謡い、すばらしかったように思う。宇梶さんは一昨年に続いて自害する役で、一昨年ももちろん良かったけれど、出番の少なかった今年の方が、かえって印象的な役だったかもしれない。「まーた、安全パイなキャスティングしやがって」と思いましたが、宇梶さんほんととても良かった。羽柴方・毛利方、両方が見届けているという演出も良い。それぞれの役者が、みな、武将の最期に立ち会っているという重い表情をしていて本当に良かった。

光秀周辺の描き方はちょっと中途半端だなー。あと、秀満役の鳥羽潤。久しぶりに見たけど、こんなにダイコンさんだったっけ?

家康の伊賀越えが「おじいちゃん、がんばって」にしか見えない。39才の壮健な男子のはずですが!! あと、これみよがしの葵の御紋にイラッとくる(笑)。これ、考証的には正しくないよね?

裸一貫みたいなカッコで駆け出していく羽柴の軍勢。やっぱりこういう絵はカタルシスある。なんだかんだ言ってますけど、一時期よりは、めっちゃ楽しいです!!