2012 ロンドンオリンピック: 8月6日【陸上競技】

今夜の陸上担当はフジテレビだったんだけど、良くも悪くもまあフジクオリティな放送であった。CMが多い、煽りVTRが多い(しかも同じやつを複数回流す)、スタジオへ戻ることが多い。平井アナを見るためじゃなくて、陸上選手を見るためにチャンネルを合わせてるんだぞー!(でも織田さんなら許す)。ま、スタジオの解説は為末さんなんで、興味深い話も聞けるわけだが。

良かったのは、各競技ごとに画面下のテロップで有力選手一覧を出すこと、スタートリスト等、外国選手の名前をすべてカタカナ読みにしたテロップを出すことかな。アルファベット表記では読めない名前もいっぱいあるもんね。覚えておきたい選手の名前がカタカナで出てくれると助かる。

さて競技です。昨日の男子100m決勝の余韻も冷めやらぬ中、もう200mが始まった! どの大会でも、最初は「やっぱり陸上の華は100だよな〜」と思って見てるんだけど、200が始まると、「やっぱり200は距離が倍あるから、スプリンターたちの美しい走りが倍の時間、堪能できていいな〜」ってなります。

●女子200m予選: 100mと選手がかぶりまくってます。そして100の有力選手はやっぱり200でも有力。

麗しのアリソン・フェリックスも長らく100と200を兼ねてきたんだけど、去年のテグ世界陸上では100ではなく、400にチャレンジし、陸上ファンをわくわくさせた。結果は200が銅、400が銀(立派!)。今回は100に戻って、その100の決勝で自己新を出した。あのー、そんなコロコロ種目を変えて、よく世界のトップレベルを保てますね。トップレベルだからこそできることなのか…。ともかく、「100mに取り組むことで切れ味が戻ってきた。200も期待できる」と解説・朝原さん。

一流のアスリートが皆そうであるように、彼女にもいろんな名言がある。私が好きなのは

世界記録を樹立するために、練習に励んでいるわけではありません。練習によって最も素晴らしい選手であり、人間になりたいと思い練習に励んでいるのです

かっけー! まあそう言いつつ、今季、200のベスト記録を持ってるのはフツーに彼女なんだがね…。

ちなみに、100も200も世界記録をもっているのは、いまだにフローレンス・ジョイナーなんだよね。もう20年以上破られてない。日進月歩のスポーツ界において、これはすごいことだ。

そんなアリソン、200の第1ラウンド。朝原さんに解説してもらおう。「ゆうゆうと走ってますね。すばらし。彼女の場合、加速さえうまくいけば後半に落ちることはありませんから、自信をもって走ってます。あれだけリラックスしながらも推進力がすごいのは、フォームが固まっている(しっかりしている)ということ。100mの疲れはありませんね」 アリソンの走りって本当にしなやかで伸びやかで美しいのだ。あと2回は見られる…リレーも当然出るよね…うれしい…☆

さて、その前後も、100のメダリストたちが順当に予選通過していったんだけど、100の決勝を終えてのコメントを随時紹介してくれたのがうれしかった。日本人選手以外のコメントを聞く機会はなかなかないから。カルメリタ・ジーター(米)は「2位だったけど、今シーズンのベストだった」。今日の200予選は、長袖長タイツのまま走ってた。100の激戦を堪え抜いた体を、ここではまだ保護してる。ま、それでも余裕の1位でしたが。今さらですがアメリカは今回からユニフォームが変わった。紺地に赤い地でUSA、を今でも探してしまう。今は、赤地に紺。(前のがかっこよかったような・・・)

ベロニカ・キャンベル・ブラウン(ジャマイカ)、100のレースについては「うまくいった」。そして獲得した銅メダルについて、「私のコレクションにまたひとつ加わったわ」てのがかっこいい〜! そらもう、いろいろ持ってるもんね、100とか200とかリレーとか…。言ってみたいわ、そんなこと。200予選は3位通過。いっぱいいっぱい、という感じ。「疲れてるのかもしれませんね」と朝原さん。

シェリー・アン・フレイザー(ジャマイカ)。「もっといいレースがしたかった」。金メダリストが唯一、反省の弁を口にしたというのは面白いですね。200予選もぶっちぎり。あと、昨日400で悲願の五輪金メダリストになったサンヤ・リチャーズ(米)も200に登場! 400走った翌日に200って、むちゃくちゃきついような気がするんだけど、なんか予選全組とおして一番のタイムで通過していっちゃったよ? 別に競ってたわけでもなかったが…。朝原さんも「今日は力を抜いてくるかと思ったんですが、1位通過にこだわったんですかね」と苦笑。姉さん、かっこいい!

