『軍師官兵衛』 第16話 「上月城の守り」

ん? サブタイトルのダサさは安定してるものの、だんだん面白くなってきたような気がするよ? 慣らされた? 私このドラマに飼い馴らされてきてる? まあともかく、上月城〜三木城〜有岡城と「ザ・戦国」なイベントが続くわけですから、多少なりとも盛り上がってもらわないと困るわけですよ。人間ドラマの期待できなさはもう致命的なレベルなので、本作においてはヘタにそっち方面に色気を出さず、あくまで戦とか戦の準備とか戦の後始末とか、戦と戦の合間の諜報活動とか、そういうのに徹してほしいと思いますね。野卑に土臭く勇ましく。

加古川評定ののち、播磨の小領主たちは大半が毛利に寝返ることに。軍議に用いる地図、小城がびっしりと書き込まれているのに好感。敵味方を示す赤と青の駒はダイソーで売ってるみたいなやつだったけど。西に毛利、東に三木城と敵に挟まれる形になる秀吉軍は、半兵衛の進言で本陣を書写山に移すことにするのだが、こういう経過を一応でもやってくれるのは歴史好きにはうれしい。書写山って面白い名前ですね。

本陣のお引っ越しみたいな仕事では三成が能力を発揮する、という描写も楽しい。先週は兵法に明るい篤学者、今週は能吏としての姿が曲がりなりにも描かれていて、『江』で萩原聖人がやらされた三成に比べると、まだマシな扱いであります。小さな積み重ねが大事ですからね。うむ、田中圭のポテンシャルを無駄にしたら俺が許さない。でも引っ越し業務の陣頭指揮が帳面もって「急げ、待て、中をあらためる、もたもたするな」って、やはりつまらん脚本演出ではある。これで三成に一目おく官兵衛やんの物差しがわからんよ。官兵衛が秀吉軍のために姫路城を空けるときもそうだったが、実務能力ってやつをわかりやすくドラマで見たいもんである。

それに比べると、恭平パパに姫路城代を任命し、光にもいい顔をする秀吉の人たらしぶりなんかは、まあ目新しさはないんだけど説得力がある。まあ竹中直人の秀吉役者ぶりが鉄板だからね。思うに、脚本の意図をよく汲んで役者が演じるのではなく、役者の役作りや演技が脚本家をノらせて、快調に筆を走らせるパターンだね、このドラマの秀吉は。『天地人』の小栗旬・三成や、『江』の宮沢りえ・淀もそうだった。

毛利側の軍議。よかったーーー、叔父・甥3人組+恵瓊だけじゃなくて、武将がいっぱいいるーーーー!笑  いずれも強面がそろっていて良かった。声を張って説明する小早川隆景、テンポよく頷き盛り上がるモブ武将さんたち。秀吉側の加古川評定が嘘みたいな団結ぶりで結構である(笑) てか、おっさんらが集まってワーワー盛り上がってるだけで意味なくワクワクしてくる私も、相当な単細胞かいな。

鶴見辰吾の隆景、かっこいい。こういう役も似合うなあ。なにげに器用な役者だよね。吉川元春の役者さんもいかにも猛将っぽい面構えで良いです。元春、『毛利元就』では松重豊だったんだよね。んで、元春・隆景兄弟の父ちゃん・元就は、宇喜多秀家どころじゃない謀略家で、異母弟の月夜丸こと相合元綱を謀殺したんだよね〜〜〜若き日の西島秀俊だよ〜〜〜!とか、毛利まわり、尼子まわりを見ただけで、いろんな思い出が蘇ってくる長年の大河脳である。だ・か・ら・こ・そ、上月城の戦いはしっかりやってもらわんと困るのだよ!!

兵数700という微力に意気盛んなふりをしてみせる山中鹿介、悲壮な覚悟で戦に臨む尼子勝久が、悪化する食糧事情を前にダウナーになっていく様子など、割と細やか。しかしこうなると、一瞬、上月城にやってきて、九郎右衛門に小芝居を打たせた官兵衛の策って、小賢しいというか焼け石に水でしかないというか、必要だったのか?! 援軍は出せないまでも書写山から兵糧ぐらい運べないのか?と、ドラマを見てると思わざるを得ないところがありますね。でも、落ち武者ルックの九郎右衛門が妙に美青年に見えてちょっと萌えた自分がイヤだwww

信忠を上座に戴いた軍議も良かった。本作の信忠の造形って、「アリだな」っていうか、なにげに説得力がある。決してバカではないんだけど、大器でもない。バカではないからこそ、父の恐ろしさや、いつ捨てられるかもしれぬ己が身の上を分かっていて、そのうえで振る舞っているんだけど、いかんせん持っている才以上の働きはできない、みたいな。

村重がもうヤヴァイ。しっかし、たまたまテレビをつけた人は、田中哲司を光秀だと思うんじゃなかろーか。逆に言えば、村重をこういういうふうに扱うってことは、光秀は別の扱い方をするってことなんだろうね。近年メジャーになってる朝廷謀略説か、あるいは…。

で、後半の見せ場・・・だったらしい、櫛橋左京進と光の兄妹対面なんだけど、まあこれは絶望的な出来でしたね。なんか、いかにも退場を前にしたフォローといった脚本演出ですけど毎週見てる視聴者からしたら完全にバカにされてるとしか思えません。

「官兵衛が憎くてこうしたわけじゃない」「しかし官兵衛がいなかったらこうはなってなかったと思う」「おまえは幸せなのか。身内同士、敵味方に分かれて戦うのも官兵衛に嫁いだからだぞ」・・・・。矢継ぎ早に繰り出されるセリフの数々を裏付ける言動や信条の描写が、これまで一個もないんで、ポカーンとするしかありません。

光さんのほうの「小さいころは父上と母上が健在で、笑いの絶えない楽しい家だった」 「兄上はいつも妹に優しくて、私たちは感謝していた」って回顧も、「へぇーそうだったんですね」としか言いようのない説明セリフなんだけど(光さん娘時代にわずかに出てきた櫛橋家は殺伐としてたし)、ちょっと待てその前に、なんなんだその「20世紀的明るい家庭像」はwwww

だいたい光さん、「櫛橋家が滅びてしまうと思ったら居てもたっても」云々言ってたけど、現状、毛利が負ける確信してるのおかしい。秀吉が負けて黒田家が滅びる確率だって、当時の当事者たちにとってはフィフティ・フィフティ。松寿丸のことを思い出すまでもなく、それこそ嫁ぎ先で家族円満に暮らしてるんだったら、実家より先に自分ちの心配のほうが先に立つのが自然ってもんでしょ。まずは自分(と夫や子ども)が生きるか死ぬかでしょ。

そしてとどめの「戦のない太平の世」出たーorz 生まれついて以来ずっと戦国時代の人がやたら太平の世を渇望してるのは、現代の若者が「どうか消費税のない世を作って下さい」って祈ってるぐらいちょっと浮世離れした話だよね。まったくもって、徹底して「大河の悪いお手本」として教科書に載せたいぐらいのシーンでございました。

濃姫のこともちょっと書きたかったんだけど、来週、お紺がアレみたいなんで、その関連事項として書こうかな。ふー。疲れました。