『軍師官兵衛』 第6話「信長の賭け」

ちょっと今からでも遅くないから腕のいいゴーストライター探して連れてきて! 

・・・と言いたくなるような出来でした。ほんと困りますね。

今回は「信長の賭け(サブタイ)」と「黒田家ふたりめ=側室問題」と「家臣団結束」と「荒木村重」のエピソードだったと思うんですが…お、多い。どれもほぼ等分で描かれていて、フォーカスがないんですね。どれも面白くなってない。

歴史ファンあたりが大河の内容にケチをつけ、当該大河ファンが「これは教科書/ノンフィクション・ドキュメンタリーじゃないんだから。ドラマなんだから」と返す。・・・というやりとりは、時を超えて普遍の光景ですが、今作の場合、このやりとりが成立しない。大河をdisるもうひとつの常套句として、「スイーツか!」あるいは「朝ドラか!」と吐き捨てるってのもある。激しさよりは美しさ優しさ、歴史よりは人間関係や感情に重きを置いて描かれる大河に対してよく使われます。今作の場合、これも使えません。

ドラマになってないんです。朝ドラにも遠く及んでないんです。

たとえば「信長の賭け」。結局これは、「義昭が兵を挙げる(征討する口実ができる)が早いか、自分が抵抗勢力に討たれるのが早いか」という命を賭した賭けだったようです。確かに歴史をみれば信長包囲網はすごくて「絶体絶命」といえる時期ですが、ドラマからそのような切迫感はまったく伝わりませんでした。「延暦寺焼き討ちを宣言→実行」「義昭に非難声明」「俺は賭けているのだ、ハッハッハ」「信玄が動き家康が負けた報が入る」「出陣→義昭追放」ドラマで描かれたのはこれらの「説明」のみです。これのどこがドラマでしょうか? 視聴者はどこで感情を動かせばいいんでしょうか?

あげく、「信長モノだからいちお・・・」って感じで突如ぶっこまれてきた、あのダラーッとした「敦盛」をどう見ろとwwww てか人物の正面カット(どアップ)多すぎ。凝りすぎんでもいいがあまりに工夫がなくてみんなバカに見えるんです。

「ふたりめ=側室問題」では、光さんが動揺し涙もしていたのですが、やはりまったく共鳴できず。まず、「なぜ2人目が必要なのか」という背景を描いてません。松寿丸は男子なのでれっきとした跡取りになれますが、いかんせん命の軽い時代で、病気や怪我にしろ戦にしろ死ぬ確率が現代よりずっと高い。そうじゃなくても戦国の世、親兄弟で争う例だって珍しくない時代です。官兵衛に他の兄弟がいれば(いますよね?)、そしてそこに息子がたくさんできれば、将来的になんやかんやでそっちの勢力の方が強くなったりして官兵衛の地位を危うくするかもしれない。そんなこんなで子どもがたくさん必要なんです。そうです子どもは道具なんです。それがすべてではないがそういう面もあるってことです。

現代の視聴者が共感しやすいようにとでも意図したのか、その辺の説明をまったく省きましたよね。個人的にそういうのってすごく興ざめ、それどころか逆効果に感じるんですよね。時代や身分という現代とは全く異なる制約がある、それを描いたうえでの「時代を超えた普遍の感情、普遍のドラマ」を描くからこそ時代物は面白いんです。これじゃあ現代よろしく「ひとりっこはかわいそう/ワガママになる」なんて世間の目でもあるようにしか見えません。

だいたい、子どもが(数え)5才になるまでふたりめの必要性をとんと意識しなかったのなら光も戦国武将の妻として相当なおバカさんと言わざるを得ませんし、本気で子作りのための側女をすすめるなら、侍女の中から見目良く若く健康な女子を見繕って殿の身辺の世話をさせるなり、親類縁者の中から都合よい女子を推挙させるなりして然るべきなのに、甘い。ただし夫方の叔父にせっつかれたのは伏せて、ではなく「実家の父から文がきた」のをきっかけとして夫に話すのは賢妻ではありました。

