『八重の桜』への愛を語る (4)

会津人たち
その他の会津人もみんな好きでしたよ。手のつけられない脳筋でありながら、殿の一声でワンコになる官兵衛とか、かわいくてしょうがない。私にとってこのドラマは夫婦萌えより断然、主従萌えだった。正直、籠城戦での出陣前、うっかり(お寝坊)官兵衛のフラグになる飲みまくりシーンは、ドラマの構成としては間違ってた(長すぎた)と思うが、我らが殿を笑顔にしてくれたので許す! 

お役目にまい進する希望に燃えていた若き家老・平馬が状況の悪化と共にテンパっていく過程はなかなかリアルだった。都で、平馬・大蔵・覚馬で町人コスプレして長州を偵察に行ってたのとか、懐かしくて涙がちょちょぎれるぜ。北村有起哉の秋月悌二郎も必要以上に(?)好きだった。会津の、空前のイケメン家臣団にあってもっとも朴訥とした彼が、ポジションとしてはとてもフラットでね。八重の婚礼でムダに張り切るかわいさ、左遷の憂き目にあっても腐らない健気さ、新政府軍の雑魚たちにボコボコにされてヨロヨロしながら白旗をもって入城する姿、いずれも胸にきました。六平さんの黒河内もかっこよかった。ハッ、あれ、黒河内って名前だったよね。そういえば。

前述の雪もそうだが、女性陣もそれぞれ印象的だった。二葉はきっと、脚本家が八重より好きな女性キャラだったのではなかろーか、あのかわいげ。竹子はかっこよかったけどやや硬かったかな、まあそれがメイサの味か。剛力さんのユキちゃんはかわいらしく、等身大で好感度高し。剛力さん、事務所のゴリ押しだろうと、私が見る限り、パフォーマンスは堅実だと思うが。時尾ちゃんはもっと出番が欲しかった。でも「龍馬伝」でのさな子よりはずっと感情移入できる役だったと思う。宮崎美子の西郷千恵、秋吉久美子の山川艶の熟女陣も良かった。頼母の娘たちの中にすごく綺麗な人がいたなあ。

難をいえば、ひとりひとりや、それぞれの家庭での姿などはとても良いんだけど、主人公の八重との繋がりは、やや希薄だったり、表面的なものにとどまっていた気がする。会津家臣団のほうが有機的なつながりを感じられたかな、と。

会津人ではないけれど、新選組も地味に良かった。池田屋に乗り込む近藤勇の「御用によってあらためる!」だったかな、大音声。土方と斉藤が徐々に会津に心を寄せていく様子も。斉藤といえば今でもオダギリだという人が多いだろう中、明治になって襄(演じるオダギリ)と必要以上に(笑)打ち解けるシーンは、サービスだったのかもしれないけど良かったですね。降谷さんは剣豪時代に沈黙して独特の空気を作ってから喋りだした(笑)んだけど、これが意外と良くてね。



●革命家たち
幕末モノで、まず出ないことがない西郷隆盛は、作品によってかなり異なる造型がなされる。最近の大河でいうなら「篤姫」では斉彬の忠犬、「龍馬伝」ではヒーロー龍馬とのバランスか、やけに酷薄。さて本作はというと、西郷史上空前の良い男! まあ会津を滅ぼしてしまう役どころだから…チンケなエゴイストに滅ぼされたら立つ瀬がないから…ってことで、あーなったんであろーか。にしても、慶喜愛・容保愛に続く西郷愛を、脚本家の筆から感じずにいられないのだった。

割と無難な線できてるな、というキャスティング発表の中で異彩を放ちまくっていたモニカ西郷。「西郷のキャスティングっていろいろやり尽くしてて、もうなんでもありってとこまできてんだな」ってのがそのときの感想。すんませんでした(土下座)。放送が始まると、みるみるうちに私の中でストップ高になった西郷株。一般的なイメージである「おめめぱっちり」「丸っこさ、鈍角」みたいなのを廃し、シャープで、どこかソフィスティケートされた西郷をつくったのは、イロモノを追求したんじゃなく、たぶん、会津との対比だったんだと思う。つまり、前近代的なものとの対極。

それにしても、こんなに「柄の大きい」西郷は貴重。演技の技巧という面ではもちろん本業の人と比べると見劣りしても、「巧まざる茫洋」を醸す演出もうまかったし、吉川さんはその存在感と、ミュージシャンらしい韻律とリズムの心地よい薩摩弁で、堂々たる西郷っぷりだったと思う。八重のドラマであればしょうがないのかもしれないけれど、西南戦争に至る道筋の描写が簡略なもので、ラストサムライたちの挽歌としての感傷が前面に出ていたのは残念だった。明治の最初の10年の苦闘、前近代から近代への過渡期をもう少し身を入れて描くことには意味があったような気がするけど。ただ、犬を探して戦場に戻ってくるシーンや、兵たちから敬愛されている様子などの描き方を見ると、やはり作り手の西郷愛はガチ。

大久保は、雰囲気は良かった。出方が限られていたせいもあるかもだけど、セリフまわしはやや一本調子だったかなー。でも姿も声もいいので中の人は時代劇に向いてますね。小堺さんの岩倉具視はイメージにぴったり! 好演だった。

人情派の桂さん。蛤御門から逃げ延びる途中、親とはぐれた少女と一緒にむせび泣くシーンは印象深い。ミッチーは誰を演じてもミッチーなのに、役のほうを自分に引き寄せる才があるのか、どんな役でも意外と「アリ」になるのがすごいと思う。西郷に比べるとやや分が悪い描き方にされていたのは、「再来年しっかりやるからいいよね」ってことだったんでしょーか。覚馬やジョーとの繋がりがもう少し積み重ねて描かれていればと思う。