福島千里はジーターの組で7位に。100のときと同様、自身の良いところを出せずに終わってしまった。でも、為末のコメントがよかったな。「僕らの時代、五輪の短距離に女子が出るなんて考えもしなかった。彼女は先駆者。世界の扉は何度もノックしないと開かない」。

●男子400m決勝: ファイナリスト8人にアメリカがいない!!! どーした!!! そんで10代がワンツーフィニッシュ! 新時代…新時代だ…! 1位グレナダのジェームズ、2位ドミニカのサントス。彼らの黄金時代が続くんですかね。双子のボルリー兄弟は5位と6位だったけど、先頭とはかなり差があったな。

1位のタイムは43秒94。マイケル・ジョンソンの世界記録43秒18ってどんだけ偉大なんだ。これも10年以上破られていない。アメリカ奮起ー! ちなみに、同じくマイケル・ジョンソンはかつて200mの世界記録ももっていて、これは「向こう100年は破られない」といわれたものだったが、北京でボルトが破っちゃいました。ボルト自重www(嘘よ、もちろん)

●男子400mハードル決勝: これは400mとは対照的に、ドミニカ共和国の英雄、大ベテランのフェリックス・サンチェスが戴冠! 走り終わった後、大声で二度、三度と咆哮したあと、ユニフォームの胸内から家族の写真を出してトラックにおき、キスしてた。2004アテネの金メダリスト。スタジオの為末も感無量といった様子。かつて彼がしのぎを削っていたライバルたちのひとりであり、しかも為末より年上だもんね。「故障から長いこと大舞台から遠ざかり、一度は終わったと言われた人だった」 北京王者のテイラー(米)は5位。地元イギリスのグリーンは4位。なんか大舞台に弱い印象のあるカーロン・クレメント(米)は8位。

●女子400mハードル準決勝: あっ、久保倉さんて予選通過してたんだー! ごめんなさい。前の記事、なおしとかなきゃ。メライン・ウォーカーがここで消えた。デュマスもあんまりいい走りじゃないらしい。決勝どうなる!? ところで久保倉さんが予選のあとに言ってた「切り替えがうまくいかなかった」の意味が、今日初めて分かった。400mハードルでは、ハードル間の歩幅を、後半、「切り替える」らしい。疲労がたまる後半は、歩幅を増やすってこと。

●男子100m表彰式: 勝負のためではなくても、ボルトが姿を見せるだけでスタジアムは大歓声。金メダリストとして名を呼ばれると、両手を上げ、ぴょん、と両脚同時に表彰台にのぼるボルト。昨日の女子100の表彰式でも聴いたばかりなもんで、ジャマイカ国歌、覚えちゃいそうだ。しかし、のぼってゆく国旗を見つめ、国歌を小さく口ずさむボルトに、昨日のフレイザーのような、えも言われぬ笑みはない。何を思ってるんだろうな。内村くんが「ここが本当にオリンピックの表彰台なのか、信じられない気持ち」と言ったように、あまりの感慨深さが逆に無表情にさせているのか。それとも、またすぐに始まる次の戦い、彼いわく「伝説になるための」戦いが心にあるのか。200の表彰台での彼がどんな顔をするのか、比較したいなと思う。そのためにはもちろん、200の表彰台でも、一番上に上がってもらわなきゃいけない。

ところで、昨日一日、いろんな番組で決勝のリプレイを何度も何度も見た。まあそのたびにボルトの速さには感動するんだけど、やっぱりあの一部始終をライブで見るってのがいかにコーフンするかだよな、と思った。彼を始めとするファイナリストたちがトラックに姿を見せ、ウォーミングアップし、ジャージを脱ぐ。スタートラインでひとりずつコールされるときには、すでにみんな、妙にフェロモンすら感じる闘気をむんむんと発している。轟音の会場がいっせいに静まり返り、低い体勢の「On your Mark」から号砲。一瞬のレースののち、レース前よりさらに大きな歓声を送る観衆の中でのウイニングラン…。 

●女子砲丸投げ決勝: 公式戦24連勝中とかいうニュージーランドのアダムズが絶不調。さすがの超人は絶不調でも20mを超える投てきを続けて2位はキープしてるんだけど、彼女が欲しいのは金メダルでしかないから、終始、表情は硬い。「こっちも決して調子が良くはないんですよ。“手投げ”になってます」というベラルーシのオスタプチュクが、結局、優勝した。おお、アダムズ、汝も五輪の魔物に魅入られしか。最終6投目で中国の選手を大逆転し、ロシアのコロドコが銅メダル獲得。投てきや跳躍種目には、走る種目とはまた違った「試合感」があってドキドキする。
 
●女子棒高跳び決勝: こちらもドキドキのゲーム。気温が低いのでみんな防寒に気を使っているらしく、ジャージを脱いでポールを持っても、まだ腰巻をしてる、て選手も見られた。

さて、女子棒高跳びの顔といえばもちろん、五輪の華たるエレーナ・イシンバエワだ! 4m30から始まる決勝だが、30も45もいち早くパスを表明した彼女は、ジャージに腰巻、さらに顔にはタオルを乗せ、足を上げて寝転がるという完全防備を決め込んでいるのに、むちゃくちゃ長いこと撮られてますから! もはや彼女の、「出番待ち」を見るのが棒高跳びの醍醐味…。

けれど4m55から決勝の試合を始める彼女に、「ジャージを脱いで準備し始めるのが早い。ずいぶん焦っているように見受けられます」と解説者。案の定・・・というように4m55は失敗。けれど、「悪い跳躍ではありません。風が変わったので、ポールが合わなかった」ということらしい。はたして、審判に次の跳躍ではポールを変える旨、申請するエレーナ。オリンピックともなると、どんな競技もかくも繊細である…! 

