『最高の離婚』 第8話

「婚姻届が結婚の始まりであるように、離婚届は離婚の始まり。立ち直るには時間かかるわ」ってこれはすごい名言! 

だから、このドラマは離婚届で始まったし、二度目の別れを告げる結夏の手紙も、最終回じゃなく第7話だったんですね。

そうだよね。離婚ってそう簡単にケリのつくもんじゃないよね。昔、結婚して10年以上経ってる男性が、「奥さんとうまくいかないとき、真剣に離婚を考えるときもあるけど、別れて、ひとりの家で、ひとりで生活して…て思うと、やっぱりそういう生活を望んでいるわけじゃない、とも思う」って話すのを聞いたことがあるんだけど、自分もすっかり既婚者カテゴリに馴染んだ今は、その気持ちが痛いほどわかる(夫とは仲良しですが)。

結婚て「一生モノ」と思ってすることだから、そこからひとりになる喪失感はすごいもんがあると思う。駅から出たとこで呆けたように立ち尽くす光生。思わず母に電話して、でも結局話すことはかなわず(あれ、母親の側も娘を拒んでいるんだろうな〜…根深いよ…)、青森行きのチケットを気にしつつ加湿器を買う灯里。かるーいノリで光生の家に転がりこんでいそいそと暮らしてる諒も、元夫の祖母や姉が寄りそってくれる結夏も、そう簡単に癒されるわけない。

だからって、だからって、だからっておまいらときたらやっていいことと悪いことがーーーー!!!!!

あ、でも、↑は見てるほうの心臓がもちません、ていう感想であって、実際、ああいう成り行きになるのはわかる気がする。ていうか、わかる気にさせられる。ドラマの説得力がすごいんだもん。

学生時代に一緒に通った定食屋に行って、一緒に住んだアパートに行って。そら、安居酒屋だろうと話も弾むわな。かつて「クラシック」で灯里の心を壊した光生が、「イロトリドリノセカイ」(これほんとにいい曲ですよね!)で再び彼女の心の扉を完全に開いちまった。とりとめもなく交わし続ける会話の、なんとリアルで、なんと雰囲気のあること! 

子どものころの思い出や、ちょっと深い仕事の話や、ネイルや髪型、そしてついに覗く本音。昔からよく知っているし、お互いの状況がよくわかっているしで、話はどんどん続いて、お酒も入って、離れがたくなって…これ完全にそういうパターンだもん。けっこう長いあいだ友だちだったり同僚だったりする異性と一線を越えるときって、絶対こういう感じだ。

おかわりして、トイレ行って、周りの客が入れ替わったあげくまばらになって、酔いも手伝ってためらいなく手に触れたり、向かい合わせじゃなくて直角のところに座ったり、時間の経過とともに心がほどけていく感じの演出がすごかった。まるでその場に居合わせてるような、見てらんない感じがあった。これこのままいくと絶対寝るでしょ、っていう。

1990年はくもりのない笑顔で「カーンチ! セックスしよ!」。2013年はボロボロに傷ついた状態で「1回寝てみよう? とりあえず寝てみよう?」かー、坂元センセイ…。

とりあえず、光生が即答で是を言わなかったのでホッとしたけどね。って思ったらそっちかーーーーー!!!!! てな諒と結夏のあられもないキスシーン。

光生と一緒に住んでイチャコラしてるだけじゃみたされなかったのね、諒ったら…(泣)。海老フライ作ったり、くっだらない感じのテレビ見ながら洗濯ものたたんだり、いい感じだったのに…(泣)。あ、光生が帰ってこなかったのがいけなかったのか。孤独に耐えられなかったのか。光生のせいか。

オノマチと綾野剛はこれまでに散々絡んできたからもうね、ってのもあったし、結夏には淳之介という清く正しい(?)あて馬がいたしで、すっかりノーマークだった視聴者をあざ笑うかのようなこの展開! 丹念に経過を追っていったふたりと対照的な、いきなりの見せ方。悔しくなるほど完っぺきな、鮮やかな手並みですな!!! 

そう簡単に寝てほしくないんだけど、でも大人だし、寝ることへのハードルって人それぞれだからさー…。しかも、もともと諒はアレだし、灯里の壊れ方がすごいのは青森弁の一幕で見せられてるし、光生だって男だし人妻AV見てたし諒の町チューや秘宝館に鼻の下伸ばしてるとこもあったし、結夏は淳之介にはあれだけ身もちの堅さを見せてたけど、「制服着てラブホテル」の武勇伝もあるわけだし、てかともかくキスしちゃってるし、なんかもう、お互いに寝ちゃっても全然おかしくない、っていうタネがいろいろバラまかれすぎてて、これで来週までお預けってどんだけ視聴者に対してSなのよ作り手!!!!!

・・・・・・ちょっと冷静になって、ガッツ投入の予想以上の大成功っぷりにびびる。まじびびる。ガッツさんが粗野で野卑でデリカシーゼロだけど、大きくて愛情深い父親に見えた。ちゃんと見えた。孫の離婚した嫁に愛情深く接するなんて、どう考えても嘘っぽいのに、それを自然に見られるのは八千草さんの浮世離れした人徳あってこそでもある。芹那といい、本人のキャラをうまく使った脇の人物の動かし方もいちいちうまい。あいこさんが自身、離婚歴があるって設定もうまいし、「いいのいいの、なんだったら光生と縁切るから」なんてセリフも、市川実和子がいうとアリなのだ。

離婚してたから、レ・ミゼラブルもダイオウイカも見られなかった、てのもため息もんのうまさで。ダイオウイカをそうやって入れてくるか!ていう。

(元)義父とスカイツリーではしゃぐ光生の姿がね〜。楽しんでるんだけど労りみたいな雰囲気もあってね。「のびたの結婚前夜」のあのシーンは、“夜中に酒入れて読んだら号泣しちゃう系”で、「人のことを自分のことのように嘆いたり喜んだりできる」って、ほんとに、人間として一番大事なことなんじゃないかと思えるんですよ。

1話で自分のつらさばっかり訴えてた男、4話で「あなたが好きなのは自分だけ」と言われた男が、かつてそういうふうに妻に思われてたってのは「エエエ?!」て感じなんだけど、光生って、(動物園時代の部長殴った事件といい)あまりに感受性が強いがゆえに自己防衛的に自分を閉ざしがちだったんだろうか。単に、年月を経てピュアさが失われてたってことなんだろうか。どっちにしても、かつての優しいのびたくんが、1話当時の光生になってたのは切ない、せちがらい話だ。

諒にしても、ガッツに塩かけまくったりみかんパクッがうまかったりの無邪気さと、女と寝てるときや指輪ポーイ事件のときの虚無感バリバリのときでは別人みたいだし、灯里は言わずもがなで別の顔を持ちまくってる女だし…ひとりの人間には「キャラ」なんて言葉におさまらないいろんな表情がありますね。それが自然に受け入れられるのが、すごいと思います。

離婚届(婚姻届)をきっかけに、いろんな顔が見えてきたんだなあ。だからって寝なくてもいいんだよ! や、寝たほうが面白いのかなあ…うーむ。