震災と芸能人 1 

趣味でも歴史はずっと学んでいきたいと思ってる。純文学やクラシックや美術にも興味はある。サブカルにも抵抗ない。それでもやっぱり、ポップカルチャー・・・と、ちょっと澄まして言ってみたけど、要するに大衆文化。テレビとか映画とか歌謡曲とかプロ野球とか、そんなものを傍らに育ってきた人間だ、私は。

もちろん個々の問題はあるから盲目的な肯定はしないけれど、興味のない人に簡単に否定されると「ええー」と思う。興味がないのはかまわない。だけど、人は自分が興味のないことに対してだいたい無知なんだ、ってことを肝に銘じていたいもんですよね。

そもそも文化も需要があってこそ生まれるものだろう。たとえ後世に「時代のあだ花」と評価されても、咲いた理由はきっとある。もちろん、新たなヒトラーやオウム真理教を生み出してはならないけれど、マイナーな文化だからって軽んじられるべきではないし、メジャーな文化なら何かしら時代の要請に応えている部分があるもので、流行りのものをやれ軽薄だ、華やかに見えて中身はカラッポだなどと簡単に決めつけて終わりにするのは短絡的だと思うのです。

だいたい、ハナッから大衆文化に縁がない人って、大半が、ハイカルチャー畑か、あるいはスローライフ畑で育っているんじゃないでしょうか*1。それってどちらも特別に恵まれた環境だよね。

や、夫を見てたら思うのよ。コンビニとかゲームとか芸能人とかへのめざめは割と遅かったようだけど、その分、すばらしく温厚でキャパシティの広い人格。それはほのぼのした子ども時代から培われたのだろう、と。いなかっぺ(死語)をバカにしてるわけじゃないですよ。家も庭も広いとか、豊かな自然とふれあい放題とか、学校から帰れば母や祖父母が家にいるとか、大きなピアノを思いきり弾けるとか、そういう環境って実はとっても得難いものじゃないですか。

私は大きな団地に育って、子ども(友だち)はたくさんいたし公園やなんかで外遊びもたくさんしたけど、家が狭かったり、親が共働きで忙しかったり、姉と年が離れていたりとかで、やっぱりテレビやマンガと親しくなるきっかけにも事欠かなかった。児童文学や歴史の本もたくさん読んだけど、同時に、チェッカーズやおニャン子クラブや福岡ダイエーホークスも大好きだったよね。そういうのを“貧しい文化”だって思われたらいい気はしないよね。

大人になる過程で、自然に、たとえば芸能界の不透明さ、ダークな部分に気付いたりもしてきた。受験や恋愛、遊びや仕事に忙しくてテレビから遠ざかる時期もあった。私の場合、テレビに戻ってきたころには伴侶を得ており、そののち、子どもができた。老若男女、多くの人々がいろんなスタンスでかかわるのが大衆文化だ。間口が広いからこそ論点も多いが、子どものころから親しんできただけに、基本的な信頼感をもっている。

そして、ポップカルチャーへの信頼は、震災を機に、より強く深くなった気がしている。

東北から遠く離れた福岡に住んでいても、生後8か月の子どもを抱いて過ごす震災後の日々には言い知れない不安があった。再開された「いいとも」でタモリを見たとき、何かとても安堵したのを覚えている。サントリーがリリースした「上を向いて歩こう」のCMには、思わず涙腺がゆるんだ。たくさんの芸能人が、録音スタジオで、それぞれ歌う様子を、かわるがわる流すだけのCM。いくつものバージョンがあって、「見上げてごらん夜の星を」も合わせると出演者は70名を超えたという。

大滝秀治や加藤茶、富司純子、堺正章、ムッシュかまやつのような大ベテラン。松田聖子、和田アキ子、矢沢永吉のような歌手。小栗旬、佐藤健、松田翔太、高良健吾、桐谷健太などの若手俳優に、宮沢りえ、檀れい、竹内結子、石原さとみ、堀北真希、吉高由里子などの女優陣。やくみつる、八島智人、おぎやはぎ、光浦靖子、山崎樹範もいた。マギー司郎もいた。ひとくちに芸能人といっても分野も年齢も知名度もバラバラ、本当に脈絡のない人選(笑)で、永瀬正敏のように、「CMで歌を披露するなんて!」て人もいれば、お世辞にもうまいとはいえない人もいるんだけど、逆にそれがよかった。どこで何をやってる人でも、あらゆる日本人が、今は同じ悲しみに包まれ、同じことを祈っているのだという無言のメッセージが感じられたから。

その後、各界からの支援活動については誰もが知るところだと思う。ソフトバンク社長の孫正義が個人資産100億円+引退するまでの役員報酬を全額寄付、だなんて、目ん玉飛び出るような(死語)金額もあった。負けじとユニクロや楽天の社長が個人資産10億円。断然負けてるけどよく考えなくても全然すごい。東京都も100億円以上寄付しているそうだ。まあ東北はいろんな面で東京を支えてきたわけだから…。コカコーラ社やニトリなど義捐金のほかに自社製品を提供する企業も多かった。

石川遼はシーズンすべての賞金を寄付すると発表し、その年の実績は1億3000万。イチロー1億、宇多田ヒカル8000万、ダルビッシュ5000万、安室奈美恵5000万、浜崎あゆみ3500万、GLAY2000万、大河「天地人」キャスト10名から2000万、映画「フラガール」女性キャスト4名から1000万。サンドイッチマン1000万+義援金口座を開設して1000万集める。神田うの1000万、阪神藤川、金本、城島それぞれ1000万、ひろゆき(2ちゃんねる管理人)1000万・・・挙げていくとキリがないですね。

義捐金以外の支援活動ももちろんたくさんあって、石原軍団+上戸彩(今さらだけどなんで彼女は一緒だったの?笑)の炊き出しとか、トラック十何台で乗りつけた杉良太郎&伍代夏子夫妻とか、震災発生後すごく早い段階で自分でトラックを調達・運転して現地に入った江頭2:50とか、もちろん、あまり人に知られてはいない支援活動もたくさんあるだろう。金額の多寡の問題でもない。(つづく)


震災と芸能人 2 - moonshine
震災と芸能人 3 - moonshine
震災と芸能人 4(完) - moonshine

*1:サブカルで生きていく人にはその端緒に大衆文化があるんじゃないかと思うんだよね。あれ? 21世紀は違う?