『八重の桜』への愛を語る (2)

会津中将・松平容保
(1)でも既に随所で触れた容保。会津編を語るに欠かせない人物である。このドラマの中で、もっとも多彩な立場からの演技が求められた人物ではなかろーか。ご親藩の家柄として幕閣では重要な位置を占める。帝に衷心からの忠義と崇拝とを捧げ、慶喜に翻弄され衰弱し(笑)、新政府からは朝敵扱い。国元では頂点に立つ藩主だが、やがて共に滅びの道をゆくことに…。

高貴な人の前で蜘蛛のように這いつくばるシーンもあれば、藩士たちからは絶対の存在として仰ぎみられている。ただ、上の人といても、下の人といても、常に大変だったんですよね。緊張か、懊悩か、衝撃か、体調悪いか、興奮か、怒りか、悲しみか、涙か。こんだけ出番が多かったのに、喜怒哀楽の「喜」と「楽」がほとんどなかった、っていう。いや本当に大変な役だったと思う。

中の人は、しかもクッソ忙しい数年が続いているところ、こんな役をよく引き受け、まっとうしてくれたもんだと思う。歴史が好きとか、時代劇の素養にあふれているとかいうことは多分ないはずで、本人も共演者やスタッフたちと現場で役を作り上げていくタイプだと語るが、それであそこまでのもんができるとは、よくよく稀有な力のある役者だ。感覚が並外れているのもあろうが、あの凄まじい集中力には、学生時代、ほぼ無呼吸で2分近くを走るという、ドMでないとできない(?)超苛酷な競技、800mの経験が寄与しているのかも…というのはスタパ出演時の感想記事で書いたとおりです。

大河ドラマを毎年見ていると、「お殿様」「お館様」「将軍」みたいな人っていくらでも出てくるんです。その中で、容保は唯一無二の存在になったと思う。慶喜と同じく、もう当分、彼以外の容保は考えられない。ただ一心の清冽な忠義を、もの狂おしいまでに貫くことで、守るべきものすべてを失ってゆく姿…。私も、藩士よろしく、この線の細いお殿様の、青白く張りつめた頬を仰いでおりました。

彼のほうも、本当に家臣思いで、地震で品川砲台を守る多くの兵が犠牲になったのを忘れず、病身の家老を労わり、戊辰の戦が始まると藩士たちの死に、都度、身を切られるような悲痛の姿を見せていました。中の人も、スタパ出演の折、会津藩士(私を含む、って気持ちですよ最早!)に対し、開城前の対峙を指して「何も持ち得ていない殿に対して素晴らしい愛情を届けてくれる。それに胸が熱く痛く苦しく愛おしく・・・」と熱い愛を語ってくれました。なんと有難きお言葉(涙)。

最近の大河で胃薬を送りたいキャラといえば満場一致で重盛となるだろうところ、まさか一年にして票が割れる人物が登場するとはね〜。まあ、そのまま死に至った重盛を思えば、針の筵や悔恨の思いもあったにせよ、明治を20年生きた容保はまだしも、救いのある人生だったろうか。複数のご側室との間に、たくさんのお子ももうけているし…。

って、放送中の感想でも散々書いたけど、その辺のことをドラマで全然やらなかったのは不満でしたね。とにかくこの容保という人は、こんだけ出番が多いのに、私人としての姿がほとんどなかったんですよね。それだけに、最序盤での、義姉や義妹(正室)と高潔そのものの情愛を交わす姿がドキマギするような危うさで印象的なのですが、そんな彼だからこそ、明治の描写はもっとほしかったですねー。どんな思いで明治を生きていたのか。もちろん悔恨やこのドラマでは、「まっとうな人間の中にある人間くささ」を描くのをあまりに忌避しすぎた、と思うところの、代表例です。