サクことば35  3歳以前の博多弁

当地は博多弁圏内である。
私も夫も、ジジババや友だちや先生も博多弁話者。その洪水の中で生まれ育つサクが博多弁話者になるのもまた、自然の理である。

が、今のところ、サクの博多弁はひよっこ。語尾も、「〜〜するの?」「〜〜でしょ?」「〜〜だよ」などが多く、「〜〜〜と?」「〜〜〜やろ?」「〜〜とよ」「〜〜っちゃん」など、方言は、まだ時々出る程度だ。

以前、方言と社会性のかかわりについて、チラと読んだことがある。人間は、方言を喋ることで、仲間への帰属意識や他集団との差異化を表わす面があるというのだ。関西の子はものすごく小さいころから関西弁を喋っているイメージがあるし、ここ博多でも、幼稚園生ぐらいの年齢になるとたいていの子が立派な博多弁スピーカーだが、考えてみれば、社会性というのは3-4歳…幼稚園とかそれぐらいのころから芽生えてくるものだからかもしれない。

まあ、言葉を覚え始めたばかりの赤ちゃんに対しては、親も、いきなりベラベラ長い文で語りかけるわけではなく(ないわけではないけど赤ちゃんは理解できないだろう)、やはり、自然と、短い語で、一言一言をハッキリと発音しながら語りかけるわけである。そうすると、言語獲得済みの相手と喋るよりは、方言の出現確率は低い気がする。

「ほら、おしゃべりばっかりしてから、口がいっちょん動きよらんめぇが。片付かんけん、さっさと食べりぃ」ではなく、「サクちゃん。おくち、うごいてる? がんばって食べようね」と、こういう感じ。サクが博多弁のシャワーを本格的に浴びるのも、これからなのかもしれない。

とはいえ博多弁圏内なので、現時点でも博多弁の発語がないではない。メモを手繰ると、2歳5か月ごろに最初の博多弁的言い回しが出ている。「いらん(いらない)」 「しらん(しらない)」 「おった(いた)」の3つ。

こちらが、「いらないの?」と聞けば「いらない」と答え、「いらんと?」と聞けば「いう、質問に呼応した答え方をすることは多い。「もうテレビ消すよ」と言うと、「けさん!」と答えることもあるから、“博多弁的な動詞の否定形”もだいたいわかっているんだと思う。

そうでなく、自分からの発語で博多弁を話す時もあって、特に面白いのが、2語以上の発語に博多弁が含まれる場合である。博多弁が含まれない語まで、ちゃんと、博多弁イントネーションになっているのだ。以下、2歳8か月時の具体例。自分のパジャマを探しながら、「サクちゃんの どこ いったと?」と発語。文脈にもよるだろうが、

・標準語:「どこ いったの?」 (●○ ○○○●?) (●が高い、○が低い)となるのが普通であり、サクも「どこいったの?」と発語するときはこのように喋る。ところが、博多弁で発語するときは、

・博多弁:「どこ いったと?」 (○○ ○○○●?) と、「どこ」の部分までが、語尾の「〜〜〜と?」に引きずられて、博多弁的イントネーションに変わってしまうのだ。

ほかの場合も同じで、博多弁が出るときは、最初から、そのイントネーションまでちゃんとマスターしている。語は博多弁だけどイントネーションは標準語、ということは、今までのところ、ない。大人が他の地域の方言を真似して喋ろうとしたら、字面では正しくてもイントネーションが全然、ということは、きっとよくありますよね。幼児にはそれがない。とても面白い現象だと思う。