55は再び跳ばぬまま、4m65にバーを上げるエレーナ。そこも、次の70も、一発クリア。だけどこれらは解説者いわく「彼女の悪い時の跳躍」で、確かにクリアしても彼女に笑顔はない。彼女ほどのレベルになると、多少、悪い跳躍でもそれぐらいの高さは出る。そして、周りの有力選手は、「おいおいエレーナさん、調子が悪くても一発かよ!」というプレッシャーで、自分の跳躍のフォームを崩す…。調子が良くても悪くても強い影響を与える、さすが女王である。

けれどやっぱりエレーナはリズムに乗れない。自身が4m75に失敗し、他の2選手が先にその高さをクリアすると、もう二度は跳ばず、バーを80cmに上げる。この辺の駆け引きは本当に息詰まるものがある。結局80は誰も跳べないまま、順位が確定した。米国のジェニファー・サーが金。キューバのシルバが銀。エレーナは銅メダルだった。

5mを超える自己ベスト(もちろん世界記録)をもっているエレーナ、しかも数ヶ月前の前哨戦(室内選手権らしい。どんだけ天井の高い室内…?)では5m1を成功している彼女が、80すら跳べなかった、てのがシロウト的にはほんと驚きなんだけど、それが勝負というものなんだろうな。3度目の失敗で試合を終えた彼女が、すぐに吹っ切れたような笑顔で観客の声援に投げキッスを送り続ける姿が印象的だった。

長らく絶対的な女王だった彼女が負ける姿を、近年、何度か見た。最初のとき、彼女は両手で顔を覆い、マイクを向けられても言葉も出ないような混乱の中にあった。けれど今日のゲームは、彼女にとって不可解な敗北ではなかったのだ。彼女は自分がベストを尽くしたことを知っている。

イシンバエワ、3連覇をめざす戦い。マスコミもファンも、そろってこの試合をそう位置づけていた。でも北島康介同様、彼女にとってはやっぱり、「それよりも、自分との戦い」だったのかな。ちなみに、女性で五輪3連覇を果たしたアスリートはいまだ存在しないらしい。最低8年、世界のトップでいること。その難しさがわかる。

何年も試合を見ていると、新星が王者になり、皇帝とよばれるまでの強さを持ち続ける過程を見ることができる。けれど同時に、王者が負ける姿を見ることにもなる。それは寂しいんだけど、けして幻滅することはないし、なんというか、とても深遠な気持ちになる。永遠に続く黄金時代はなく、黄金時代が終わっても、競技人生を続ける選手はたくさんいるし、その中で、ある選手は再び輝きを放ち、ある選手はひっそりと引退する。スキャンダルにまみれる選手もいる。そして競技人生が終わっても彼/彼女の人生は続く。

●女子3000m障害決勝: このレースのハードル、高さは75cm(女子)で普通のハードルと同じなんだけど、ひっかけても倒れない。つまりひっかかると必ず自分が倒れることになるから、すごくリスクが高い。水濠は、一番深いところでは水深70cm。幅は3mもある。つまり水のリスクを軽減するためには幅を持って跳ばなければならない。ほんと、地獄のようなレースだ。「あんなハードル、誰が考えたんだろうと思う」という為末(元ハードラー)に笑った。

以前から、この種目に妙な愛着をもっている。もし自分が陸上選手だったら、これをやってたんじゃないかと思う。それも、「3000m障害をやりたい」っていうんじゃなく、ほんとはもっと華のある種目をやりたいんだが、「もっと短いのにも長いのにも抜きんでた才能があるわけじゃなし、かといってどっちも嫌いじゃなさそうだし、この種目は競技人口も少ないから、ニッチ狙いで行け」なんて顧問に指示されて転向するような形で(実際、この種目にどうやって選手が集まってくるのかは知りません。あくまで想像です…)。

で、数少ない同僚にしてライバルたちと、100やマラソンやハイジャンプを横目で見ながら、「いいよねー、あっちは、いつも客も多いしスポンサーもついてるし」「てか、いちいち靴が濡れて傷み安くて不経済」とかこぼしつつ、なんだかんだいって、いつしか自分の種目に愛着を持ってるっていう・・・。休みの前日には、「3000m障害の何たるか」について熱弁をふるいつつ酒を飲んでるっていう・・・。

そんな妄想をたくましくしながら、今日も見る。前回女王・且つこの競技の第一人者・ガルキナは途中棄権し、しかし同じくロシアのザリポワが代わって戴冠した。Qちゃんと同世代のベテラン・早狩は今回見られず、日本人の姿は予選にもなかった。やはり、私が行くしか・・・(←不敬)