『平清盛』 第26話 「平治の乱」

ふむ。サブタイトルは『わが友、信西』とでもいうべき今回だった。「平清盛は友を見捨てはせぬ!」でしたっけぇ? すっかり老獪な政治家に変身しつつあった清盛が、私情もあらわに突っ込もうとする姿に、ちょっと鼻白まなかったでもない。

「できる子」重盛くんが言うとおり、客観的に見ると、信西にさんざん利用されたあげく捨てられ、あげく父親まで斬らされた義朝の恨みは深く、謀反もむべなるかなといったところなのよね。そしてこちらも重盛くんの案のとおり、信西の始末を義朝に任せたあとで都に入り、デブ頼さんらアホ貴族たちを討って源氏とも対決すれば、あらまあ結果的に漁夫の利を得るのは平氏ってことになるじゃありませんか。

そういう陰謀論のほうが、歴史ドラマとしては盛り上がるので、「そうか、友か、友だちだから助けるのか…(沈黙)」て感じはね、ありましたよね。

でもまあ考えてみれば、人間、30になろうが40になろうが、友、という言葉があまりに青ければ、同じプロジェクトを推進している同僚が、また別の少年時代からの友だちに殺されそうになってると聞けば、慌てますよね。同僚が多少ワーカホリックで独断専行の気があるからといって、みすみす「あれじゃ恨みもかうわ、命を狙われてもむべなるかな」と受け止めきれないよね。もちろん、清盛は信西の「国づくり」に賭けていた、という部分も描かれてはきたのだし。

おまえ、叔父さんを斬らされたのは忘れたのか、とも思うんだけど、「それでも揺らがぬ清盛と信西の紐帯」を示す為に、このドラマでは昔から縁があって友だちだったんだ、という関係を丁寧に描いていたわけで。友だちだなんて全然史実じゃないよ、というなら、それをいうなら史実では叔父さんと清盛(というか忠盛とも)はとっくの昔から疎遠だったのだ。

武士といっても、彼らの時代では盗賊とか海賊とかいう無法者を討つのをメインにしていたのであって、為朝にしろ忠盛にしろ、あれほど王家の犬として使われながら、やんごとなき方々に刃を向けたことはないし、皇族貴族の政敵同士だって、呪詛することはあれど(?)、首をとるなんてことはなかったのだ。やっぱり、保元の乱はものすごいターニングポイントで、後白河帝(当時)が「新しき世の始まりである」と言ったとおりだったんだな。それが今(平治の乱)につながっている、という感じがするなあ。

その後白河院についても今回は筆を割かれず、まんまとデブ頼さんの言うがままに避難し、ていよく幽閉されちまったわけなんだけど、そこでも妙に悠々としてる姿はよかったですね。お姉さんの上西門院統子さんとの2ショットが見られたのもうれしかった。次回以降、デブの愛人(イチャコキ相手)の裏切りに激怒するのか、手ごわい“遊び相手”たる清盛や美福門院にすりよっていくのか、彼の動向が楽しみでしかたない。

まんまと近衛大将の位をモノにしたデブ頼さん他、キモ貴族たちの宴は傑作でしたね。黒い塚地さんをたっぷり堪能。成親役の吉沢悠のせりふまわしが異常にうまい。鎌倉悪源太こと義平のアホっぽさも良かったです。

平氏居残り組の会議もおもしろかった。森田剛くんの、やさぐれてふてぶてしいんだけどフラットな視座から冷静に物事を見ている感じ、周りに軽んじられてもへらへら笑ってる感じの役づくりがすごくいい! 清盛の弟、三盛・四盛*1はいつもどおりでした。五盛こと頼盛が叔父さんの死に拘泥して半信西派なのは頷けるんだけど、深キョンの一喝にすぐさま恭順したのが「おっ」て思った。こちらも忠正−宗子の関係を踏襲して、兄には反抗しても、美しい義姉には頭が上がらない設定なのかしら。

源氏の、為朝、義平、乳兄弟の正清。平氏の、三盛、四盛、五盛、盛国など、登場人物は多いですが、(名前は覚えにくいにせよ)ひとりひとり特徴がとらえやすくて、それでいて無理がないというか、こういう奴いそう、って感じでうまいよね。二条天皇の「何が起こっているのじゃ」の一言での存在感も見事(笑)

