『八重の桜』 第1話「ならぬことはならぬ」

新しい大河が始まると、いよいよ新年も本番(変な日本語)って感じがしますね。特にOP好きの私、一年最初の大河のオープニングテーマは背筋を伸ばして見ねば!という気になります。さぁ今年はどんな大河になるんだろう?という緊張と不安と、まあともかく一年間よろしくね、という挨拶のような気持ちと。

教授が作曲した今年の曲ですが…正直、よくわかりませんでしたし、もう耳に残ってません! クレジット厨なんでクレ見るのに忙しかったというのもある(笑) ま、まさかのオダギリジョー大トメ?!と浮足立ったりして(違った。中トメだった。そらそうだよね、西田敏行が控えてるもん。一瞬そう錯覚するぐらい登場人物が多かったのだ。初回だからってのもあろうが。反町=大山巌がトメグループだった)。

ま、50回も流れるテーマ曲なんだから、一聴しての耳触りは悪いぐらいがちょうどいい、てのが、長年、大河ファンやってるわたくしの意見です。あ、クレが白字なんだけどバックも白かったりして、ちょっと見づらかったような。

とまれ、例年のこととはいえ初回74分は多少気が重いです、CMもないんだから、拡大にしても10分でいいよ、10分で。アバンの南北戦争のくだり長っ! 南北戦争の銃器が幕末の戦闘に流れてきた、って面白い視点だし、絵面は派手だし、戦乱の後に歩きだす人々…ってやりたいことはわかるけど長っ。リンカーンの演説までやる意味あったか?

しかしクレームはそんぐらいなもんです。見終わった印象は、「手堅い!」。

映像はわかりやすくきれいだし(根にもつ清盛クラスタ)、家庭はしっかりしてるし(毎朝「純と愛」を見てるもんですから、山本家の安心感がすごい)、古き良き日本の普遍的な郷土愛にDNAレベルで共感できるし、脚本に安定感あるし、なにげにイケメン攻勢がすごい…。

視聴率ばっちこーい! て匂いがぷんぷん。

いえ、揶揄ではなく、僻みでもなく、「何か大きな大きな物語が始まりそう! その過程では悲劇も避けられそうにない!」という雰囲気にみちみちていて、大河の第1話としてすばらしかったと思います。

幾多の辛酸を舐め、もはや猜疑心の塊になっている一人の大河ファンとしては(笑)、女性が主人公ってだけで根本的な不安に苛まれるわけですが、スイーツ臭が最低限だったことに胸を撫で下ろしましたよね。「戦争はイヤ」が常套句である、あの種の大河に比して、八重さんの、まぁ、好戦的なこと! 鉄砲撃ちたがる撃ちたがる(笑)

それは、「新兵器で一番強くてかっこいい」がゆえの(良い意味での)単純な憧れや、「女なんだから」の一点張りの周囲の中、自分を「武士の子」と扱ってくれた、イケメンの殿さまへの感謝を根にする忠義心からくるものなんですよね。八重の人間性のルーツを見事に第1話で描いていて、それがわざとらしくも押しつけがましくもなくて、流石!と思いました。

周囲を見れば、子どものころからの強い絆で結ばれる同輩たち、「什の掟」の浸透する会津の風土、その頂に立つ「生まれついての会津人ではない」からこそ強く己を戒めて生きようとする殿さま…という故郷の世界観。

一歩踏み出せば、大きく動いていく幕末日本。これも、「攘夷か開国か」というお決まりの(どっちにしてもいわゆる机上の空論的な)二者択一ではなく、「とにかくまずは相手を知らなければ」「大切なのは複眼的な視点、柔軟な思考」「夷をもって夷をうつ」(←毒をもって毒を制す、に似ているなと思った)、というところを初回で前面に出してくるあたり、新鮮だし、時勢との親和性も高いと思いました。

八重の子役ちゃん、かわいかったですね。NHK見てると子役って無限にいるんだな、と思うな。一年間清盛を見たあとだと、「幕末の会津では小禄の武士の子でもあんなに綺麗な着物着てたのか?」とか思っちゃうんですけど(笑)、着物が破れたので脱いで、下に着てる袷?みたいなのを見せたのが面白かった。へぇー下にもあんな綺麗なの着てるんだ、と(笑)。

しっかしキャストね! なんだ、あのイケメンズ! 西島秀俊は優秀で志高く、しかも心優しいお兄ちゃん役にぴったり。夕食抜きで屋根裏で反省させられてる妹に、こっそりおにぎりを差し入れてやるとかね、鉄板なエピソードにも嫌味がなかった。小栗旬の、無邪気さと狂気に近い冒険心を持ち合わせる吉田松陰も非常に好印象。相変わらず歯切れのいい口舌が心地いいし、雪の山越えへの決意を語るときの、急に据わった目〜! まあ、吉田松陰だから出番は序盤に限られるんでしょうが。長谷川博己まで初回から出てきたのにはびっくりしましたね。あの超うす味な顔立ちに、色みの薄い着物をパリッと着つけて、扮装がよく似合ってました。いい人そうだけど、史実でも無名の人物なので、どういう人物像に描くのか楽しみですね。

