フィギュアグランプリシリーズ2012 NHK杯

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ひー。見てるだけなのに嵐のような2日間だった。どんな試合でも私たちが選手に望めるのはただひとつ、「どうかもてる力のすべてを発揮して悔いのない演技を」ってことなんだろうけど、現在のように層の厚い状態 in JAPAN になると、それ自体はとてもうれしいことなのに、同じ試合に実力拮抗した選手が出場すると、どうしても妙な緊張感がある。試合の結果次第では、マスコミや、特定の選手の熱烈なファンを含めた周囲が、かしましくてたまらなくなるからだ。だから余計に、「どうかみなみなさまがもてる力のすべてを発揮して悔いのない演技を」といつも以上に祈っていたんだけど…。

女子…。

浅田真央の連続ジャンプ抜けのシークエンス(違)があまりに鮮烈だったが、落ちついて思い返しながら書いてみる。すべて演技はリピートしていないので一見の感想。

浅田真央のSPはすばらしい出来で点数もすばらしく67点オーバー。今季女子の最高得点を3点以上点更新したはず。3-3もルッツジャンプもなく、要素としては最高難度からは一歩下の構成なのに、技術点でもダントツのトップだった。3つのジャンプにはいずれも0.9点以上の加点がつき、スピンとステップはオールレベル4、ステップなんてレベル4の上に1.8点もの加点がついている。PCS=演技構成点の高さは言わずもがな。今季、女子のSPでSSの8点台を出したのはこれまでのところ彼女だけ。

まさにこれ以上何をか望まん、というレベルだが、これでもなお、ネットで「子どもっぽい」「なんかばたばたして見える」「表情がやりすぎ」「明るい=ディズニー的なコミカルな表現っていう解釈になってしまうのはどうか」などの意見を散見して驚いた。しかも、にわかファンや、他の選手の熱狂的ファン(ゆえに浅田を落とす)の意見ではなく、比較的大人で冷静にフィギュアスケートというスポーツを愛しているコミュニティ(?)の人々の、悪気なく、そして忌憚ない感想なのだ。浅田真央に求められるものの大きさになぜか私が凹んだ。

FS開始時の会場は、鈴木明子の演技に対する喝采と、続く最終滑走・浅田への期待とがないまぜになった興奮状態。とはいえこれまで数々の大舞台を踏んできた浅田真央であるから、そうそう大崩れはしないだろうと思ったらあれよあれよと言う間にジャンプ4ミス。大技である2A+3T、後半の3Lo+2Lo+2Loがきれいに決まり、ストレートラインステップに力のあったのはわかったが、ジャンプの印象というのはやはり大きいもので、100点台くらいではないか、などとザルな胸算用をしながらキスクラで強張った顔の浅田を見ていたら、出ました117点。そして決まりました優勝。

あとでプロトコルを見ると、3→2回転になって基礎点は当然下がっているんだけど、意外にGOEマイナスが少なく、決まったジャンプやスピンにはきちんと加点がついているので、衝撃だった印象よりもはるかにまとまった演技だったということのようだ。キスクラで点数(と順位)に驚く浅田の肩を即座に抱きよせて讃えるような仕草をした佐藤信夫コーチを思い出した。いつもポーカーフェイスな先生には珍しい感じがして印象深かったんだけど、彼には、あの点数が即座に納得いったんだろうな。スケーティング、ステップなどの技術が伸びたこと評価されたと、あらためて確信をもったんだろう。

フリーでトップに立った鈴木明子の演技は本当に素敵だった! 何度もリピートしたくなるような演技。流れるようなスケーティングから繰り出されるジャンプやスピンが積み重なり、盛り上がる音楽に乗って、最後のステップのなんと雄大に感じられること。自然への畏敬みたいな気持ちさえ自然とわいてくるようなプログラム。点数もすばらしいものが出たけれど、プロトコルを見たらeマークやアンダーローテなど細かいマイナスがいくつもある。まだ伸びる余地があるってことだ。いや〜しかしトップスケーターの滑りだった。