官兵衛も官兵衛で、何をもって一も二もなく「側室はいらない」という当時では異例の方針をとるに至るのか、まったくわかりません。「官兵衛の優しさ」「愛の深さ」を描こうとしてるんでしょうが、こんな描写で丸め込もうったぁ、世間の婦女子も甘くみられたもんです。「なぜ側室をもたないのか」そこに至るまでの道筋が必要なんですよ。女色に溺れて身代をつぶした人を見てきたとか、夫の側室問題に悩む母の姿を見てきた(『毛利元就』がこのパターンでしたね)とか。「なんとなーく光さんを悲しませたくないから」「なんとなーく側室って非倫理的な感じがするから」って雰囲気醸し出したって全然リアルじゃないの。そんなんで、「愛されてる妻」妄想は花開かないの。こんな描き方じゃ、リスク管理意識が低いか、あるいは光さんがものすごい床上手で子どもができなかったとしても他の女と寝る気にならないとか、それともそもそも女が好きじゃない(アッー!)とか、そういうふうにしか感じられないわけ。

そう、必ずしも時代に即した理由でなくてもいいんですよ、ドラマ世界に一貫した説得力があれば。時代考証が完璧なドラマなんてほぼ皆無です。考証は、ドラマが描きたいことに合わせて取捨選択してよいと思うんです。その好例が現在の朝ドラ「ごちそうさん」ですよね。いろいろユルかったり無理があったりするんだけど、ちゃんと描きたいものがあって、それを描くがための舞台装置として考証を行っている。そしてあのドラマにはちゃんとした主張があります。それが好きか嫌いかは視聴者次第。好き嫌い以前に何をやりたいのかよく見えないのが「官兵衛」です。何もかもが、うすらぼんやりして見えるのです。

家臣団問題にしても、太兵衛が荒れてるのは「命に代えても主君を守らねばならんのにどいつもこいつもぬるすぎる」って理由だったようですが、それが単に太兵衛の焦り・逸る気持ちだったとは思えないぐらい周囲の連中もアホっぽかったのに、太兵衛の本音がわかったとたんに善助は「すまなかった」、官兵衛は「おまいら義兄弟の契りをかわせ。これにて一件落着、あっはっはー」だし、高橋一生くんは切れ者設定っぽいのに「結束が足りない」だっけ?誰が見てもわかることしか言わんし、もうどいつもこいつもちょろすぎる。

村重の「切っ先についた饅頭を食わされた」って巷間伝わるエピソードも、それ以上でもそれ以下でもなく単にそれだけ。創意工夫ってものはないんかい。そんで一瞬後に城持ちになってる村重www ちょろいww 過程がゼロwww なのに「魔王」とか「誰も信じてない」とかお館さまのことすんげー理解してるww 「2,3日有休とって特急に乗って摂津に来ました〜」って感じの官兵衛もどーなんだw 父親の前に上司に許可をとったらどーかねww

上司といえば鶴太郎の正室らしい高岡早紀の扱いほんとどーなのよ。なんか育児とか介護とかあるいは健康問題とか、高岡さんの個人的事情で出番を減らしてるのでもなければ納得いかん影薄さ。てか嫡男・斎の産みの母はお紺じゃないんだよね? 正室・側室問題を掘り下げる端緒にもなろうに、なんでそこハッキリ言わんかね。そう、何もかも掘り下げがないんだよなー。官兵衛自身、立派な好青年だけど人物にちっとも深みがなくて魅力が足りない。

今日のハイライトは桐谷美玲ちゃんの若さ美しさ華やかさ。珍しく女優を綺麗に撮ってた。まあこれも、あくまで初登場のビジュアルのインパクトのみで、予告でやってた以上のものはほとんど何もないシーンだったけどね…。やばいなー軍師官兵衛。基本的に、大河は数年に一度好みの作風があれば御の字って感じで、「ないもの」を求めるより「あるもの」を見つけて記憶にとどめ、私の「大河アーカイブ」を収集していくってスタンスで臨もうと思ってるんだけど、この調子だと遠からずリタイアしてしまうかもしれん。求む・優秀なゴーストライター