『クロコーチ』 終わりました

アウチ! 想像のほうが面白いという最終回でした。まあ謎解きものは特に、風呂敷たたむと随分小さかったんだな、てことは往々にしてあるんですよね。

想像は、一部は以前の記事にも書いたけど、

1. 主要人物の男どもは黒河内含めて全員死ぬ。柿崎管理官だけは小物っぽいので生き残ってもOK。清家ちゃんがすべてを見届ける役割。

→ 視聴率が悪いとはいえ、連載は続いているわけだし、いつか機会があって続編を…という希望をこめて黒河内は殺さなかった、と思えば納得できる。沢渡と高橋の跡形もない「消え方」は、不気味で儚くて、良かった。

2. 黒河内、富田ジョージの遺児説

→ 愛読しているブログで書かれていた説を見て、俄然、「これだっ!」て思っちゃったわけですよ。今回の長瀬くんの容貌はドーランの色も濃く、黒人系の血を引いているという設定でもおかしくないし、なんせ、9話でいきなり出てきた共犯者であり、長い尺をとって過去シーンが作られ、その割にジョージの末路まではハッキリと説明しなかった。少年Sの犯罪計画の全貌は語られたのに、だ。これはジョージが何らかのキーパーソンだと思いたくなる。何より、当初、少年Sとジョージとは、計画上、当然、「盗んだ3億円は山分け(とまではいかなくても協力者ジョージの取り分はあって当然)」という約束を交わしていたはずで、であれば、遺児が(おそらく非業の死を遂げたであろう)親父の取り分を渡してもらおうとするのは当然。

それまでを見ている限り、黒河内が3億円事件に固執する理由は、金銭欲でも、復讐でも、安っぽい正義感でももちろんなく、とにかく餓えるように「真相を知りたい」からじゃないか思ってた。ジョージの遺児なら(そして幼いときに親父が死んで苦労して育った…などの経歴があれば)、少なくとも、「親父には3億円がどうなったか知る権利があった」という思いに突き動かされてもおかしくない。そこに、その調査の過程で知り合い、恋人か同志になった葉月トモが殺されたことによって、沢渡に対する個人的憎悪が加わったというなら、それがとても自然な流れだった気がする。

で、本編ではそんな言及はこれっぽっちもありませんでした。でも、遺児説を完全に否定するような(黒河内の生い立ち的な)エピソードがあったわけでもないとも思ってて、これ、原作ではどーなってるんでしょーか、ちょっと気になるなあ。でもリチャード・ウー(=長崎尚志)原作の漫画って、すごく長編になりそうだから買う気にはなかなか…。

この最終回を見る限り、やっぱり黒河内は葉月トモの死が契機でこんなにも本気でやってきたってことかな。「復讐だよ」って台詞は葉月の復讐としかとれないもんね。墓前で深く頭を下げてるのを見ると、恋人じゃなかったのかもと思った。恋人だったら墓石に抱きつくとは言わんが、こう、撫でるとか…。

このドラマで、「黒河内が桜吹雪会を崩壊させ、警察は白い組織になりました、ちゃんちゃん」って結末はありえない。クーデター計画までいくと些か荒唐無稽な感もあるけど(その全容や詳細を見せる時間と予算がないから、黒河内にひたすらセリフで『アホなクーデター』『アホなクーデター』と言わせていたのがまたチープ)、世の中から怪物のような悪人や策謀家、組織的犯罪がなくなるわけはないのだ。だから沢渡も高橋も消して(と思われる)、柿崎と牛井が後継者になるラストは期待を裏切らないでくれた。

ここもハッキリとした説明はなかったが、柿崎・牛井が「クーデター」を起こして会を守った、ってことでいいんだろうか。ここで、「殺人鬼でありクーデターを計画するような危険人物・沢渡を排そうという意志が最初からあって、黒河内は彼らの掌の上で転がされていた」ということなのか、「黒河内がかき回すことによって高橋の離反を始め会に秩序の乱れが生じたので、秩序を守ることを最大の身上とする会のDNAが働いた」ということなのか。どちらでも面白いとは思う。

柿崎・牛井は彼ら自身の意で立ったのか、それとも「上の」命で動いたのか。雰囲気的に後者だと思うが、柿崎=ヘタレ、牛井=不気味 というキャラづけから見て、次代の沢渡化を目論む牛井が、小物上司を唆して傀儡政権を立てた、という解釈でも面白い。柿崎は、ヘタレの皮をかぶった大物だった、というようにはとても思えないもんがあった。利重さんてこんな役も似合うんだなーと発見。

