『最高の離婚』 第9話

ちょ、LINEwww 鬱陶しいなwww 

このドラマ、facebookのときもそうだったんだけど、ちょっとITをおちょくってるというか懐疑心があるというか、単純に「繋がるためのすばらしい道具」として描いてないところが面白いよね。facebookリア充アピールっぷりがうざかったし、you tube(的な動画)は光生のつましい昼休みのお供ってことで、さみしさっていうか、見ようによっては「下流のインフラ」的でもあったし、LINEは、ケータイの鬱陶しさここに極まれりというか、LINEが繋がってるからリアルのコミュニケーションがぶつぶつ途切れて滞る、ってツールに。

光生は歯医者、結夏は立ち食いそば屋、灯里はサウナ、諒は早朝の老人相手と、それぞれありえない赤裸々さで自分語りしてるのも、あれ考えてみたら、ブログとかtwitterとか増田とかで自意識垂れ流してる人々(むろん私含むですよハハハハハ…)を映像化したものなのかね。まったくの第三者相手だったりIT機器の向こうの目に見えない不特定多数相手だったりしたら、まるで傍若無人、好き放題に語れるもんだっていう現代人の病理を…www orz

これが、10代とか20代だったらもっと違うだろうし、てか、出演者たちと同世代の30代視聴者には、このドラマ見ながらtwitterでばんばん感想つぶやいて繋がってる人々もいるわけですが、割合的にはやっぱり、断然、少数派だもんねえ。

さて、先週、視聴者を阿鼻叫喚させたラストシーンは、単に酔っぱらいのキス魔が現れた、ってだけの話だったようで。並のドラマなら、ここで「なんつー姑息な釣りだ!!!」と怒ったあげく蔑んじゃうとこなんだけど、1ミリもそういう気を起こさせないところが流石です。しかも、先週、灯里が発言した「弱ってるもんで誰でもいいから寝る女」みたいなのを想起させるセリフを結夏に言わせるところがすごい手練れ。「飲まないと寝れない」発言然り、結夏は相当、ダメージを受けてるみたいで心配だ。んで、その前フリあっての、あの4人の席での結夏の壊れっぷりだったわけだよね。

…って、「キス魔でしょ」と「飲まないと寝れない」発言のためだけに窪田正孝くんが出てくるなんてなんと贅沢なーーー! や、あのシーンは、「これからも、結夏と淳之介がどうこうってのはありえない」っていうダメ押しでもあり、あのあとも変わらず気持ちのいい奴である淳之介…および彼を演じる中の人を作り手が推しまくり、って話でもあるわけですよね?ね?

つーか、キス魔っていう通り魔的なものの襲撃を普通に真正面から受け止めてた諒、自重www  男ふたりの話し合いはコントに終始して諒の「殺人者の目」でオチたと思ったらそれを茶化すシーンでやっぱりコント的な二段落ちだったんだけど、女ふたりの話し合いコワッ。光生が諒に言う「上原さん以下ですよ」から、パッと切り替わって、結夏の「思いがあるのに何もしてないのはそれ以上でしょ?!」て名言が出るくだりになるシークエンスが、これまた鳥肌もんの快感であった。

結夏はがさつなようでいて実はやたら女っぽい面もあるし、鈍いわけでもないっていうかむしろ鋭い(3話だったか、光生と灯里が昔つきあっていたこともソッコーで勘づいていた)し、灯里は理性も感情もどっちも超ど級のボリュームで持ってるので、ふたりして、互いの言葉のはしばしにあるニュアンスや空気が読めて、むしろ読めすぎて、明確に言語化するまでもなくいろんなものが伝わってしまう、それが見ていて痛いのなんのって。まったく話が通じない男同士と、話が通じすぎる女同士。面白くて上手い対比。

で、4人のシーンにもつれこむわけですが、結夏が光生を許せず離婚しちゃった気持ちもわかるし、灯里から見たら「浮気もしてないし婚姻届出してなかったわけでもない」光生が責められるのが解せないだろうな、ってのもわかるし、やっぱり、恋愛とか家族とかは徹頭徹尾個人的なことで、一歩でも外にいる人間には理解できないよな、って思った。

…が、しかし、一方で、やはり「他人だからこそ客観的に見ることができる」部分もあって、灯里の「うまく言葉にできない旦那さんなんて世の中にたくさんいる」「濱崎さんが仕事から疲れて帰ってきたときにお疲れさまって言ってたの?」「外でがんばって働いて、お酒も飲まず、掃除も洗濯もして弁当も作って」「思いやりがないのはあなたも同じじゃないのかな?」攻撃はまったく正論で。たぶん、光生&結夏が、夫婦してカウンセラー的なところとかに行ったら、絶対これ言われるよね。

「外で頑張って働いて」の一言が、特にグッときたな。光生が仕事してる映像を見るのが私も好きなので。あと、男性に、女性の家事育児労働に対する想像力がないのはよく言われる世の中だけど、女性も男性の仕事に対して想像力がないってのも、同じ俎上に乗せることだと思うんで。

ネットを見てても、大半の女性視聴者は結夏寄りで、それは結夏の心根のいじらしさや夫婦時代の光生の女心のわかんなさにシンパシーを感じてるのが主要因なんだろうけど、そこに便乗して、結夏と同じく、すべてを男側に転嫁しちゃえ!的な部分があるんじゃないのかなーって感じでもやもやしてたんで、わたくしとしては、あの灯里の糾弾にスッキリしました。そこを突かなかったら片手落ちだよね?的な。

