『銀二貫』 第1話・第2話

佳作の予感! 原作の高田郁といえば人気小説「みおつくし」シリーズの人ですが私は一度も読んだことはありません。よって原作の雰囲気は知らないんだけれど、あらすじをなぞればメロドラマ的でもありながら、キャスティングから脚本・演出・音楽にいたるまで、ウェットに走りすぎないようにつとめている様子のドラマにはとても好感がもてる。うん、だからこそ泣けるんだよね。

主人公の松吉の背負う過去がいきなり回想シーンとして流れる。幼年時代の松吉(鶴之輔)は目の前で父が仇討の凶刃に斃れるのを目の当たりにする。偶然そこに居合わせた寒天問屋の主人・和助は、仇討の武士に、銀二貫の大金を渡して去らせ、身寄りのなくなった鶴之輔を自店の丁稚として引き取るのだった。

ドラマ冒頭の修羅場、しかも主人公のトラウマになる過去とくれば、視聴者側としてはけっこう気が重い。まだ主人公に何の感情移入もできていない状態だから、置いてけぼりの気分になる。でもこのシーン、仇討を決行する風間俊介がさすが必死の演技を見せてくれるとともに、その場を収めようとする津川雅彦の和助が最高! 自分も動転して必死なんだけど、つとめて軽やかな口調や挙措で、相手の武士の興奮をなだめようとする、という二重の演技がいぶし銀。

和助がもっていた金は、1年前(だっけ?)に火事で焼けてしまった天神さまの再建に寄進するためのもので、当時の商人にとって地元の寺社へ信心を示すことは縁起的にも社会的にも重要なことだった。零細寒天問屋の井川屋にとって爪に火を灯すようにして貯めこんだ銀二貫を咄嗟に差し出してしまった主人に、番頭の善次郎は、「銀二貫がお侍の子になって帰ってきよった。うちには丁稚を3人もおく余裕なんてないのに」と大いに嘆く。 

この、30年、同じ商売をして過ごす主人と番頭のそれぞれの造形と、互いの関係がすごくいい。塩見三省演じる善次郎は、いかにも小店の番頭といった具合に生真面目でうるさ型なのだが、誰よりも主の性分を理解し尊敬している。店を思うあまりに、つい小言を超えた恨み言を松吉に向かって投げかけることもあるが、主人とふたりきりになると「さっきは言いすぎました」と悔恨を口にしたりもする。心根はあたたかな男なのである。それでいて、やはりどうしても、店の窮状の元凶は「銀二貫」事件にあるのではないかという思いも拭えない。そんな番頭以下の店の者たちを鷹揚に見守り、時に肚のすわったところを見せる和助は、手代に「だん(旦那)さんは偉い人やと思いますけど、主人としてはどうですやろか」と言われてしまうように金儲けの腕に長けているわけではない。傑物過ぎない人物を演じることで、津川雅彦の芸の広さが楽しく堪能できる感じだ。

あたたかく人間臭い主人・番頭コンビに厳しくも優しく育てられてゆく松吉…といえばぬるい人情譚のようだが、同時に、大見得切って筋を通したはいいものの、ほとんど唯一の大得意先をなくして窮乏していく店の様子や、上は詰まってるし下に変なの来るしで不満を募らせついには逃亡してしまう手代など、現実のシビアな面もきっちりと、しかもどこかユーモラスに描いてるところがいい。

松吉はいまだ商人となった己を肯定できずにいて、陰気でセリフも少ないのだけれど、不器用なたちでありながら持ち場を精いっぱいこなし、孤独も屈折もなんとか自分の胸に収ようとしている様子はけなげ。林遣都は線の太い役者になってきたなあ。芦田愛菜とのシーンは、この子が少女になって松吉と恋を…と思うと、妙な官能を感じた(ゲスな視聴者の目線)。

気のいい女衆という役どころのいしのようこの堅実な演技に驚いた。「カーネーション」の勘助(尾上寛之)にパッチ店の山口(中村大輝)、「ごちそうさん」の銀次(西川忠志)、「カーネーション」の紳士服店主人や「軍師官兵衛」の赤松(団時朗)など、NHKドラマファンにはおなじみの面々が隅々までそろっている。このあと、「あまちゃん」の埼玉ちゃん(松岡茉優)や「純と愛」のセクシーさん(映美くらら)まで出てくるらしい。楽しみ。