『最高の離婚』 第4話

すごかったね、結夏! あれって、オノマチの長台詞はもちろんなんだけど、(ワンカットでなかったとしても)その前の、ご機嫌で帰って来たのにだんだんふたりして口喧嘩になっていくとこから、既にすごいよね。あのテンションで、あのセリフ量で、あのコザコザしい内容で(ルーズベルトが云々…気になるとか気にならないとか云々…)喧嘩するのはすごいわ。そしてだんだん激していく元妻になすすべもない瑛太の「受け」の演技が今週も絶品! 自分のセリフがなくてもこれほど豊かな演技をして楽しませてくれる人はほんとに貴重です。

先週の感想に、「この展開では、じゃあどうして結夏や灯里は光生のことを好きになったんだろう?てのが気になる」って書いたんだけど、今週さっそく、結夏が心情をカミングアウト! ありがとう坂元先生。いや〜、ものすごく“普通に”好きになったんだねぇ。(きっかけが震災だったしね)不安なだけかな、とか自分を制しつつも、どこで誰と何やってても彼を思い出して、そのうち人生とセットで考えるようになった、と。

「家族とは一番最初に思い出す人のこと」 「結婚も離婚も幸せになるためにすること」 「お店で食べたらレジでお金払うでしょ。家で食べたら美味しかったっていうのがお金なの」など、長く記憶に留められるだろう名言が飛び出した今回。ほかに、「いつでも彼のこと考えちゃう」というのは、恋愛モードの女子の気持ちの描写としてよくあるんですが、それに続けての「会ったら会ったで、会わなかった時間のそういうの全部くっついてくるから」がウマいっ!と思ったし、恋をしながらも「恋とかなんて人生の脇道だし、と思ってた」と言わせるのも斬新だったなあ。

で、あれ見てたら、オノマチさんの熱演も手伝って、感情的に一気に結夏の側につきたくなっちゃって、光生をクサしたくなっちゃうんだけど、ちょっと待てよと。

結夏が、今なお、光生に対していじらしい気持ちを持ってるのは意外だった。けど思い出してみると、使ったあとの洗面所に水滴とか髪の毛とかをびっちり残してたり、狭い玄関を自分の靴でいっぱいにしてたり、夫が出勤するころに寝ぼけた顔で起き出してきたり…ってのは、それはそれで、思いやりのある行為とはいえないんじゃないんですかね。一話でカレーライス作る手つきも、ものすごいもんがあったぞ。

結夏的には、がんばってるのに全然評価されない不満、ひいては「この人は自分のことしか好きじゃない」と気づいた絶望感が、やさぐれモードに向かわせた…ってことなんだろうけど、あのガサツさは生来のものだよね、きっと。光生の潔癖ももちろん嫌だけど、ああいう性格の夫がそこで「どうにかして自分の牙城を守ろう」としたり、子どもを作ろう的な、甘やかな気持ちになれないのも、わからんでもない。枝葉末節の積み重ねこそが、「結婚」「家族」「生活」だからさあ。

「あなたが好きなのは自分だけ」というのはすごい糾弾で、すごく的を射てるし、問題の根幹なんだけど、光生ひとりが諸悪の根源になって全部を被ることじゃないよ、とも思ったね。

たとえば「めんどくさくない」男である諒は、その分、自分に愛情を注いでくれる人とも深く関わろうとしていないし、あまつさえ人を傷つける行為を重ね、嘘をつき続けているわけで(しかもそのことに対する自覚や罪悪感もちゃんともっていることが判明)、それも、自分の殻に閉じこもった、人を愛せない人だ。

愛する人の不実や嘘を黙って見過ごしていればそれは愛なのか。そのうえで重ねてゆく生活って何なのか。タイプは違えど、男2人は「自分を守ること」、女2人は「あまりある愛情がゆえに詰んでいること」で共通してるんだなあ。

でも、だから「人を愛する資格がない」なんて思わないよ。諒にも、光生にすら、「人を愛したい」気持ちを持ってるって感じるし、結夏や灯里の愛にはエゴも感じるんだ。まあ、光生に限らず、人を愛するって、突き詰めていけば難しいことでもあるよ。誰だって自分が大事だもん。

光生はアロエのお礼をしたくて結夏の好きなロールキャベツを作ったんだし、(もしかしたらそういうことは初めてだったかもしれないけど)作りながら結夏のことを考えていたはずだ。

だから、「子ども作ろう」にはちょっとしたエロスを感じてしまったんだよなあ。そら、結夏には光生のその辺の内面は見えてないわけだから、「は? それだって自分の都合でしょ!」てなるわけなんだけど、「普通の家族ってなんだよ?」とか、「(子どもが欲しかったと)結夏が言うから…」みたいなセリフをつい、言っちゃうのは、光生の長年の手クセっていうか習い性みたいな部分でもある。

彼には、おばあちゃんを笑顔にしたい、という気持ちも芽生えているし、それはつまり、「家族を大事に生きたい」という「普通の」気持ちだし、結夏の告白を聞いて胸打たれた気持ちもあったんだ。あのとき初めて面と向かって「結夏が」と名を呼んだ。「今さら何よ、この男!?」と結夏が思うのもわかるし、光生にとっても「その場の感情にまかせた」言葉だったとしても、あのとき光生は本当に「今、この場で子どもを仕込んでもいい」と思ったはず。離婚届を出すずいぶん前からセックスレスだった匂いのぷんぷんするこの元夫婦。それが、久しぶりに「セックスしてもいい」って気分になるのって、なんか背徳的というか、エロいなーと思うのは私だけでしょーか。ちなみにこの結夏の長セリフの最中に、居間と、隣の寝室を並べて空撮する演出があったんだけど、そこも印象的でした。

つーか実際、「その場の勢い、よろめき」だったり、深く考えずに子どもを作るに至る男女ってたくさんいるし、一概にそれが悪いわけでもない。あの「子どもを作ろう」は、あのときの光生の精いっぱいの愛情表現だったと思う。玉砕したけど、人を愛する第一歩だった気がする(と、思いたい)。

しかしそこでほだされるほど結夏の絶望は浅くないわけでね。つまり、だからこそ来週からがまたすっごく楽しみ! 来週の予告、灯里と諒の夫婦のビンタ&抱擁に超釣られたよ。真木よう子、なんてビンタが似合う女なんだ。青い炎みたいな暗い暗い殺気は天性のもので、演技力がそこそこでもあの雰囲気の稀有さが、彼女に次々と仕事をもたらしてるのは、よくわかる。