結夏は女の勝手さを、灯里は女のいやらしさをもってて、どっちも痛々しいし、だからこそ愛すべきキャラなんだけど、「あたしは結夏派!」みたく、片方に肩入れする人が多いのは不思議で、灯里がちょっとかわいそうにも思える。なんつーか、「きれいでモテそうでしっかりしてる灯里より、がさつで不器用な結夏のほうがかわいげがある、感情移入できる」っていうふうになりがちで、その時点で、一周まわって孤独な星回りに生まれついてる灯里のほうがかわいそうなんじゃないかしら、とか。ま、彼女自身が閉ざしてる部分も大きいんだけども…。

そのうえ、ああやって結夏が4人の前で壊れると、光生は結局、「ゆか、ゆか」と名を読んで、一緒に連れて帰ろうとするんだよね。それ以前に、キャンプの妄想では、「うちら=自分と結夏」がペアなわけで。まあそれが愛情なのかどうかはわからないけど。灯里が壊れそうなところにもすごく心を寄せていたわけだし、光生はやはり、「人の不幸を嘆き悲しむ」共感力が高い、のびたくんキャラってことなのかな。動物好きだってのも、コミュ力の弱さの象徴かと思いきや、弱い者に対する愛情っていう面がある、奥深い設定なんだねえ。

あ、光生といえば、結夏が言ったわけでもないのに、地震の時の盆栽のメールの件に触れたりしてて、ずいぶんかわった?わかった?んだなあと。そのあたりサラッと回収するあたりも秀逸。

ってわけで、光生は他人の前に出ると今でも結夏の「家族」として振る舞うし、なぜか何かを悟った諒には「今度は最高の結婚をしてください」とふんぎりつけられちゃうし、そういう孤独な状態での妊娠発覚キターーー! 口内炎に優しい鍋で、て話のときに灯里が「お腹の調子が悪い」っていったのは、ストレスによるダメージじゃなくて、そっちだったのね…!

以前、光生と灯里の子ども問題に触れといて、灯里と諒のそれに触れないわけないんじゃないか、諒は種の薄い人なんじゃないかって予想を書いてたんだけど、全然そんなことなかったですね。てか、諒はもともと、「結婚してることをあんまり人に言いたくない」ぐらいのスタンスだったのに、子どもできてもいいと思ってたのか? や、ほんとに何も考えてなかったんだろうね、きっと。

てか、諒がいきなり「離婚最高。今度は最高の結婚を…」の境地に至った心情は、よくわかんなかった。そもそも、シオミカオリさんの亡霊に囚われ続けていた彼が、なぜ、コワい本性も丸出しにした灯里に、そうまでこだわり続けてきたのかもよくわかんない。その辺は、妊娠とからめて、来週説明されるんでしょうか。それとも、諒については、「それでも、生きていく」の風間くんの役よろしく、常人には理解しがたい人間として解釈させる方向なんでしょうか。

どっちにしても、坂元センセイの近作「Mother」や「チェイス〜国税なんたら」や「それでも、生きてゆく」を思い出しても、このドラマが簡単に元サヤに収まるとはどうしても思えないわけだけど、この妊娠発覚で、その思いをなおさら強くしたなあ…。灯里と諒がダメで、光生と結夏だけが幸福になるラストなはずもなく…

最大限、ハッピー寄りのラストを想像するとして、灯里はひとりで出産(さすがに堕胎はしない気がするし。もちろん生まれるのは娘でキマリ)、諒は戸籍外からつかず離れず母子を見守り、光生と結夏はドラマから数年を経て復縁して子どもを望んだものの、ついに授からなかったことが明らかにされる…って感じじゃないかしら(恥をかくのを厭わずつたない想像力を披歴!)。や、「望まない妊娠」の対比は「望んだけど授からない子ども」だし、授からないってのは本当によくある、リアルな話なので…。

本筋と離れたところでは、4人が橋でバッタリ会ったあと、足早に立ち去ろうとする結夏の腕を諒がガッとつかんだのは、あれは明らかにカーネーションの糸ちゃんと周防さんを念頭においてますよね。カーネーションではあれがオノマチの恋が実った瞬間だったのに、今回は「止めてくれたのは光生じゃなかったのか!!」ていう絶望の瞬間であるあたりまで、含めて、カーネーションへの敬愛を込めた攻撃的な描写とみた(おめでたい視聴者だな私もwww)。

そして、ああいうラストを見せといて、何の説明にもなってない、何ひとつ読ませない、カオスの予告は何www 

◆追記◆
夫の夕食どき、一緒に再視聴。あのラストをわかったうえで見てると、最初に光生から「競馬場行きませんか?」メールが来た時に灯里が手帳のカレンダーを見てた(生理からの日を気にしてたんだよね)こととか、諒が家に入ったとき、その手帳をサッと取り上げてピシャッと引き出しになおしたこととかに、目が行く。何より、「上原さんちの子ども、何小学校ですか…?」をはじめ、光生のキャンプ妄想に子どもが存在してたことを、どういう気持ちで聞いてたんだろうか…と思うと慄然とせざるをえない!