サクことば14・満2歳4か月  「の」の誤用など、助詞

サクが口にする助詞の中で断トツで多く、また比較的初期に獲得したのは「の」である。はじめに、たとえば洗濯ものなどを一つずつつまみあげて「パパの」「ママの」「サクちゃんの」と次々に言って「誰それのもの」という所有を表現し始め(2歳 か月ごろ)、そのあと「パパのコップ」「サクちゃんのぎゅうにゅう」など、正しく二語を発語するようになった。

面白いのはそのあとで、こんな誤用(大人がしない発話)が見られるようになった。

  • 「ママ の おっき して」 

「ママ、起きて」と言いたいわけだから、必要のない「の」である。

考えてみれば、「の」には連体(体言同士をつなぐ)や所有の意味のほか、主格を表すこともある。よく古文に出てきていた用法で、「母の言うことには」とか「兄の持っていたカバン」など、「が」の意味で言う「の」は現在にもある。

「ママのおっきして」確かに起きる(起きてほしい)のはママだから、「“ママが起きる”ことをしてほしい」ニュアンスからくるのかなあ、と思ったりした。

ところがその後、風呂掃除中にやってきたサクに「なにしてんの?」と尋ねられて「お風呂ゴシゴシしてるんだよ」と答えると、「おふろ の ごしごし だね〜」と相槌を打つじゃないですか。これは主格ニュアンスと解釈するには困難な誤用ですよね。

風呂あがりにヤクルトを飲んでいる姿を見て、「サクちゃん、ヤクルト、パパがくれたんだね」と話しかけると、「パパの〜、くれた」と答えられたこともあった。さらに、「おっきい の でんしゃ」なんて口走る(笑)ことも。

そうかと思えば、最近では、空を指さし「いま の ひこうき じゃない?」(今、あの方向を通っていったのは飛行機ではなかろうか?の意)なんて非常にいっぱしの文章を喋って私を驚かせたりする。

子どもの「の」の誤用については言語発達の論文もいろいろあるようだけど、実際にサクを見ていると、「単語と単語をつなげるもの」としての「助詞」の存在に気づいた今、それを使おうとしたときにとりあえず出てくるのが「の」って感じ、というか…。

「つぎ は さんかく」とか「サク も のむ」とか「ママ の くつした」とか、サクの日常でよくある、頻出の状況での会話では、他の助詞もナチュラルに使いこなすんだけど、ちょっと意識的に言葉を紡ぐときには、「の」で繋ぐみたいだ。

そういえば、「を」や「に」、「が」はまだほとんど発話がない。これは、大人の会話でも「が」や「を」や「に」は省略されることが多いことに関係がありそうだが。ことさら意識的に話すわけでもない場合って、「バス来たよ」、「ごはん食べよう」、「あっち行こう」って言うもんね。

逆に、「は」、「も」の副助詞はけっこう初期から覚えて、誤用もほとんどない。あ、最初は「も」も省略して言ってたけど。「は」や「も」を使うべき場面で「の」を使うことはないのだ。「は」は強調や限定、「も」は並列…というように使い方が限定されているので飲みこみやすいのかな。

それにしても、私の「お風呂ゴシゴシだよ」を受けてすぐに「おふろ“の”ゴシゴシ」だもんなあ。単に大人の真似をするだけじゃなくて、子どもなりにすごく脳を使いながら喋って、それで文法を獲得していくんだなあと改めて実感。