『身ひとつの今が幸せ』 冨士眞奈美

身ひとつの今が倖せ (知恵の森文庫)

身ひとつの今が倖せ (知恵の森文庫)

冨士眞奈美さんに対する特別な思い入れはない。出演作、と言われても思いつかないほどだ。ただ、岸田今日子吉行和子、そして冨士眞奈美が仲良し3人組で、その中ですでに物故した岸田さんが「眠女」という俳号で多くの句を残していることは知っていた。図書館でこの本を手に取って思ったのは、「へぇーこの人も俳句やってたのか。さすが友だち。岸田さんの影響かな」なんてこと。失礼ながら、いかにも孤高の表現者といった感のある岸田さんと違って、冨士さんて非常におばちゃんらしいおばちゃんといったイメージ(見た目の話です)だったので、俳人、というのがいまいちぴんとこなかったのだ。

いやー失礼しました、おみそれしました。著作も数多い冨士さん、俳句にしても、何十年という、くろうとはだしの腕前。俳号は衾去。衾=ふすま=寝間を、去る。思わせぶり〜。セクシィな意味なのかしらん?

雑誌に連載していたエッセイをまとめた本だから、特に自伝的な色あいを持っているわけでも、彼女の芸事に限っての叙述でもなく、肩ひじ張らずに身辺雑事を書いた…というていではある。しかしそれも何年も続いたものを読むとなると、進行中の仕事の話あり、若い日の思い出話あり、娘との日常生活あり、社会の大事件についての述懐あり、老母の入院そして逝去ありと、さまざまな角度から「ある女の半生」とでもいうべきものが立ちあがってくるようで、すごく興味深かった。文章の随所に添えられている、古今の俳人(本人も含む)による句や、歳時記を読むにつけても心地よし。

俳句って、やってみたいことのひとつだ。