『平清盛』 第42回「鹿ケ谷の陰謀」

今週はクランクアップのニュースがありました! ネットでいくつかの写真と記事を見ただけですが、松山ケンイチは何かひとまわり大きくなった印象。や、もちろんもともと長身だけど、坊主頭も手伝って、何かこう、みそぎを終えたっつーか、復員か、または、出所してきましたっつーか…(笑)。いや、見てるこっちも感無量、って話ですよ。

こんな目出度い場でさえ視聴率のこと聞くんだ!鬼畜!!て思ったけど、松ケンが堂々とした答えを返しててね〜。見てない人や、チラッと見てやめちゃった人にとっては負け犬の遠吠えにしか聞こえないんだろうけどもさ。「光栄です」だって。なんか清盛入ってる答えだよね(笑)。その答えを、全国の清盛ファンや、一生懸命に持ち場をこなしたたくさんのスタッフや、途中で出番を終えていった共演者たちも、みんなうれしく、誇らしかったはずだし、同時に、そんなにも数多くの人々を背負って世間という矢面に立つのが大河ドラマの主役なんだよなーと改めて思った。松山さん、おつかれさまでした。残り10回足らず、心して見させてもらいます、と心の中で拝礼。

…といったそばから、戦慄すべき芝居を見せてくれた松ケンさんである。こわいよぉぉぉ。まず、後白河法皇の御前で「山門を討て」と命じられるシーンの、表向きにこやかだけれど容易に動きそうにない、まさしく慇懃無礼な演技が大物らしい。福原でひとり、畳のベッドみたいなところに座ったり横臥したりしてる姿もいいけど、おうちに帰ってのモリモリ会議で棟梁の座にある姿もやはりいいですね。赤い法衣がたっぷりと波打って、座ってるだけですばらしい存在感です。あの場面では、いろいろあったけどいつもと変わらず皮肉げなリアリストとして発言している時忠がなんだかいじらしく感じられたりもした。

ていうか、平氏を討つのに「まずは清盛をおびき寄せる」って、それおかしいでしょゴッシー! 京―福原なんて当時は特急で移動できるわけでもなし、清盛が出てくる前に蝶よ花よと宴に明け暮れて腑抜けになってる六波羅に、とっとと奇襲でも仕掛けたほうがいいんじゃないかと思うんだが(あるいは福原に暗殺者を送り込む)、どーしても清タンを目の前でけちょんけちょんにしないと気が済まないゴッシーなのであります。しかも、そのために、わざわざ山法師の親玉・天台座主をとっ捕まえて流罪に処すって(絶句)。清タンのためならエンヤコラ〜、ってとこか。

えーと、鹿ケ谷で成親が言った「瓶子(へいし)が割れた」は、いちお、平家物語なんかから持ってきてるエピソードですから。先週の、政子の「爪切り!」「…髭切だ」っていう創作ギャグとはわけが違って、鹿ケ谷といえば、「瓶子が割れた」で、瓶子が割れなければ鹿ケ谷じゃないんです。twitterとか見てたら、「何あれ、寒い」って声がチラホラあったんで、やぶ蛇ですが書いときます。

事を起こす直前、経子がやってきたのは史料にもあるんですかね? 創作? ちょっとわからないんですが、成親と西光が義兄弟であったこと、平氏と家成とのいい関係、そこから遥かに隔たった現在とを思い起こさせて、なかなかいいシーンだったと思います。西光さんもよかった。鹿ケ谷で、とり憑かれたように瓶子(へいし)の首を叩き割り続ける姿も、養父を思い出して心から偲んでいる様子も、どちらも西光なんだよね。あと、私、経子さん贔屓だし。ま、いくら兄妹だからって、身分高い女性が外出するのはとっても珍しいことなのに、立ち話ですませるか?!と突っ込みたくはなったけどね。

