『さよなら紛争 武装解除人が見た世界の現実』 伊勢崎賢治

さよなら紛争 (14歳の世渡り術)

さよなら紛争 (14歳の世渡り術)

とても良書。14-5歳でこういう本を読むってものすごく有意義だよなあと思うし、大人が読んでも全然甘くない。とてもシビアで胸に突き刺さる内容。十代の読者を想定しているから、文章や表現はわかりやすいんだけど、このわかりやすさ、率直さは、自分の日常に忙しくて小難しいことに手を広げる余裕のない大人にも良く作用すると思う。たくさんの人に読んでみてほしい本。

簡単に答えの出ない問題がある、ってことを知るのは大事なことだと思うのだ。

アフガニスタン、アフリカ。紛争地域を渡り歩き、「武装解除」の仕事をしてきた作者。今は東京外語大で「平和構築学」を教授している。彼は、戦争も紛争も広告や宣伝によって世論を誘導していくことによって現実化していくものであり、ならば、それを逆手にとって、広告の力を戦争回避や平和に使うべきだ、と言う。

国内だけで憲法の議論を延々と繰り広げてみたところで、結局どうなるのでしょう。世界にアピールすることもなく、なんとなく内輪だけで議論して、そのあげく都合のいいように改定してしまうというのは、おかしいと思いませんか? 一度ぐらい、世界平和に貢献するために9条の考え方を広めようとチャレンジしてみてもいいはずです。チャレンジした結果、それがぜんぜん通用しないのであれば、憲法を改正する。そういう考え方であれば、まだ理解できます。チャレンジさえしていないのに、なぜいま改憲なのだというのが、僕のスタンスなのです。
日本は、憲法9条が持っている潜在能力を1%も生かしていません。戦略的に広告できていないのです。

私たちは、日本の憲法は日本のものであり、他国からあーだこーだ言われるのは内政干渉だ、という感覚をもっているけれど、私たちのほうから、憲法を世界にアピールしようなどという発想はなかなかもてない。

人間ひとりの命は地球より重い。そんな理想のいっぽうで、世界では厳然と、ひとの命の重さは違う。9.11で3000人のアメリカ人が犠牲になり、国連は事実上、報復を容認した。その「正義の戦い」のためにイラクでは10万人もの命が奪われた。

ルワンダでの紛争では、アメリカの世輪が兵士の派遣に否定的な時期であったため、国連の派兵は遅れに遅れ、100日で80万人もの人が虐殺された(このときルワンダの駐在司令官であったダレールが派兵を要請するも却下され、虐殺を手をこまねいて見ているしかなかったことで、PTSDにかかり、退任後、自殺未遂したというエピソードも衝撃的だった)。

アフリカのシエラレオネ内戦では、焼き討ちや虐殺、レイプなど、極悪の戦争犯罪を犯した兵士たちに恩赦を与えて武装解除させるしかなかった。残虐な戦争犯罪に加わった少年兵たちは、特別待遇を与えられ、衣食住や生活を保障されて、むしろ周囲の子どもたちよりも良い服を着て新しい教科書で、みんなと同じ学校に通っている。

「みんなで世界平和を願いましょう」というかけ声だけでは、平和は決して得られない。世界を、しかも戦争や紛争のある世界を知っている人の言葉は重い。


ところでこの伊勢崎さんという人を私が知ったのは、勝海舟めあてに見たNHK Eテレの番組「知恵泉」だったんですけど、そのことをブログに書いたら、ネット友(と勝手に思っている)方が大学院で伊勢崎さんの講義を受けていたり、別の方が彼の著作を読んだことがあるという反応があって、それでなおさら、私も「読んでみたい」という思いが高まったわけで、おふたりに感謝します。今回は若者向けの本だったので、次は、一般の新書でもう一度、彼の著作を読みたいと思ってます。てか、なんでも、書いてみるもんですね。

あと、この本、河出書房から出ているんですけど、「14歳の世渡り術」っていうシリーズらしいんですね。すごく面白かったので、同じシリーズの別の本も読んでみようかなと思ってます。ほんと、大人にもおすすめできます。買うのはちょっとアレだけど興味は、と思ったら公立の図書館探してみると意外と入ってることおおいっスよ。今の時代、たいてい家のPCからでも在庫を検索できるし、とっても便利。シリーズ既刊についてのサイトはここ。
http://mag.kawade.co.jp/yowatari14/