3億円事件によって捜査技術が進歩し体制が見直された…という点が語られたのも面白かった。捜査1課の会合での黒河内の長口上は、欺瞞や知らんぷりを糾弾し正義を説いたと思えばちょっと彼らしくなくて鬱陶しいんだけど、「桜吹雪会は警察組織の尻拭いをしている」というセリフは、3億円事件がもたらした効用への言及と同様、「何が善で何が悪か」というこのドラマのテーマに深くかかわるものだったと思う。また、「沢渡を追うために組織を動かすことが必要で、だから警察官たちの心底にある正義感を刺激して利用した」と思えば、いかにも黒河内らしい。

どちらにしても、この場面での長瀬は、リーハイ堺さんに負けず劣らずの独壇場を見せてくれたと思う。黒河内のマンガっぽい演技は、回を重ねるごとに本人がこなれたのか、見ているこちらが慣れたのか(両方だろう)、だんだんツボになってきて、最終回などは、凄むとか、おどけるとか、真面目な顔したあとでニヤリと片方の口の端を持ち上げるとか、体の動きも、もう全部がピタッピタッと決まっててすごく快感だった。唯一、ラストの「おまえら、隠し過ぎなんだよ!」だけが浮いてたけど…。

反対に、沢渡は最後の最後までほとんど薄ら笑いでがっかり。これも勝手な期待として、最後には、ちょっと都合が悪くなると簡単に殺しちゃう悪鬼の本性を剥き出しにて戦ってほしかった。これは脚本演出の問題ですよね。てか、ラストの黒河内と沢渡の最後の対峙の、ものたりないこと〜。予算と尺がないと、こうなってしまうんでしょうか。両手を広げて車を止める長瀬の顔はすばらしかったけども。序盤ではびっくりするほど多発してたグロシーンも、後半になるにしたがってフェイドアウトしていきましたね。ここらへんはやっぱり「上からのお達し」があったんでしょうか。死人もだんだん減っていった。

あ、そうだ。城尾さんはどうして死んだことにされてたんでしょうか(清家ちゃんの口調で。この剛力ちゃん良かったよね〜)。これも沢渡が葬ったのか? 城尾さんは沢渡の殺しに激昂してたけど、確かに城尾さんは直接的な殺人はしてないのかもしれんけど、そもそもこの人、少年Sの計画に計画段階から気づいてて、わざと泳がせて実行させて捕まえたみたいな説明だったよね? 3億円を元手に桜吹雪会を創設するために。「このお金どうするよ…」ってみんなで悩んでる時に「考えがある」と言い出す場面があったけど、あれは城尾の演技だよね? で、3億円でテロ組織に資金を融通して武器を売買して・・・って、それ、間接的に大量殺人に加担してるからね、この人。秩序のためにやってることは、本質的には沢渡と大して変わらん。だいたい、少年Sを社会的に殺して永遠に管理して…なんて隠ぺい能力があるなら、少年Sの父親が警察官だという事実を隠ぺいする方が簡単なように思えるんだが。

ただし、「秩序のために」という大義名分には、秩序のため=国家のためという面があるのも無視はできなくて、結局、多数の安寧のために少数が犠牲になっているというのは古今東西すべての社会の姿ではあるんだよね…。や、少数の安寧のために多数が犠牲になってる社会だっていくらでもある(あった)だろう。そして、肥大化した沢渡が粛清され、かつて城尾もまた実質的に沢渡によって駆逐されたのであれば、なんだかんだいって桜吹雪会には自浄作用があるといえるのかもしれない。で、何か最後かなり正義漢みたいになってたけど、長瀬も序盤で東幹久やら、撃ち殺してるからね。

善悪は自分で判断するしかない。その言葉がちゃんと重く響く、ワクワクゾクゾクする面白いドラマでした、ありがとうございました。

長瀬くんの今年は「はらちゃん」と「クロコーチ」って、すごいなあ。相変わらず作り手に愛され望まれる役者ですよね。私としては1位はいまだに「歌姫」かなーと思ってるけど。これはもうドラマ全体が好きすぎたっていう完全な嗜好で、ドラマの完成度的には「はらちゃん」や「タイガー&ドラゴン」かなって思うけど。なんにしても、ドラマファンの評価は揺るぎない長瀬くんなので、そろそろ視聴率バーン!て作品に巡り合ってほしい気もする。クドカンあまちゃんでファン層以外にもバーン!といったように。