というわけで、義父の盛大な法要を計画するようなできたお婿さんなんですよ、重盛って。だから多田行綱が密告に来た場面では、清タンの怒りというよりも、成親の名を聞いた瞬間の重盛の反応が怖くて。そしたらもう、思ったとおりにド衝撃を受けてる重盛がいるではありませんか(泣)。そこであられもなく狼狽しちゃうところが良くも悪くも彼の清さで、だけどそんな重盛だからこんなにも心をもっていかれるのだー。

で、事が露見したのち、清盛が西光の顔を踏みつけ、にもかかわらず西光が清盛を面罵する…というのは有名なエピソードなんでやるだろうとは思ってましたが、そこに清盛の来し方行く末をドスンとかぶせてくるとはねー。相変わらずうまいよねー。怖かったー怖かったよー(←喜んでるくせに)。

清盛がちょっと手を挙げたのを合図に西光をリンチし始める郎党たち。しかし西光、黙らない。清盛、「無頼の高平太!」でピクッと眉がわずかに動き、「おまえの国づくりなんて復讐だ!」と言われて「復讐・・・?」このちょっと笑ってる顔が超怖かった。そして天狗のようなダッシュで縁の下に降りて(このダッシュ最高)、蹴る、蹴る、蹴る! 西光はもはや死を覚悟しているのだろう、言わずに死ねるかとばかりに、蹴られながらも、言葉の限りを尽くして罵る、罵る、罵る!

それが、ことごとく清盛の痛いとこを突くんですね。「王家に復讐したいだけ!」「野良犬!」「どこから来てどこへ行くのかわからないもの!」「公卿のふりしててもこれが本性だ!」エトセトラ、エトセトラ。

清盛にしてみたら耐えられないわけです。父の時代の武士の不遇。血のつながりのない平氏の棟梁となるまでの己の葛藤や、家族の苦悩。弟の死。鳥羽と崇徳とを取り持とうとしては挫折し、あげく叔父を斬ったこと。同じ夢を見た信西を失い、共に立ちたかった義朝を失い・・・敗れた者、志半ばで死した者、その痛みの上に自分があることに清盛が常に意識的なのは、「白河院の伝言」の回、夢の中で彼が吐露していた通り。清盛の「頂に立つ」志には、死んだ彼らに報いたいという思いが強い。

それは誰とも共有できない、清盛がひとりで抱えるしかなかったもので、清盛にしたら、「西光、おまえに何がわかる!」て話。だけど、思い当たるところがあるからこそ、人はあんなにも激昂もするわけで…なんせ客観的に見て、最近の清盛は断然おかしくなってるんで、視聴者の側も、西光の糾弾にちょっとだけ頷けるんだよな。結局エゴじゃん、と。まったく周りが見えてないじゃん、と。そこを西光が指摘してくれて、それであんなにも怒るってことはやっぱり全然自覚なかったんだね、と、ちょっと変にスッキリもしました。ここんとこ、ほんと清盛がつかみにくかったからさ…。

でも、悲しいよね。松ケンも加藤虎ノ介さんも迫真の演技だもんで、うわって感じに痛いんだけど、痛ければ痛いほど悲しい。ここは「平清盛」お得意の対比で、頼朝の覚醒と交互にやってたから、「俺は乗り越える。乗り越えてこその武士だ! …指をくわえて見ておれ!」の回想もやるわけよ。そうやって、一心に進んできた結果が、今こうして明日を見失い、抵抗するすべもない者をボッコボコにしてる姿って…ほんとに悲しい。悲しすぎる。大河でこんなに壮大な悲しみを感じるのはいつ以来でしょうか。

こんなにも凄いシーンがあればこそ、背景がもっとしっかりしていればなあ、と惜しむ気持ちもひとしおです。鹿ケ谷の陰謀って、いったいなんだったんでしょう。歴史の流れをさらっただけでは、そこに至る流れってわかりにくいんですが、このドラマでもそうだった。