ミライ・ナガスがSPとFSをそろえて3位。ほぼノーミスに見えたFSで、キスクラで115点を見たときは意外な気がしたけど、プロトコル見るとやはりこちらもアンダーローテがあちこち。プロトコルを見ないと点数の根拠がわからない(演技を見た感じと乖離がある)ってのは現在のフィギュアスケートのウィークポイントだけど、過去には過去の問題があって、この評価方法になったわけだし、ちまちましたプロトコルを見るのが私は苦にならないたちなので(むしろ好き)。ともかくミライが両日とも気合の乗った顔で溌剌と演技してくれたことがうれしかった。ここからまた伸びるな。

ゲデバニシビリマカロワがフリー100点に届かなかったのは意外だけれど、どちらも見応えのある演技だった。中国のジジュン・リーやアグネス・ザワツキーらも含めて、フリー110点以上を出せる実力の持ち主は多く、ワールドが楽しみ。アメリカも大変だなあ。GP組だけでも、ワグナー、ナガス、ザワツキー、ガオ、ジャン、ゴールド…。アリッサ・シズニーレイチェル・フラットも全米には出るよね? あと、この大会、地上波組では今井遥のFSが見られなかった。7時のニュースとかぶった。オーマイ!

男子。

期待通りに、というかそれ以上に、羽生結弦のSP「パリの散歩道」(スケートファンの間では、「散歩道を爆撃」とか「散歩したあとには草の一本も生えない」とか言われている)がすごい出来で、点数もすごくて、オラオラ具合にくらくらしちまった。次に始まった高橋大輔の最初の一連の動きでどこかホッとしてる自分がいたよ(このシークエンス、会場の歓声もすごかった)。今、高みに挑もうとして一点に集中しているリンク上の羽生くんはすごく孤高で、怖いなとすら思ったりする。調子がいまいちだろうと、いつでもリンク全体をぐるり眺める余裕のある高橋ってすごいんだなと改めて思う。

フリーでは後半、息切れの見られた羽生だけど、スピンで転倒したあと、オラオラから醒めて素に戻り、ホヨンと笑ったあの顔。あれが、弱さではなくていたいけに映るところが彼の恐るべき個性。あの一瞬で全俺が萌えたよ…。高橋のフリーは徐々に上がってきてるんだろうけど、10月のジャパンオープンがいちばん感動したという不思議な事態になっている。でも、スコアはどうあれ、高橋って偉大だな、と思えた試合だった。といっても、今後スコアも上がりますように。

フリーで妙に気になったのはハビエル・フェルナンデス。ジャンプがあんなに乱れるなんて、どうした。前日、滑走順が羽生の直前だったんで、キスクラにコーチ(オーサー)が来ずひとり、という場面があった。ハビーはそこで肩をすくめておどけてみせてたんだけど、あれって彼の明るさであると同時に気遣いでもあるのかなーという感じがして、六分間練習中にオーサーと羽生が話しているのを見て自分は退いた、みたいな情報もあったし、今回、会場が仙台だということもあったのかもしれないけど、うーん…まあ邪推、杞憂ですよね。ファイナルではぜひ気張ってほしい。ロス・マイナーのフリーは感動的でした。昨年のNHK杯でも総合3位だったこともあって、TLが必要以上の(?)祝福の声で沸きあがってた、気持ちわかります(笑)ケヴィン・レイノルズのフリーも良かったな。

ところで地上波組としては、テレ朝やフジの放送で煽りVTRが激しかったり放送人数が少なかったりするのには、もはや慣れてるところがあるんだけど、NHKでそれをやられるとはなぜか微塵も想像してなかったのでした。女子SPは全員放送してくれたけど、男子SPは録画で6人。男子のライブ時間って相撲やってるんだよね・・・・。フリーも同様。女子フリーでは、7時のニュースとかぶっちゃって今井遥が割愛されるという衝撃の事態。時差ないのに! 国内でやってるのに! こちとらしっかり受信料払ってるのに! 落ち込み甚だしかったのでした。