『八重の桜』 第4話「妖霊星」

中央を俯瞰するパートと地方を接写するパート、両方うまいなあと思う。両者は今のところまるで別世界だし、八重が中央に出ていくことはこれからもないんだけど、中央の影響が少しずつ及んできて、やがて劇的で、悲劇的でもある出来事が起こることはわかっているのだから、まったく無関係とはとても思えない。

あらためて、ペリー来航から10年足らずで日米修好通商条約(←今ココ)、それからさらに10年足らずで明治維新なんだよね〜。張作霖爆殺事件(1928)のときだって、満州事変(1931)のときだって、それからたった10年やそこらであんな未曽有の戦争に突入するだなんて、当時の庶民のどれだけが予想しただろうか。そう考えると、現代だって全然、タカは括れないよなあ。

…なんて感慨を洩らしたくなるぐらいに「歴史」ってやつを感じる大河ドラマです。うれしい。

さて、そんな今週の八重の桜・中央パートですが、先週も書いたけど、やっぱり過去の幕末大河、特に視聴率が高かったからか(?)「篤姫」を踏まえて作ってるなーって感じがひしひし。井伊直弼の「恐れ入り奉りまする」とか、島津斉彬の周辺とか、一橋派の粛清とか、かなり大胆なダイジェストでやってるんだけど「何年か前にも見たでしょ? あのあたりの事情、思い出してね」って製作陣の声が聞こえてきそう(笑)。茶を点てる井伊直弼が映ったとき、相手は篤姫なんじゃないかって気がしてならんかった(笑)。

で、先週も書いた通り、そういう作り方って面白いなと思ってます。大河を見ながら過去の大河を思い出すのは面白いことです。逆に、今回初めて幕末モノを見る視聴者にはチンプンカンプンかもしれないけど、別にわかんないとこはわかんないままで、雰囲気だけつかんでサラーっと見てもOKだし。私も子どものころはそういう見方をしていたもんです。逆に、なんでもかんでも若葉マークの人に合わるんじゃなくて、「おいおい分かってね」 「気になったら調べてね」 「ま、細かくわかんなくても面白いでしょ?」て作りであってほしいと思ってます、大河って。そういう意味でも今作に賛成。

しかも、今年の中央パートの、いろんな意味での見ごたえよ(詠嘆)。 林与一島津斉彬もたったあれだけでおしまいってのがもったいなく思えたけど、なんといっても榎木孝明の井伊掃部頭が出色! 御三家との対峙での慇懃無礼さといい、容保と相対しての覚悟の見せ方といい、密書を読んでのフハハハハといい、キレッキレのど迫力! 言ってることの内容(論理)もすごくキマッてて、大物政治家だわ〜と。このスピードだと、あと2−3回で桜田門外に至りそうなのが惜しいです。

村上弘明松平春嶽は、春風駘蕩の名君というより腹に一物も二物もありそうな感じで面白いですね。そして今回、本格登場した小泉孝太郎一橋慶喜…これが「ホントに切れ者なんでしょうね?!」と言いたくなるような、「だいじょうぶか?!」て感じの危うい出来で、逆に引きつけられました(笑)。慶喜ってホントに多様なキャスティングをされる人物で、大河の近作を見ても、平岳大田中哲司(眉なしver.)〜そして孝太郎だもんね。

そして孝太郎を心配していたところ、水戸のご老公様たる伊吹吾郎(しゃれではない)と共に登場した尾張藩主=慶篤(慶喜の兄にあたる)が杉浦太陽だったので爆笑でした。やばいって、心配だな〜この兄弟! ハイ、ちゃんとこういう突っ込みどころをちゃんと用意してるところが今年の狡猾さですよw  格調高くやっといて、しれーっと、かわいげを見せてくるんだから、もうっww

江戸弁をしゃべらない生瀬さんは、誰の役だか一瞬考えこんじゃうので、早く慣れたいです。

はてさて、会津にズームしてみますと、あんつぁまがリア充一直線! 復職→昇進→嫁取りですよ! 先週との打って変わりっぷりに目を点にするも、「顔も頭も体もいい奴には、しょせんかなわないよな…」と遠い目になっちゃう説得力が、西島さんには十分にあります。

かつて、大河といえば初夜の閨シーンが欠かせなかったんですが、最近はいろんなひねり技もありまして、今回の、夜なべで勉強しながらの“初・夫婦の語らい”もよかったですね〜。うらを称しての「西を向けと言ったら一年中でも西を向いてるような女」というたとえも秀逸でしたが、それを逆手に取って無碍に扱うでも、「つまんねー女だ」と思うでもなく、そんな彼女をそのままに受け止めるような、覚馬という人物の大きさ、男の優しさを感じさせるいいシーンでした。「幾久しく」と頷き合うところで、のちの会津の運命を思いおこさずにいられなくさせる脚本もうまい。

そんな覚馬を、「居候だから」と遠くから見守る尚之助のいじらしさといったら(腐)。「身分や立場なんてどうでもいいんです。ここにいたら大好きな覚馬さんと一緒にいられるし」でしたっけ?(違)。彼のホントの顔を知っているのは僕だと言わんばかりに、覚馬のよそゆき顔を指摘したりしてねww でも、珍しく羽織りでビシッと身を固めたあんつぁまのよそゆき顔、見ものでした。きゃ。しかし、八重と17才差ってことは、この時点であんつぁま30くらいにはなってるはずで、当時の総領息子としては、割と晩婚なんじゃないかしら?