西光も成親も、敗れれば身の破滅なわけです(成親は重盛というコネをあてにしてたにしても、さすがにただではすまないことぐらい想像できるよね)。多田行綱ふぜい(ドラマでも明らかに雑魚キャラ)の軍勢で倒すつもりだったのか? ドラマでは頼政にも内応を迫ってたけど、彼だって山法師に腹筋さんを奪い返されるぐらいの武力しかないんでしょ? (あ、ここで、ちゃんと金覚・銀覚が登場しててなんか良かったですね。なんか妙に愛着がわいちゃってますよね。)

成親が重盛の官位に嫉妬したり、誰かがちょいちょい流罪になったりしてるけど、そういう人事権、統治機構はどうなってるんだろう? こないだは、家電関白と弟が朝廷の合議の結果みたいな感じでもってきてたけど、治天の君たる後白河にそれを拒否する力はないのか? 後白河の力で成親を公卿に任ずることはできないの? 後白河院側と、帝を擁する朝廷との力関係は? そして朝廷の中での平氏の位置は? 山門と清盛との関係はこのころ本当に良好だったの? 東国武士たちの勢力図は?

飛ぶ鳥を落とす勢いだった平家が急激に衰えていく…という展開は誰でも知ってます。ならば、「どうしてそうなったのか?」というのが最大のミステリーじゃないんでしょうか。少なくとも私の興味の対象はそこにあったんだよね。まああんまり難解にやっても歴史のお勉強みたいで、ドラマとして面白くなくなるんだろうけどさ、その辺がいよいよのっぴきならなくなったからこそ、切羽つまっての鹿ケ谷、そしてその後の政変だろうと思うのに、なんか、簡単に大事件に至っちゃうんだよなあ。盛りあがれない。

人物から読み解いていこうとしても、これまで散々、日和見主義で保身にいそしむ姿が描写されてきた成親がクーデターを決意する心境はイマイチわかんなかったし、ゴッシーにしても、「清盛とぞくぞくするような遊びがしたい」気持ちは重々伝わってきますが、決定的な決裂をどうして望むのかわかりません。むしろあなたほど清盛の長寿を望んでいる者はいないのでは、って感じなんだが。そして清盛。清盛があんなふうになってしまった理由は、わかるようで、わかりません。というか、一生懸命、理解に努めようとして、やっとなんとか…てぐらい。

そういうわからなさや薄さが、最近けっこう苦痛なんだよな〜。清盛ファンのみなさんはこの回をかなり激賞されてますが、私は、清盛vs西光の対峙には“ぞくぞくするのう”だったものの、うーん。エンターテイメントとしての問答無用の面白さを感じられなくなってきました。どうやら私、清盛の良い視聴者ではなくなってきたようです。悲しい。

源氏にしても、杏さんの演技はほんとに好きなんですけど、政子、一から十まで喋りすぎ。「髭切=武士の魂」というところまで彼女に言われなきゃわかんなかったか。義朝と由良は泉下で泣いてるぞ。鹿ケ谷=清盛の落日と、源氏の「明日はあっちだ!」を対比させたくてここまで引っ張ったのはよくわかるんだけど、もうほんと、やっとか!て感じ。

ま、政子と頼朝の駆け落ちを大河で見たのは初めてだったので、それだけでもうれしいもんだよね。山木兼隆って名前も出てきて、うおー!て感じだった。小学生のころに貸本で読んだ歴史マンガを思い出したよ…。山木と結婚させられそうになった政子が豪雨の中をやってきて、ふたりで手に手を取って、どっかの寺か神社みたいなところに逃げ込んでかくまってもらうんだよね。来週、行くのかな。あと、ふたりを見守ってる塚本くんの藤九郎が、なんともいえずよかった。

そうそう、かつて、清盛「もうそなたでよい!」、義朝「おまえも生むか? 俺の子を」を“ろくでもない求婚”とナレーションで称していた頼朝のプロポーズは楽しみなところでしたが、答えは「連れて行ってくれ、私の明日に」でした。爆笑! ほんとこういうとこはきめ細かい脚本だ。

そして来週の予告…! 来週はたぶん、尋常ならざるテンションでの感想をアップすることになるかと思います。うわーーーん!