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六月博多座大歌舞伎昼の部「ヤマトタケル」を見て 5

もちろん舞台は主役ひとりで幕の開くものではない。ということでここからは幕開けからのメモ。

暗転で始まること自体歌舞伎には珍しい。スポットライトが当たると、亀ちゃんと中車のふたりが劇中の扮装で平伏している。劇中の口上とはこういうことらしい。ふつう襲名口上ってのは、家紋の入った裃をビシッと着て、明るい舞台の襖の前で、長老格の役者に「ここにおられます・・・さんが○代目・・・を襲名することになりました」と紹介してから、本人が畏まって言挙げするものだ。亀ちゃんも夜の部の口上ではこのスタイルでやっているわけですが、このヤマトタケルバージョン。自分で自分を紹介して自分のこと舞台のこと中車のこと福山雅治のこと(笑)など、まーペラペラとよく喋る。ひとりで合計10分くらい喋ったんじゃないかと思われる。口上っていうよりほとんどトークショーである。

特に、主役みずから「舞台は一期一会、テレビや映画と違って役者と観客とが一体になって作り上げていくもの、どうぞ拍手や声援でご参加を」と熱く呼びかけるようなことについては、賛否両論の起こることは容易に想像がつくが、ネットなどを見ても「亀治郎ならばやりかねない」といった雰囲気で受け止めている観客が多いようなのは気のせいか。というか、ファンであれば、たくさん喋ってくれるのは単純にうれしい。にしても、ましゃからの祝い幕や襲名ポスターのくだり、亀ファンとしては、読み物なども含めるともう百回ぐらい見聞きしてて耳タコなんだけど(笑)、本人は「福山雅治さん」と口にするたびに幸福感に包まれているんだろうなと推察するww

中車は畏まってとても真面目。とはいえ、ふたりきりだし、なんたって口上っていうよりトークショーなので(笑)、割とリラックスしていたのではないか。もともと映画の授賞式のスピーチなどもうまい役者だ。「襲名以来のこの一年は人生でもっとも長いものだった」と。あれ?もっとも短いものだった、だったっけ? 最後に亀ちゃんが「とにかく(観客も参加する意気込みで臨んだ方が良い舞台になることは)このふたりが言ってるんだから間違いない」と笑いをとる。

再びの暗転ののち、今度こそ芝居の幕があくのだが、このとき2枚の紗幕(というのかな?透け感のある幕)が使われていて、一枚目に地球、二枚目にアンモナイトの絵。どこまでスケールでかいんだよと笑いながら二枚目も開くと、回転盆に兵士やら宮廷人やらがびっしり乗っていて、中車の帝・門之助の皇后、やや遅れて亀ちゃん小碓命はせりあがって登場。こうした幕開き自体が歌舞伎とはずいぶん異なる。

小碓の兄、大碓命(亀ちゃんの二役)の館。姉姫(エヒメ)だけでは飽き足らず妹姫(オトヒメ)にまで手を出そうとするスケベ野郎の大碓。亀ちゃん意外とスケベ野郎の雰囲気はうまく出すのよね(晴信@風林火山然り)。嫌がる春猿さんのオトヒメの所作やセリフ回しが超かわいい。そこへ小碓がやってきて、館内の大きな柱と御簾を挟んで、早替りでの兄弟対決となる。この演出は知らなかったのでびっくり、そして興奮。劇が始まって十分も経たずに大がかりな演出である。

誤って手にかけてしまった兄のことを「手足を縛って菰に包んで川に捨てました」と父帝に報告する小碓。兄が企てていた謀反を隠すための方便であるが、目を閉じて無念の表情とセリフ回し(大事なことなので2回言わされますww)はうまい。激怒する中車の帝。昨年の襲名披露公演時、映像で見るとずいぶん声が枯れていたけれど、今回は心配ない。この帝っちゅーのは、単に小碓を疎むから怖いだけではなくて、大帝国に君臨し意地悪なお后様に操られ気味なのもあって、血の通った人としての心をなくし気味っていう造形でいいんですよね? 重々しくはあるけど、強そうでもないし、コワさみたいなものはないのよね。そういう人だけど帝であれば命令には従わないといけないっていう宮仕えのつらさ。中車にとっては、古典歌舞伎をやるプレッシャーはないにしても、喜怒哀楽を露わにしない、動きも少ない役は、かえってやりにくいんじゃないかなと思ったり。存在感はあったと思います。

西の果ての国、クマソ討伐にたったひとりで向かう小碓を追いかけてくる女がひとり。「背の君の仇」と明石の浜で切りかかってきたのはエヒメ。もちろん女の力ではかなわず組み伏せられたあげく、憎しみはくるりとひっくり返って慕情に。ここ、人妻であったエヒメに反して小碓はまだ少年という設定なので、小碓くんはもうちょっと初々しい演出のほうが好ましいですね。すでに「女がおれに惚れるのは当たり前」的な雰囲気が醸し出されてますからね。先代猿之助ならそれで良かったんでしょうけど今は亀ちゃんなので。叔母の倭姫やオトヒメもやってきて(おまいらそろって健脚だなww)みんなで見送ってくれます。

暗転のち回転盆、場面はクマソの国に。建屋は二階建。新しい宮殿の完成を祝う宴。ものすごい人数の兵士、女たちがひしめいてお祭り騒ぎ。その中央に、クマソタケルの兄弟。兄が弥十郎、弟が猿弥で、いかにも悪党らしい扮装なのだが、豪気なだけでなく気がよくて人望篤げ。衣装の背中にそれぞれ、大蛸と大蟹があしらってあるのもユニーク。彼らは彼らの秩序で、民まで含めてうまく楽しくやっていたんである。「助六」の意休や「菅原伝授」の時平のような歌舞伎の悪役とは一線を画した敵の姿である。

そこへやってきた美しき踊り子に扮した刺客・・・がもちろん亀ちゃん! この劇は、早替りが多いため、基本的に重ね着が多く、それに付き合ってか早変わりのない役者も着込んでいたりするんだが、この踊り子の真紅の衣装、ドレープがたっぷり入っていて、すごく素敵。くるくると回りながら踊るようなとき、亀ちゃんは軸が少しもぶれないので本当に美しい。クマソ兄弟もメロメロ。

やがてシャンデリア(ってここは古代だろww)をぶっちーんと切り落とすお決まりの演出で正体を表す亀ちゃん。ここからの大立ち回りがまた楽しい。立ち回りながら随所で敵とともに見得を切るんだけど、そのたびにピカッとスポットライトが当たる優しい設計のスーパー歌舞伎。踊りの流れの中で、非常にナチュラルに美しく見得を切る亀ちゃんが印象的。積んである樽をごろごろ投げて転がしたり、建屋の二階部分をがんがん蹴り落として壊していったりするのは、これぞスーパー歌舞伎というアクロバティックな演出なんだけど、問答無用にスカッとするところである。

とうとう追いつめられたクマソ弟が「最後に一言だけ言わせてくれ」と亀ちゃんの強さを讃え、「我らの名を継いでヤマトタケルと名乗ってほしい」と願うのだが、ここで亀ちゃんが何の武士の情けもなく「よかろう。言いたいことはそれだけか。さらばだ〜!」とたたっ斬っちゃうのが古代ですよねww 「私は勝ったのだ、あらゆるものに、私は勝ったのだ〜!」 滅ぼされる者のことなど微塵も考えない傲慢さ。若いのう…という描写で第一部は幕。(まーだつづく。)