そして、なんといっても、綾野剛の容保〜! キャスティングが発表されたときは、「綾野くん、もう、そういう優等生な役、大河でやっちゃうんだ。もっと冒険してほしかったな」なんて思ったけど、なんのなんの、ハハーッ(殿にひれ伏す、の図)。

華奢な体をまっすぐに伸ばし、折り目正しく、清廉で、言葉少なさにはなぜか色気すらあって、しかも、何も言わなくても悲劇の匂いがほのかに…いえ、かなり漂ってくるんですけど…!!! 前述したとおり、「自分には会津の血は流れていない、そして藩士たちは命を賭して藩主に尽くす。だからこそ自分は一心に精進する」という彼のルーツもまた、第1話ではっきりと描かれたので、今後のすべてが(泣)非常に説得力の高いシナリオになりそう。

八重母が彼を義経にたとえるのにもドキッとした。うまいよね。芝居的にイケメンがデフォルトなんだけど、悲劇のヒーロー…。もう、「カーネーション」以上の綾野旋風が吹き荒れる確信しかありません。なんたって、ゲゲゲでムカイリのシゲさんをあんだけかっこよく描いた山本むつみだからして、女子を悶絶させる場面続出でしょう!

けれどそこでミーハーに走らず、考証や美術もキチッとするんじゃないかな、と期待です。会津の美しい山なみと水田、質実剛健といった感のあるお城と藩校日新館、各種、数々の火薬の瓶も映る砲術指南のお役目を担う八重の家…。藩祖・保科正之が残した「土津公御家訓」の読みあげもよかったよね、藩主の容保も上座を降りて、きっちり平伏して聞く、っていう。「ごかきん」と読んだのも本格っぽかった。そういえば会津で大河といえば「保科正之を主人公に!」という悲願が、それこそ十年くらい前からあったよなあ。

細かいとこだけど、覚馬は優しい兄なんだけど、幼い妹には客人と絡ませたりせず、にべもなく「寒いからさっさと閉めろ」と言うとこなんかも、反スイーツ大河派としてはポイント高し・・・でした。吉田松陰と一緒に宮部鼎蔵が出てくるとこなんかも細かい。「闇夜に霜の降る如く」のように印象的なセリフ、これからもちょくちょくあるとうれしい。

映像でいえば、佐久間象山塾の空間作り、その見せ方もすごく面白かったですね。えーっと、奥田瑛二佐久間象山で、生瀬勝久勝海舟で、小栗旬吉田松陰ね、っと…。この辺、慣れるまでちょっと難しいですよね、生瀬さんが大河で松陰やって、まだ3年ですから。関係ないけど、今後の役者人生、数々の歴史的人物を演じるであろう小栗旬勝海舟はいつかきっとやるな、と何となく思いました。西郷や龍馬は想像つかないけど。ま、吉川晃司が西郷をやる時代だが…

というわけで、しっかりした作りで全体的に非常に好印象だった「八重の桜」です。脚本の山本むつみの時代劇は見たことないんだけど(堺さん主役でNHK BSでやってたよね?)、「ゲゲゲ」の「見えんけど、おる」というテーマ、その“心の寄せ方”はすばらしく沁みたので、今作の「ならぬことはならぬ」も、決してうすっぺらい絵空事にはならないだろうと期待しています。東北のほうの訛りって柔らかみがあって非常に受け容れられやすいと思うし、スペンサー銃をかまえる綾瀬さんかっこよいし、何より、ご家庭で安心して見られるつくりで、少なくとも、清盛のときのようにわかりやすい攻撃材料は見当たりません。

で、私はもともと「清盛ファン」というだけでなく「大河ドラマ」の末長い繁栄を願う者ですから、今年も誠心から視聴、応援していきたいと思ってるんですが、「去年と違って」画面がきれい、とか、「去年と違って」主人公がいい、とか、口さがないマスコミが既に言い始めてるので、しばらくはどうしても、ナーバスになる部分もありそうでは、あります。美術や撮影、時代考証にしても、作劇にしても、もちろんスタッフ・キャストは違うにしろ、長年の大河ドラマ、(坂の上、朝ドラなどを含めた)NHKドラマの年輪、蓄積あってこその今年の大河ですからね! そこんとこは主張(誰に向かって?)していきたいと思います。

…あれ? なんか長文になったな。ま、初回だったので。これでも清盛の時の半分くらいの時間で書いたんですがね。来週からはもっとサクっといきます。