さて、これまでの大河ドラマで、数々の女優さんの一喝、大喝を聞いてきました。近いところでは、「篤姫」における稲盛いずみや宮崎あおいの「静まれ!」、去年は鈴木保奈美宮沢りえの「静まれ!」、風林火山池脇千鶴の三条夫人のつめたーい「退がれ」も絶品でした。今回の深キョンの「静まれ!」もなかなかの迫力。時子のああいうシーンは初めてだった。時子といったら、あの時子なんだから、これからどんなふうに平氏のゴッドマザー化していくのか、こちらも注目。

で、信西。彼が穴に入るのは既定路線(笑)だったわけで、どんなふうに入って、そして出ることになるのかと見ていたんだけど、師光グッジョブすぎる…! 加藤虎ノ介って今回初めて認識した。wikiったら、『不毛地帯』で小雪の婚約者だった人ね?!すげー感じのいい役だった。 あと、「龍馬伝」にも井上聞多=のちの馨役で出てたのね。

この師光が、腹黒キャラっぽく登場したのに、すっかり信西に心酔しちゃって、今回はもう、彼が次々に見せる表情が信西の悲劇を5割増しくらいに増幅させてて、涙を誘われたのである。そして彼は西光となり、鹿ケ谷へつながっていくのよね…ワクテカってこれね!!!

今週は回想シーンの多さもちょっと気になって、こういう手法で大イベントの真っ最中にやたら感傷を誘うのはどうかなと思ったんだけど、信西さん御自身はもちろん熱演で、やたらきれいな目で穴に入っていき、衰弱するにしたがって弱気になり、清盛の幻に満面の笑顔、そして穴からひきずりだされてから最期までの芝居には心拍数がどんどん上がっていった。なんとここいらの芝居は、朝に途中まで撮って、昼から出演中の舞台に行って、劇場がハネてから夕方もう1回NHKに来て(もちろん扮装=カツラもつけなおして)、続きを撮ったというから驚く。『リーガル・ハイ』の堺さんもそうだったけど役者のエネルギー、バイタリティーというものにつくづく驚かされ感動させられる大河である。阿部サダヲ、必ずまたおもしろみのある役で大河に出てね。

先週、名もない民衆を屋敷に呼んで施しを授けるシーンに苦言を呈したんですが、あの晒し首のシーンで納得させられたよね。首を見上げて拝む民衆の表情になんともいえずリアリティーを感じた(って、そんなリアル見たことないけど)。嘆いたり悲しんだりしつつも、怖い、おそろしいという顔でもあって。そしてそこにやってきた松山ケンイチがショックを受ける顔もすごかった。悲しいとかショックとか、とても一言では表せない表情だった。

そうそう、この脚本のことだから、信西は最後にまた「誰でもよーい!」て言うんだろうな〜と思ったら、「清盛どの、助けてくれ…!」だもんなあ。そうくるか、と思ったよ。清盛と信西、ラブすぎ。そんで、義朝と清盛もラブすぎ。

義朝は、ワイルドながらも終始苦虫をかみつぶしていた保元の乱のときとも違う、ふっきれた表情。もう失うものは何もないんだもんね(涙)。ただ清盛と戦うことしかないんだもんね。彼が三条殿を最初に襲ったとき、「女子どもといえど容赦するな!」というシーンをやってたのは、この大河らしいですね。宇梶さんの源頼政も今後に期待させる面白いキャラだ。

そして、次世代の御曹司。重盛の窪田くんが本当にすばらしいよね〜〜〜! ドラマ好きの人たちに、彼がこんなにも愛されるわけがわかる。割舌はいいし、表情は繊細だし、あんだけ喋ってるのに、せりふがせりふじゃないみたいに聞こえる。かわいいけど精悍。大人になって出てきてたった3回目なのに(しかも先週はほぼ出番なし)、あんなに聡明で心根もまっすぐなのに、苦労しそうな雰囲気ぷんぷん。

対する頼朝のほうは、今週、やたらと顔は映るんだけどその表情から心中は読みとれず、一言のせりふもないっていうのも面白い対比だった。父のやることをじっと見ている彼。来週はどうなんだろう。父親同士はまちがいなく、「ライバルと書いて友と読む」的、清く正しい少年漫画的な戦いを繰り広げるわけですよね〜

*1:教盛、経盛。名前がいつもどっちがどっちかわかんなくなる