あ、今回のサービスショットとしては、お弁当食べてる尚之助さんが、こそーっとふくらはぎ出してたことを、ここにメモしておきます。さりげなく入れてくるからね、こういうの。見逃さないようにね。あと、前回はワンコだったけど今回はお猫さまね。井伊邸の。ひこにゃん的にふくふくとしててね。

第1話で、女も含めた家族全員で食膳を囲む山本家に、「商家が本家の坂本(龍馬)家はともかく、こういう食事風景って、幕末にもなると普通だったのかしら…? そこは敢えて考証しない方針…?」とうっすら気になっていたんですが、今回の覚馬の「うちは気楽な家。のびのび暮らせ」や貫地谷さんの時尾の「八重さんちは、ちょっとよそと違うから」発言で、「あ、そういうことなのね」と腑に落ちました。そうだよね、なんのかんの言っても、結局、八重に鉄砲打たせてる家だもんなー。松重さんの父は謹厳そのものだけど、婿で入った山本家を何より大事にしてるからね。のびのびは、きっともともと山本家の家風なのね。やっぱり鉄砲の家だから、馬廻組とか小姓組とかみたいなメジャーな役回りの家とは、ちょっと違うのかもね。

八重はそれが普通だと思ってるから、うらに不審を感じるわけですね。異国から来た船とはまた、たとえがふるってる。八重さん初めての異文化交流の巻。八重さんの行状は既にあまねく知れ渡っているようで、うらのほうは、覚馬に「変な妹いるから」と言われてクスッと笑ってたところから見ても、別に八重に何の含むところもないわけです。「この子はまだ子供だから」「確かに変わった子ね」ぐらいの見方。もちろん夫婦も懇ろにいってます(と想像)。姑にあたる風吹さんに「うらの仕事にはいつも心がこもってる」と言わせることで人となりが如実にわかるのも、脚本うまーい!と思いました。

なんせ、そういうモロモロを八重だけがわかってない、という状況をすごくフラットに描くのがいいですよね〜。“女だてら”の八重が変にいきなり活躍したり持ち上げられたりしない。これから、ごく自然に、世の中を知り、世の中と交わり、そしてそれでも折れず委縮せず、八重はしなやかに生きていくんだろうな〜。と楽しみに見守りたい気分になります。

「女今川」とか、井伊の戒名とかが盛り込まれているのも面白かったです。あと安政の大獄の捕り物の描写はなにげにハードでした。BGMを柔らかめにして中和してましたね。

今日の容保様は、今回はアバンタイトルの大声一閃!でときめかせてくれました〜。この殿さまって、感受性が鋭いというか共感力に長けているというかね。土津公のご家訓はもちろん、什の掟も、家来の必死の注進も、天災に遭いながら品川砲台を守った多くの藩士たちも、そして命がけで国事にあたっている大老も、彼の心にはいろんなことが響く。

実家でも養子に来た会津でも、とにかく立派な君主たるようにと育てられ望まれてきたゆえであり、彼の生来の気質や賢さゆえでもあり…なんだろうし、自身も、会津や幕府のために一身を投げ打ちたいと思っている感じ。それは本来、名君の素質であり、まるで、武士の伝統、日本人のDNAの美しいところ、高邁な精神性が容保という人に結実したかのようなんだけど、それが歴史の中で悲劇的なほうに転がっていく皮肉、哀しさが、この時点ですでにびんびんと感じられて、もうもうもう!ってなりますね。綾野くんの醸し出す雰囲気ったら〜! 

第一話、視察先の日新館で腰を下ろすときに、見ててちょっと「おっとっと〜だいじょうぶ?」て感じがしたんだけど、今回、井伊の茶室から辞去するところで、立ち上がろうとする瞬間にカットが変わって残念。身分の高い人ほど装束が立派だから、立ち座りの所作は難しいだろうけど、それこそが見たいよね〜! お点前をいただく所作はありました。てか、この大河のSEの大仰さは何なの!? 衣ずれの音がやたらと大きくてびっくりしちゃう。榎木さんが茶筅を置くときだって「シュバッ!」てww 刀でも抜いたのかと思ったよ。まあ面白いからいいけど…笑

画面の隅々までの美しさや凝り方は、もはや大河の新しい伝統になってますね。婚礼の日の山本邸や会津の御番所の広さ、奥行きある映し方と、井伊 vs 御三家が激突するお城の一間の狭さが対照的でした。婚礼の席で歌っていた人、いい喉してたな〜。蘭癖といわれた島津斉彬の部屋の調度、薩摩切子で飲む葡萄酒もお約束なんだけど、すばらしい豪華さだったな〜。

あと、斉彬が死んだのを知らされた西郷どんがわーわー泣き崩れたり逆上して暴れたりしなかったことに、思いのほかホッとしている自分がいました(笑)。来週は小栗さんのサヨナラ公演をしっかりやってくれるみたいで(やたっ☆)、それは激しいものになりそうですけど、それは楽しみなんですけど、なんでもかんでも泣いたりわめいたりな演出に走るのは怠惰ってもんで、抑えた表現でも感情はしっかり伝えられるんだ、ってことを、このドラマは見せてくれそうだと期待してます。